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自働債権と受働債権とは?相殺の仕組みをわかりやすく解説

皆さんも、日常生活で「相殺する」という言葉を聞いたことがあるでしょう。相殺は、行政書士試験の民法でも重要な用語の一つです。

この記事では、行政書士試験に一発合格した筆者が、相殺と自働債権および受働債権の定義を解説します。行政書士試験を受験される方は、ぜひ最後まで読んでみてください。

 

相殺とは

相殺の仕組みについてわかりやすく説明した図

相殺とは、お互いの債務を意思表示によって消滅させる行為です。民法では、第505条から第512条の2にかけて条文が定められています。

たとえばAがBに対して、10万円を貸していました。本来、Bは借りた10万円を期日までに返還しなければなりません。

しかしBは以前Aに対し、10万円を貸していたことを思い出しました。この場合は、お互いに10万円を貸しているので、相殺してそれぞれの返済義務をなくすことができます。

 

自働債権・受働債権とは

自働債権と受働債権の仕組みについてわかりやすく示した図

相殺に関する内容では、しばしば自働債権と受働債権の用語が出てきます。実際の試験でも、これらが混同しやすくなるので注意しなければなりません。

なお自働債権・受働債権を記述する際には、「働」を「動」と書かないように注意してください。ここでは、それぞれの債権の内容をわかりやすく解説します。

自働債権=相殺する側の債権

自働債権とは、相殺を主張する側の債権のことです。たとえばAがBからお金を借りたものの、返済が滞っていました。しかしBにお金を貸していたのを思い出し、Aはそのお金で相殺を考えていたとします。

このときは、AのBからお金を返してもらう債権が自働債権となります。「自ら相殺する側の債権」と考えるとわかりやすいでしょう。

受働債権=相殺される側の債権

反対に受働債権とは、相殺される側が有する債権のことです。先程の例を使えば、BのAからお金を返してもらう債権が該当します。

つまり「相殺を受ける側の債権」が受働債権です。自働債権との区別が難しいですが、何度も練習問題にチャレンジしてイメージできるようにしましょう。

 

相殺のルール

相殺は、誰もが自由に主張できるわけではありません。相殺適状になければ、主張が認められないルールとなっています。ここでは、相殺適状の内容を詳しく解説します。

お互いに債権を有している

相殺の条件の一つが、お互いに債権を有していることです。したがって原則は、相殺する側とされる側の間で発生している債権が対象となります。

しかし例外的に、第三者との関係で発生した債権についても相殺が認められるケースもあります。その例として挙げられるのが、以下の2点です。

  • 事前の通知を怠って弁済した連帯債務者Aから求償を受けた連帯債務者Bが、債権者に対する債権を相殺した
  • 事前の通知を怠って弁済した保証人から求償を受けた主たる債務者が、債権者に対する債権を相殺した

とはいえ行政書士試験では、第三者に対する債権との相殺については覚える必要がありません。お互いに債権を有するといった、原則の部分だけを覚えてください。

お互いの債権が同種

相殺は、基本的に双方の持つ債権が同じ種類であることが条件です。相手が金銭債権を有していた場合は、こちらも金銭債権を持つことで初めて相殺が成立します。

とはいえ、債権が生じた原因まで同じである必要はありません。種類さえ合っていれば、別の原因によって生じた債権でも相殺は認められます。

自働債権が弁済期に達した

民法では、相殺が成立するにはお互いの債務が弁済期に達する必要があると定められています。しかし最高裁の判例(昭和8年5月30日大判)では、自働債権が弁済期に達していれば相殺できると判旨されました。

自働債権が弁済期にあるべき理由

期限の利益とは、債務の履行が猶予されている期間を指します。たとえばAとBがお互いに金銭の貸し借りをしており、Aは9月1日まで、Bは9月3日までに返済するとしましょう。

もし8月29日の時点でAが勝手に相殺してしまうと、Bの9月1日まで支払わなくてよいという利益を奪ってしまいます。したがって自働債権が弁済期に達成していないにもかかわらず、勝手に相殺することができないわけです。

受働債権の弁済期との関係

自働債権が弁済期に達していれば、受働債権が弁済期に達していなくとも相殺できます。しかし受働債権につき期限の利益の放棄や喪失によって、弁済期が現実に到来したときが条件とされています(平成25年2月28日)。

先程のAとBがお互いに同額のお金を貸し借りし、Aは9月1日まで、Bは9月3日まで返済する例をもう一度出しましょう。Aが相殺を主張するのであれば、受働債権はBがAから返済を受ける権利です。

期限の利益の放棄は、本来「期限が到達するまで返済しなくてもよい権利」を放棄し、全額相手に返済する行為を指します。相殺を主張する側であるAの期限の利益が失われる分には問題ないので、受働債権は弁済期に達しなくてもよいと考えられています。

ここで考えないといけないのが、受働債権側の条件です。単に「期限の利益を放棄できる」という理由だけで相殺されたら、Aがすでに期限の利益を受けているにもかかわらず、遡って利益を放棄させることを認めてしまいます。

こうした問題を防ぐべく、期限の利益を放棄・喪失し、弁済期が現実に来たことを要件にしたわけです。

消滅時効と相殺

債権は一定期間が経過すると、時効によって消滅します。一方で時効で消滅する前に相殺できる状態であれば、自働債権として相殺の主張が可能です。

債権者が保証人に対して債務を負担していた場合、主たる債務者に対する債権が時効で消滅しても相殺できると判断されています。

時効で消滅した債権を他人から譲り受けたときは、すでに消えてしまったものになるので相殺の主張はできません。

履行地は異なってもよい

お互いの債務の履行地が異なっていても、相殺を主張できます。AとBがそれぞれ北海道と沖縄に住んでおり、お互いが債権を有していたとしましょう。この状態で相殺を認めないと、双方が時間を合わせて互いに弁済しないといけません。

