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衆議院の解散と内閣総辞職の違い|仕組みをわかりやすく解説

岸田首相政権が続くなか、世間では解散選挙が話題になっています。もし首相が辞任する際には、大きく分けて衆議院の解散と内閣総辞職の2パターンがあります。

この記事では、両者の違いと仕組みについて解説します。公務員試験受験者に加え、政治に興味のある方はぜひ参考にしてください。

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衆議院の解散とは

衆議院の解散とは、文字通り衆議院の議員を一度リセットする制度のことです。議員の地位を失わせ、再度選挙を行います。

日本国憲法下(戦後)では、これまで衆議院の解散は合計で25回なされました。吉田茂内閣の「バカヤロー解散」や中曽根内閣の「死んだふり解散」と有名な例も多数あります。

衆議院の解散について、具体的な仕組みをわかりやすく解説しましょう。

衆議院の解散の制度と限界

衆議院の解散の権限は内閣にあるものの、根本的には民主主義によって成り立っています。そのため、内閣は要件がない状態で解散権を行使できません。とはいえ例外規定も多いので、戦略的な解散もできると捉える見方もあります。

基本的には、憲法第69条に定められている以下の要件が必要です。

  • 衆議院で不信任案の決議を可決
  • 信任の決議を否決

他にも政界再編や基本政策を根本的に変えるとき、新たな政治課題への対処が必要になった場合などに解散が認められています。

任期満了による解散

上記で紹介した内容のほかにも、衆議院の解散は任期満了によるものも存在します。憲法で規定されている衆議院の任期は4年です。4年が経過したら、当然のように解散が義務付けられます。

とはいえ、日本国憲法の下では任期満了による解散は1回しかありません(三木内閣によるロッキード解散)。

大日本帝国憲法時代を含めても、計5回と極めて少ないのが特徴です。実務上では、任期満了の前に何らかの理由で衆議院の解散が行われることがわかります。

意義や効果

衆議院の解散が行われる意義は、今後の内閣の運営について国民に意見を求めるためです。効果が発動されると衆議院議員はその資格を失い、参議院も同時に閉会となります。

そこで国民の声に委ねるべく行われるのが解散総選挙です。

衆議院の任期は4年と定められています。仮に岸田首相が解散の判断をして、再度自民党が勝利した場合はもう4年弱政権を握ることができます。

衆議院の解散を実行するタイミングが、長期政権を実現するうえで重要な要素の一つです。

解散権を行使できる主体は、内閣のみと考えられています。衆議院に解散権を持たせると、解散反対派(少数派)の議員の地位を多数派が奪う構図になってしまうためです。

解散権の主体の根拠

解散権の主体は内閣のみとするのが通説ですが、こちらもさまざまな考え方が存在します。学説の違いを捉えつつ、衆議院の解散の仕組みを押さえてください。

69条に限定される説

まず、押さえてほしい学説が衆議院の解散を憲法第69条に限定すると考えるものです。憲法第69条について条文を紹介しましょう。

第69条

内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない。

出典:e-GOV

つまり、こちらの学説では上記の条文に当てはまる場合のみ解散できるとされています。その理由は、解散権の規定が他には存在しないためです。

ただし、解散はあくまで国民の民意を問うという目的で行われます。制限を加えるのは、民意を反映させる方法も限られてくるでしょう。

さらに憲法第69条にも「この規定に限定すべき」といった記載はありません。民主主義と矛盾してしまうといった批判がなされています。

7条説(通説)

衆議院の解散の主体を決める根拠として、通説とされているのが7条説です。こちらは憲法第7条3号を根拠としています。当該条文の内容は以下のとおりです。

第7条3号

天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

 衆議院を解散すること。

出典:e-GOV

実際に衆議院の解散が行われると、天皇の国事行為として内閣が助言と承認をするのが慣習となっています。7条説は形式的には天皇が、実質的には内閣が解散権を行使する状態が望ましいとする考え方です。

しかし、日本国憲法は国民主権を軸にしています。日本の象徴である天皇に、決定権を認めさせるのは憲法の主旨に合わないといった批判もあります。

65条説

憲法第65条を、衆議院の解散の根拠にする説もあります。

第65条

行政権は、内閣に属する。

出典:e-GOV

この条文に求める理由は、立法機関も司法機関も解散権を持たないためです。行政の定義は、国家作用から立法作用と司法作用を除いた残りと考えられています(控除説)。

それぞれの機関は解散権を持たないことから、憲法第65条で内閣に属すると考える説です。

一方で控除説は、解散権を持つか否かを決める要素にはならないとも批判されています。

制度説

制度説は憲法の条文ではなく、議院内閣制や権力分立制のような制度に根拠を求める説です。

日本国憲法では、国会の信任をもとに内閣が成立し、内閣は国会に責任を負うとする議院内閣制が採られています。その一環として採用されているのが権力分立です。

こうした制度によって、衆議院の解散も根拠付けられていると考えています。

しかし議院内閣制を採っているか否かを捉える判断要素の中には、解散権の在り処も含まれています。解散権の根拠を議院内閣制にあると捉えるのは、この考え方に矛盾します。

加えて、議院内閣制の仕組みも複雑であり、意味を一つに絞れるものではありません。これらの理由が、制度説の批判となっています。

 

 

