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債務不履行の履行遅滞と履行不能とは?強制執行についても解説

公務員試験の民法において、押さえておくべき基本的な内容が債務不履行です。債務不履行のパターンとしては、履行遅滞や履行不能が挙げられます。

仕事やプライベートでも、これらの内容は絡んでくるシーンもあるかもしれません。

この記事では公務員試験の受験者が理解しやすいように、履行遅滞と履行不能に違いについて詳しく解説しましょう。

 

債務不履行とは

債務不履行とは、債務者が債権者に特定の給付を行わないことです。民法第3編(債権)の第2節(債権の効力)、第1款に規定されています。

仮に債務者が債務を履行しない場合、債権者は損害賠償請求や契約解除などの対応が可能です。

債務不履行には3パターンがありますが、ここでは履行遅滞と履行不能を詳しく見ていきます。

 

履行遅滞とは

履行遅滞とは、債務者による債務の履行が遅れていることです。例えば2023年10月まで引渡し予定だった車が、2024年1月に届くような状態が該当します。

履行遅滞の内容について詳しくチェックしましょう。

履行遅滞の要件

履行遅滞の要件は、以下の3点です。

  • 履行期に履行可能だった
  • 履行期に履行しなかった
  • 履行しないことに違法性あり

まず、要件の一つとして履行可能だった状態にあることが求められます。先程の車の例も、普通に仕事していれば期日までに間に合った場合は履行遅滞に陥ります。

ちなみに、履行期に履行できなかった場合は債務者側が立証しなくてはなりません

履行遅滞に陥る時期

どのタイミングで履行遅滞に陥るかは、債務の種類によって変わります。

  • 確定期限付債務
  • 不確定期限付債務
  • 期限の定めのない債務

確定期限付債務の場合は、その期限が到来したときに履行遅滞となります。上の車の例も「2023年10月まで」と期限が設定されているので、こちらの種類に該当するでしょう。

不確定期限付債務とは、期限自体はあるもののいつ訪れるかは分からない債務のことです。例えば「親が亡くなったら土地と建物を渡す」場合が該当します。

不確定期限付債務は、以下の2つの中でより早い方が履行遅滞となります。

  • 期限到来後に履行の請求を受けた
  • 債務者がその事実を知った

期限の定めのない債務とは、契約時に期限を定めないで生じた債務のことです。原則、履行の請求を受けた場合に履行遅滞へ陥ります。

しかし、金銭消費貸借契約(お金の貸し借り)の返還債務では「催告後に相当期間を経過する」ことが求められます。現物とは異なり、すぐに準備できるとは限らないためです。

他にも不法行為に基づく損害賠償であれば「不法行為時に履行遅滞」に陥ります。

これら2点の例外はしっかりと覚えてください。

 

履行不能とは

履行不能とは、債務を履行できない状態になることです。例えば、Aさんが購入するはずだった家が火災に遭って消失したとします。

家はすでに燃えてしまっているため、現実の引き渡しができません。

もし家を引き渡す義務を負っていたBさんの過失によって消滅した場合は、債務不履行となります。Aさんは損害賠償請求もできますし、契約の解除も可能です。

一方で、火事の原因が雷などの自然災害の場合(双方に責任がないケース)は、危険負担の問題となります。

旧民法では、危険負担は債務者に有利な制度を採用していました。つまり、家は消失したものの家を渡す側(債務者)はお金を貰える権利が残るルールでした。

とはいえ、この制度では家が倒壊したのにお金を払い続ける債権者が非常に不利な立場となります。そこで、新民法では金銭支払いの履行を拒絶できるよう改められました。

ただし、金銭を支払う債務(反対給付債務)自体が消滅するわけではありません。あくまで拒む権利が与えられているのみです。

双方に責任がない場合は契約の解除が可能なものの、損害賠償の請求はできません。

 

履行遅滞中の履行不能

履行不能が履行遅滞中に発生した場合は、民法第413条の2として別途定められています。こちらは民法大改正により、新設された条文です。

履行遅滞中については、仮に履行不能となると債務者側が責任を負う形となります(帰責事由が債務者にある)。期限通りに履行していれば、不能に陥ることもないからです。

当然の内容ではあるものの、重要な部分には変わりないので押さえておきましょう。

 