こうした手続き上の負担を軽減するうえでも、別の履行地においても相殺を認めています。しかし別の住所地で相殺をしたために損害賠償が生じたときは、それに応じる必要もあります。

 

相殺が禁止される条件

契約の内容によっては、はじめから相殺ができないケースもあります。ここでは、相殺が禁止される条件についてわかりやすく説明します。

債務の性質上相殺できないもの

債務の中には、性質上相殺できないケースが考えられます。主な例として挙げられるのが、AとBの双方が労務を提供する場合です。

たとえばAがBの書類を整理する代わりに、BがAの荷物を運搬するとしましょう。もし相殺が認められたら、Bの書類は整理されず、Aの荷物も届かなくなってしまいます。

つまりお互いに労務を提供する債権は、現実に履行されなければ意味がありません。相殺は、すべての債務で認められるわけではない点を押さえましょう。

相殺禁止の意思表示がある

当事者間で相殺禁止の意思表示をしたときは、相殺ができなくなります。原則として自由な契約を結べる民法においては、各当事者の意思を尊重する必要があるためです。

一方でAとBの間で相殺禁止特約を交わしたものの、AがCに対して債権譲渡したと仮定します。Cが相殺禁止特約について善意無過失であれば、AはCに対して相殺禁止を対抗できません。

ただしCが相殺禁止特約につき悪意または重過失があったときは、例外的にAは対抗できるとされています。悪意または重過失の人間を保護する価値はないためです。

 

自働債権として相殺できない例

債権の中には、自働債権として相殺できないケースがあります。行政書士試験では、抗弁権について自働債権として相殺できないと覚えておきましょう。

同時履行の抗弁権が付いた債権

同時履行の抗弁権と相殺の関係をわかりやすく説明した図

同時履行の抗弁権とは、相手が弁済するまでは自分も弁済しないと主張する権利です。たとえばAがBに商品を販売したとき、Bが金銭を支払わない間は目的物を渡す必要がありません。

一方で、AがBから商品相当分のお金を借りたとしましょう。この場合でも、Aは自らの返済を逃れるべく、代金債権と相殺することは認められません。

Bの「商品を渡すまではお金を払わない」といった、同時履行の抗弁権を奪う形となるためです。相殺したいのであれば商品をBに引き渡し、同時履行の抗弁権を消滅させる必要があります。

催告・検索の抗弁権が付いた債権

催告の抗弁権や検索の抗弁権が付いた債権も、自働債権として相殺できません。催告の抗弁権は、債権者から返済を迫られた保証人が「まず債務者に催告して」と要求する抗弁です。検索の抗弁権は、債務者の資力を調べるように要求する権利を指します。

仮に催告・検索の抗弁権の付いた債権について、債権者からの相殺を認めてしまうと、保証人はこれらの抗弁を主張できなくなります。いくら相殺されるとはいえ、主たる債務者への催告や検索を要求する権利が奪われるのは理不尽です

したがって催告・検索の抗弁権が付いた債権についても、自働債権での相殺は認められません。保証人の制度に関しては、下記の記事を参考にしてください。

 

受働債権として相殺できない例

反対に受働債権として、悪意の不法行為や人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権が挙げられます。ほかにも差押禁止債権があるので、これらを詳しく見ていきましょう。

損害賠償請求権

損害賠償請求権と相殺の関係についてわかりやすく説明した図

受働債権として相殺できない損害賠償請求権は、大きく分けて以下の2つのケースがあります。

  • 悪意による不法行為
  • 人の生命・身体の侵害

ここでは交通事故を例に出していきましょう。たとえばAがBにお金を貸していたものの、Bからの返済が滞っていました。一方でAは車を運転していたところ、誤ってBをはねてしまいます。

相殺を主張するのがAである場合、自働債権はBへの貸金債権、受働債権はBがAから払ってもらう損害賠償金です。要するにAは、損害賠償金を払いたくないからといって、自身の貸金債権と相殺するように対抗できません。

受働債権との相殺を認めてしまったら、金を返さない腹いせに車ではねるといった不法行為ができてしまいます。社会秩序を守るためにも、必要不可欠な規定といえます。

差押禁止債権

差押禁止債権についても、受働債権としての相殺は認められません。差押禁止債権とは、生活に必要な費用などのように差し押さえが禁止されている債権のことです。

たとえばAが勤めている会社からお金を借りていたものの、返済できずにいました。このケースにおいても、会社はAに支払うべき給料と貸金債権の相殺ができません。相殺を認めてしまうと、従業員Aは最低限の生活を送ることも難しくなるためです。

 

相殺に関するまとめ

相殺は、お互いの債権・債務を意思表示で消滅させる行為です。制度自体はイメージしやすいものの、自働債権と受働債権はややこしいと感じるでしょう。

自働債権と受働債権で混乱しないためには、ひとまず問題文の内容を図で書くようにしましょう。その際に相殺を主張する側の得られる権利が自働債権となります。

相殺は条文だけではなく、判例から出題されるケースも少なくありません。行政書士試験のテキストで紹介されている判例は、最低限目を通してください。