内閣総辞職とは

首相が辞職する方法として、衆議院の解散以外にも内閣総辞職があります。主に内閣総辞職の要件とされているのは次の3点です。

  • 内閣不信任後10日以内に解散しない
  • 内閣総理大臣が欠けた
  • 衆議院議員総選挙後の初の国会召集

それぞれの記載を踏まえて、仕組みと衆議院の解散との関係性を説明しましょう。

衆議院を解散と選択

内閣不信任の決議がなされたあと、内閣は衆議院を解散するか、総辞職するかを決めなければなりません。

もし衆議院を解散しなかったら、総辞職という形で次の総理大臣を決めます(新内閣総理大臣の任命)。なお内閣総理大臣の指名や任命のルールについては、下記の記事を参考にしてください。

この場合、現在の内閣総理大臣は衆議院が解散されるまで、再度総理大臣の役職には就けません。したがって、再度指揮を採りたいと考えているときは衆議院の解散を普通は選びます。

内閣総理大臣が欠けた

内閣総理大臣が欠けたことも、総辞職の要件となります。一般的に欠けたとは、次のケースを指します。

  • 死亡
  • 失踪
  • 亡命
  • 国会議員の資格を失う

永続的な事情が該当し、病気や一時的な失踪に関しては該当しません。しかし、病気を理由に自ら内閣を辞職することもあります。

自ら辞職するケースも、内閣総理大臣が欠けた要件に含むとするのが通説です。

仮にこのような事情が生じた場合、あらかじめ指定されていた国務大臣が臨時総理として役目を果たします。臨時総理は必ず1人でなければなりません。

総選挙後の国会で必ず解散

衆議院の解散を選んだ場合、内閣の総辞職は避けられると捉えるのは大きな間違いです。

たとえ内閣が衆議院の解散を選択しても、内閣総辞職を避けられません。こちらも憲法第70条に規定されています。

憲法第70条

内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。

出典:e-GOV

このことから、どちらを選択しようが行き着く結果は同じともいえます。衆議院の解散を選んだとしても、仮に次の内閣総理大臣に任命されなかったら首相を続投できません。

 

双方の制度の違い

衆議院の解散と内閣総辞職は、どちらも内閣総理大臣が一度立場を下りるという点では同じに思えます。しかし、両者の概念は全くもって異なります。

衆議院の解散と内閣総辞職の違いについて詳しくまとめましょう。

要件の違い

衆議院の解散との違いとして、まずは要件が挙げられます。

衆議院の解散の場合は、議員全員が資格を剥奪されます。その条件の一つとなるのが、不信任案の決議の可決と信任案の決議の否決です。加えて、政策の観点からみた要件が追加的に含まれます。

一方で、内閣の総辞職の場合は内閣総理大臣と国務大臣がその地位を失います。国会議員の資格が奪われるわけではありません。

そのため内閣総辞職は衆議院の解散の要件以外にも、内閣総理大臣が欠けた場合にも認められるのが特徴です。

病気などを理由に、自ら辞職するケースも珍しくありません。過去にも安倍総理や池田総理など、病気によって辞任した方は多く存在します。

このように、内閣総辞職は衆議院の解散よりも要件が多い点で違いがあるといえます。

過程の違い

衆議院の解散と内閣総辞職の選択により、新内閣が誕生するまでの過程も変わります。

不信任案が可決されてから10日以内に衆議院を解散すると、40日以内に総選挙が行われます。内閣総理大臣がいない状態を作らないために、この期間は現行の内閣が変わらず仕事を続けます。

総選挙が終了したあとは、特別国会を開かなければなりません。特別国会を召集するまでの期間は30日です。通常国会と被る場合は、同時に開いても問題ありません。

特別国会が終わったら、内閣はそのまま総辞職となります。そこで新しい内閣総理大臣が任命され、新内閣として成立するのが一般的な流れです。

仮に10日以内に衆議院を解散せず、内閣総辞職を選んだらすぐに新たな内閣総理大臣を選びます。

リスクの違い

衆議院の解散と内閣総辞職では、リスクの違いが顕著に現れます。衆議院の解散の場合は、次の選挙で多くの議席を獲得すれば総理大臣の続投も可能です。

このようなルールを上手く利用して、衆議院の解散を実行するケースも少なくありません(無論、要件を無視してはいけない)。

一方で、内閣総辞職を行うと現在の首相は座を譲らなければなりません。つまり、引き続き政権を握ることができなくなります。

総辞職を選択したところで、結局任期を経過したら衆議院を解散する必要があります。今後支持率が低下しそうと判断したら、早めに解散してもう4年の任期を得るのも方法の一つです。

 

まとめ

今回の記事では、衆議院の解散と内閣総辞職の違いについて解説しました。内閣不信任案の議決が可決されると、基本的に内閣はどちらか一方の制度を採用します。

しかし、両者の違いは要件や過程に留まっており、最終的に内閣総辞職する部分は変わりありません。

ただ衆議院の解散をすると、選挙の結果次第では内閣総理大臣の続投も可能です。こうした制度の違いもあり、両者ではリスクが異なります。

そのため、衆議院の解散のタイミングが内閣にとって重要な判断の一つになります。

今回の内容は、高校の政治経済でも出題される範囲です。公務員試験の過去問で解けなかった方は、高校の教材に戻って勉強を進めるのをおすすめします。