 

受領遅滞とは

債務者は期日どおりに履行したものの、債権者が受け取らないケースもあります。この場合の法律関係は、大きく以下の2種類に分けられます。

  • 法定責任説
  • 債務不履行説

それぞれの内容と、受領遅滞にかかる判例を紹介しましょう。

法定責任説

法定責任説とは、債権者が履行に一定の協力を必要とする考え方です。あくまで「協力」の文字を使っており、拒んだとしても債務不履行は生じません

ただし、受領の協力には一定の義務が生じるため、何らかの不利益があっても仕方ないと捉えています。

法定責任説の立場では、受領遅滞の要件は次のように示されています。

  • 弁済の提供があった
  • 履行の受領を拒むor受領できない

債務者は、受領遅滞の状態でも弁済の提供をしたと判断されます。

他にも、供託によって今後の提供から逃れることも可能です。一方で、債務者側の受領遅滞を理由とする契約の解除はできません

債務不履行説

債務不履行説は、債権者が履行に協力しない場合は債務不履行の責任を負うとする説です。こちらの考え方は、民法1条の信義誠実の原則に則っています。

債務不履行説の立場の場合、受領遅滞の要件は次のとおりです。

  • 弁済の提供があった
  • 履行の受領を拒むor受領できない
  • 債権者に帰責事由がある

帰責事由は「責任が帰属する事由」と言い換えられ、債権者に責任がある場合に受領遅滞が発生すると考えます。

硫黄鉱石の売買契約で売主が拒絶した事件では、最高裁は債務不履行として損害賠償責任を負わせました(最判昭和46年12月16日)。

 

履行の強制

最後に履行の強制について確認しましょう。読んで字のごとく、こちらは債務を強制的に履行させる規定です。民法の第414条に規定されています。

まず、民法では基本的に債権者の自力救済を禁止しています。自力救済禁止の原則については、以下の記事にも取り上げているのでチェックしてください。

仮に債務が履行されず、強制的に実現させたい場合は民事執行法の手続きに則る必要があります。

民事執行は書面で申し立てを行い、裁判所(主に執行官)が対応します。履行の強制の方法として、以下の3点が挙げられます。

  • 直接強制
  • 代替執行
  • 間接強制

それぞれの内容をチェックしましょう。

直接強制

直接強制は、強制執行の中でもオーソドックスな種類の一つです。名称のとおり、債務者の財産に対して直接的な実力行使をします。

例えば、債務者の所持品を競売にかけてお金に換えるなどの方法があります。直接強制ができるのは引渡債務の場合に限られているので注意しましょう。

代替執行

代替執行とは、債務者に代わって第三者の人物が債務を履行することです。債務を履行するにあたり、必要となった費用は強制的に債務者に支払わせます。

代替執行ができるのは、代替的行為債務がある場合のみです。代替的行為債務の例としては、建物の収去義務が挙げられます。

「建物を撤去してくれ」と言われたところで、何の資格もない住人が1人でできるわけはありません。そこで、解体業者に収去作業を行わせ、その作業にかかった費用を債務者が支払います

また憲法の内容で習う、謝罪広告の債務についても代替執行が認められる例として認められました。事件の内容は、下記の記事で取り上げているので確認してみてください。

間接強制

間接強制は、債務を履行しない債務者に対して罰金などを科させるタイプの強制執行です。経済的な制裁を与えることで、履行の強制を狙います。

間接強制が認められる債務の種類は幅広く、引渡債務や行為債務に加えて不作為債務も認められます。

不作為とは、本来やるべき行為をしないことです。建物の修理が必要なのにもかかわらず、それを怠ったために一部が倒壊して人を巻き込んだケースが挙げられます。

 

まとめ

今回は、債務不履行の内容について履行遅滞と履行不能をまとめました。

まずは、債務不履行が大きく分けて3つの種類があることを押さえてください。その中でも、この記事では履行遅滞と履行不能の2種類を紹介しました。

こちらの内容は、公務員試験のみならず日常生活でも起こりうる話です。公務員試験の勉強を目的にしつつも、実生活に生かすべく内容を勉強してみてください。