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物上代位権とは?差押えや債権譲渡との関係をわかりやすく解説

行政書士試験を勉強する際に「物上代位権」の意味が分からずに困っていませんか。一見難しく感じる言葉ですが、イメージさえ掴めばすぐに理解できるようになります。

この記事では、物上代位権の定義や債権譲渡・差押えとの関係をわかりやすく解説します。行政書士試験を受験する予定の方は、ぜひ最後まで読んでみてください。

 

物上代位権とは

物上代位権の仕組みについてわかりやすく説明した図

物上代位権とは、担保を設定した目的物が滅失や賃貸、売却されたときに生じる金銭を弁済に充当できる権利のことです。たとえばAが銀行からお金を借りる際、自分の所有している建物に抵当権を設定しました。

さらにAは建物をBに賃貸し、家賃収入を得ています。しかしAは銀行にお金を返済することができず、銀行は抵当権を行使しました。

このとき銀行が抵当権を行使できる範囲には、建物だけではなくBがAに対して支払った賃料も含まれます。要するに目的物(物上)が金銭に姿を変えても、その代わりとして担保物権が及ぶわけです。

物上代位権を行使するには、払渡しや引渡しの前に差押えをしなければなりません。したがってBが賃料を支払う前に、債権者である銀行は差押えを済ませる必要があります。

 

物上代位権と法定担保物権の関係

物上代位権は、法定担保物権と関わりを持ちます。民法で定められている法定担保物権として、大きく分けて以下の4点が挙げられます。

  • 留置権
  • 先取特権
  • 質権
  • 抵当権

行政書士試験の勉強においては、上記の4つに物上代位性があるかで区別しましょう。ここでは、各法定担保物権と物上代位権の関係を解説します。なお法定担保物権については、以下の記事で詳しく説明しているので併せて参考にしてください。

留置権と物上代位権の関係

法定担保物権の中では唯一ですが、留置権には物上代位権が認められません。そもそも留置権は、債務を履行しない債務者の有する目的物を手元に置く権利です。

質権や抵当権とは異なり、物の交換価値から優先的に弁済を受けられるわけではありません。したがって留置物が誰かに売却されても、留置権者はその売却金に留置権を行使できないとされています。留置権の詳しい内容は、以下の記事で紹介しています。

先取特権と物上代位権の関係

先取特権に対しては、物上代位権を行使できます*1。先取特権とは、一定の債権を有する人が、ほかの債権者より先立って弁済を受ける権利のことです。

たとえば日用品の供給につき先取特権を有していたものの、その目的物が売却されました。この場合は売却して得られた費用に対し、先取特権を行使できます。先取特権の詳しい内容は、次の記事を参考にしてください。

質権と物上代位権の関係

質権についても、民法第304条(先取特権と物上代位)の内容が準用されています。質権とは、債務者に金銭等を貸す代わりに、債務者の目的物を占有できる権利です。

たとえば質権者が質権設定者の持ってきた時計を占有しました。しかし質権者の友人が、誤って時計を壊してしまったとします。

本来であれば、時計の持ち主である質権設定者が、その友人に対して損害賠償を請求できます。しかし物上代位が働くため、損害賠償請求権についても質権者が差押えできるわけです。質権の詳しい内容については、以下の記事も併せて読んでみてください。

抵当権と物上代位権の関係

抵当権も質権と同じく、民法第304条(先取特権と物上代位)の規定が準用されています。抵当権とは、債務者が金銭等を返済できなかった場合、抵当権設定者の目的物を競売にかけて充当する権利のことです。住宅ローンが主な例として挙げられます。

たとえば目的物である不動産を債務者かつ抵当権設定者が売却したとき、そこで得られた利益についても抵当権を行使できます。

 

物上代位権と差押え

物上代位権を行使するには、目的債権を差し押さえる必要があります。その際にしばしば問われるのが、一般債権者との優劣についてです。ここでは動産の先取特権、抵当権を例に出しながら説明します。

動産の先取特権と差押え

動産の先取特権者については、一般債権者が差し押さえたあとでも物上代位権を行使できます。そもそも先取特権とは、一般債権者より優先して弁済を受けられる権利のことです。

動産の先取特権には公示方法がないとはいえ、目的債権が第三者に譲渡されていない状態では大して影響はありません。そのため一般債権者が差し押さえたにすぎない場合、先取特権者はそのあとでも物上代位権することが可能です。

