日本では、三権分立を基本に国家作用の在り方が決められています。ただし、皆さんのなかにも内閣の仕事の実態がイマイチわからない方は少なくないと思います。
ここでは、内閣の仕事について一覧でまとめます。
内閣の仕組みについても、公務員試験では問われやすい分野の一つです。国会の役割とどのように異なるかも意識しながら、記事を読んでみてください。
内閣の仕事の一覧
内閣は、三権分立の行政にあたります。行政の定義は、国家作用から立法と司法を除いた残りを指します(控除説)。
つまり、行政には幅広い仕事が任されています。内閣の仕事は、憲法第73条でまとめられています。
第73条
内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二 外交関係を処理すること。
三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。
四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。
五 予算を作成して国会に提出すること。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。
この条文を参照しながら、主な職務内容を紹介しましょう。
法律を執行する
行政の仕事は、法律を執行することです。日本にはさまざまな法律が定められていますが、これらの規定に従って事務を行わなければなりません。
基本的に法律を執行するのは、国務大臣(各省庁大臣)です。そのため、内閣の仕事よりかは国務大臣の仕事として捉えられています。
仮に納得の行かない法律があっても、勝手に執行を止めるのは許されません(一時的でも不可)。違憲扱いされない限りは、遵守しながら仕事する必要があります。
外交関係の処理
外交関係の処理も、内閣の仕事として捉えられています。こちらは外交事務に限らず、交渉や外交使節の任命・罷免、アグレマンが該当します。
アグレマンとは、外交使節を派遣する貰う際に相手国からの承諾のことです。世界の国々と良好な関係を保つための重要な役割を担います。
条約の締結
外交において、もう一つ欠かせない要素が条約の締結です。風土や価値観の異なる外国と関係を結ぶためには、お互いにルールを定めておかなければなりません。
「条約」と憲法に記載されていますが、国家間の文書による合意であれば全て該当します。協約や協定、議定書も含むと考えてください。
条約を締結するうえでは、原則として事前に国会から承認を得るように定められています(タイミングによっては事後も可能)。
ただし、条約も全てについて国会から承認を貰う必要はありません。あくまで必要とされるのは、批准(最終的な確認・同意)が発行の要件となっているもののみです。
具体的には、以下の3点が国会の承認を貰うべき条約に該当します。
- 法律事項についての条約
- 財政事項についての条約
- 国家間の基本的な関係を規定
すでに結ばれている条約を運用するための技術的・細目的協定は、国会の承認が必要ありません。私法上の契約と認められるものも同様です。
このように、条約の内容によって運用の仕方が変わってくると押さえてください。
官吏に関する事務
官吏とは、行政事務の仕事を担う国家公務員のことです。内閣の仕事には、国家公務員法に基づく事務も含まれています。
県職員や市職員といった地方公務員は、吏員となるので当該条文には該当しません。
また裁判所職員や国会議員も、広く捉えれば公務員の一種ではあります。しかし、官吏にはこれらの職員も含まれないと考えるのが一般的です。
予算の作成・提出
予算の作成や提出も、内閣にとって重要な仕事の一つです。国が1年間しっかりと運用できるように、予算の取り決めをしっかりと行わなければなりません。
これらが内閣の仕事とされているのは、専門的でスピーディーな作成が求められるためです。予算の内容については、国家と財政の立場より下記のリンクで紹介しています。併せて参考にしてください。
政令の制定
内閣では、政令の制定も仕事の一つとされています。政令には、まず執行命令と委任命令が存在します。加えて、省令や規則も政令の一種です。
これらは法規ではあるものの、国会で定める法律とは異なります。したがって、憲法の規定を直接執行する(法律の役目を果たす)ような政令は制定できません。
「国会は唯一の立法機関である」という原則が成り立たなくなるためです。
行政法の分野で説明しているので、詳しくは以下のリンクも参照してください。
恩赦に関する内容
恩赦も、行政が執行する仕事の一つです。恩赦には、大きく分けて以下の種類があります。
- 大赦
- 特赦
- 減刑
- 刑の執行の免除や復権
これらは全て、皇室で何かお祝いごとがあったときに一定の範囲の罪を許すことです。大赦は有罪判決の効力を失い、特赦は有罪判決の言い渡しが取り消されます。
恩赦の認証については、天皇の国事行為とされています。しかし、決定権を持つのは内閣です。
国会と内閣の関係
国会と内閣の関係があまり理解できていない方もいるでしょう。日本の場合は、制度上違いを把握できないのは仕方ない部分ともいえます。その理由を紐解くとともに、国会と内閣の関係を解説しましょう。
議院内閣制を採っている
日本では、立法機関と行政機関は議院内閣制を採用しています。国会の信任のもとに内閣が存在し、内閣は国会に対して責任を負うとする考え方です。
日本は三権分立を採用している国であるものの、権力が完全に分立しているようなアメリカ型のタイプではありません。
立法と行政は深く結び付いており、司法だけが独立しているような状態となっています。この考え方は、イギリスが起源とされています。
議院内閣制のメリットは、国会を通して国民の意見が行政に反映されやすい点です。民主主義の実現に繋がることが期待されています。
国家の役割
議院内閣制の日本において、国家の役割とされているのが内閣の暴走を防ぐことです。
基本的に、内閣は行政権として幅広い権力を持っています。仮に現行の内閣がふさわしくないと感じたら、不信任案の決議によって総辞職に追い込めます。
無論、不信任案の決議が可決されたら衆議院も解散になるケースもあります。しかし、どちらにせよ内閣は最終的に総辞職しなければなりません(状況次第では続投は可)。
このように国会と内閣は相互に結び付いており、上手く行政権を行使できなかったら共倒れするシステムです。権力自体は分立しているものの、完全な三権分立ではないと理解できるでしょう。
衆議院の解散と内閣総辞職の内容については、以下の記事で紹介しているので押さえてください。
内閣の構成
国会と内閣の関係は、内閣総理大臣や国務大臣の構成に大きな影響を与えています。
議院内閣制を採っている日本では、国会の多数派政党が内閣の仕事も兼任しています。今は自民党と公明党が与党となっていますが、首相や国務大臣も基本的に同党の人間です。
内閣総理大臣は、国会議員の中から任命されます。国務大臣も、過半数は国会議員の中から選ばなければなりません(参議院議員も可)。
このことからも、国会と内閣はそれぞれ密接な関わりを持っていると理解できます。
まとめ
今回は、内閣の仕事について一覧で紹介しました。下記で再度まとめるので、どのような種類があったかを再度振り返ってみてください。
- 法律を執行する
- 外交関係の処理
- 条約の締結
- 官吏に関する事務
- 予算の作成・提出
- 政令の制定
- 恩赦
基本的には三権分立を採っているため、国会と内閣の仕事は異なります。
しかし、議院内閣制を採用していることから双方は深い関係を持っています。内閣のトップは、基本的に国会議員として選ばれたメンバーで構成されるのがポイントです。
公務員試験のみならず、生活に必要な知識として押さえておくのをおすすめします。