抵当権と差押え

一般債権者と抵当権者の差押えの優劣は、一般債権者が申し立てた差押命令の送達と抵当権設定登記のどちらが早いかで決まります。そのため抵当権者は、必ずしも一般債権者に優先して物上代位が認められるわけではありません。

仮に抵当権設定登記をした時点で、一般債権者の差押えが完了したら物上代位を行使できなくなります。

 

物上代位権と債権譲渡

物上代位性を有する債権が譲渡されたとき、物上代位権を行使できるかには争いがあります。債権譲渡の仕組みを解説しつつ、同じく動産の先取特権と抵当権を例に出していきましょう。

債権譲渡の仕組み

債権譲渡とは、債権者が第三者に債権を譲渡することです。つまり債務者からすれば、今後は譲渡した債権者ではなく、譲り受けた第三者との間で債権債務関係が成り立ちます。

債権譲渡が成立するには、譲渡人からの通知または債務者の承諾を必要とします。債権譲渡の詳しい内容については、以下の記事も併せて参考にしてください。

動産の先取特権と債権譲渡

動産の先取特権における目的債権が譲渡されたとき、第三者が対抗要件を備えたら先取特権者は差押えて物上代位権を行使できません。その理由は、動産の先取特権には権利を公示する方法がないためです。

抵当権のようにあらかじめ公示されていれば、譲受人も物上代位権が行使されるリスクを察知できます。しかし公示方法がないと、対抗要件を備えた譲受人は自身が優先して弁済を受けられると思うはずです。

したがって取引の安全を守るべく、動産の先取特権の目的債権が譲渡された場合は、第三者が対抗要件を備えた時点で物上代位できなくなります。なお債権譲渡の対抗要件は、債務者への通知または債務者の承諾が該当します。

抵当権と債権譲渡

抵当権者については、目的債権が譲渡されて第三者の対抗要件が備えられたあとでも、差し押えて物上代位を行使できます。動産の先取特権とは異なり、「登記」という公示方法があるためです。

譲受人からしても、登記されている以上は物上代位が行使されることを認識できます。債権譲渡されたあとに物上代位を行使できるかは、公示方法の有無で区別するとよいでしょう。

 

物上代位権と請負代金

ここでは、動産の先取特権者が請負工事に使用した目的物に物上代位権を認めるかを争った事例から解説します。

請負契約とは

請負契約とは、注文者が請負人に対して仕事の完成を約束させる契約のことです。主な例として、出版社が漫画家に対して原稿を完成させるような契約が挙げられます。

請負人が仕事を完成したら、注文者は請負人に対して代金を支払います。請負契約の詳しい内容については、以下の記事を参考にしてください。

請負代金債権と物上代位の関係

請負代金債権と物上代位権の関係についてわかりやすく説明した図

請負代金債権は、請負人が仕事を完成させたことに対する報酬です。仮に請負人が動産を使用したところで、報酬には何ら関連性がありません。したがって原則として、請負代金債権は物上代位権の対象にはなりません

ただし最高裁判所は、条件を満たしたら物上代位権を行使できると示しています。その条件とは、動産の転売による代金債権と同一視できる場合です。

たとえばAが請負工事に使った機械を、Bに対して売却しました。一方でBは、甲との間で請負工事を行ったことによる請負代金債権を有していました。

本来はAがBから機械の代金をもらえていなくても、Bが甲会社に対して有する請負代金債権について、売買代金の先取特権に基づく物上代位権を主張できません。

しかしBが機械を直接甲会社に設置し、工事を実施したとしましょう。このケースでは、Aから購入した機械を直接甲会社に転売したという見方もできるはずです。

実際には裁判所の判断に委ねられますが、上記の場合は請負代金債権に物上代位権の行使が認められる可能性もあります。

 

物上代位権に関するまとめ

物上代位権は法定担保物権の範囲を勉強するうえで、必ず覚えておきたい言葉のひとつです。先取特権・質権・抵当権に絡んでくるので、しっかりと状況をイメージできるようにしてください。加えて留置権には物上代位権が認められない点も押さえましょう。

また物上代位権の勉強においては、判例の知識も押さえなければなりません。差押えや債権譲渡の関係を中心に、過去問で出題された判例は必ず覚えましょう。

過去問を使う際には、以下のような問題集を使うのがおすすめです。

 

*1:民法第304条:e-Gov 法令検索