担保物権の中でも、極めて紛らわしい権利が質権と抵当権です。どちらも不動産に対して担保を設定できますが、ルールは大きな相違点が見られます。
この記事では、公務員試験受験者に向けて質権と抵当権の違いを紹介します。細かい仕組みを知る前に、まずはざっくりと両者の違いを押さえてください。
質権とは
質権とは、債務者や第三者から受け取ったものを占有し、他の債権者に先立って弁済を受けられる権利のことです。
皆さんが最も馴染みの深いものは質屋でしょう。質屋は自らの所有物を渡し、その分の対価としてお金を借りられる金融機関です。
お金を返済できれば所有物は返還されますが、仮に返済できないと質屋に所有権が移転します。
質権にもさまざまな種類があり、大きく動産質・不動産質・権利質に分かれます。それぞれの内容は、以下の表で簡潔にまとめてみました。
動産質 | 不動産質 | 権利質 | |
---|---|---|---|
具体例 | 宝石など | 土地・建物 | 債権・株式 |
対抗要件 | 継続的な占有 | 登記 | 通知・承諾 |
質権は優先される
質権の特徴は、他の債権者に先立って弁済を受けられることです。その根拠として、民法第304条では先取特権のルールを質権にも提供する旨が定められています。
ただし担保を設定した物が、先取特権の対象になっているケースがあるかもしれません。
このとき動産質であれば、第1順位で弁済を受けられるのがポイントです。一方で不動産の場合は第3順位に立ち、登記済の不動産保存や工事よりは劣後します。
先取特権の仕組みに関しては、以下の記事でも詳しく解説しています。こちらも公務員試験では勉強しておきたい範囲なので、ぜひ参照してみてください。
質権は要物契約
質権を設定するには、債務者から目的物を実際に譲り受けなければなりません。所有物や金銭が動いて、初めて効力が発揮されます。
そのため占有者を変更させる手続きの中でも、実際に物が移動しない占有改定は対象にはなりません。一方で指図による占有移転と簡易の引渡しは質権を行使できます。
なお債務者が代理で占有するのは、民法に定められた質権のルールの中で禁止されています。
占有改定は、以下の記事でも解説しているので参考にしてください。
質権者はいつでも転質できる
質権者は、質権設定者から譲渡された物をいつでも転質にかけられます。転質とは、質権を設定した物を再度質入れすることです。
例えばBがAに対して、宝石の付いたアクセサリーを担保に質権を設定しました。Aはそのアクセサリーを、さらに質屋へ譲渡できます。
担保債権額と存続期間を超えなければ、質権設定者の承諾を経ずに転質が認められます(責任転質)。
この要件に該当しない場合は、質権設定者の承諾を経て転質する形となります(承諾転質)。承諾転質は、特に条件なく認められるのが特徴です。
抵当権とは
抵当権とは、担保の付いた不動産について占有を移転しないまま債権者が弁済を受ける権利のことです。主な例として住宅ローンが挙げられます。ここでは抵当権の基本的な内容を紹介しましょう。
付従性・随伴性・不可分性
抵当権は、被担保債権がなければ成立しません(付従性)。逆に被担保債権が消滅したら、抵当権も消滅するのが基本です。
なお被担保債権を第三者に譲渡すると、抵当権もまた移動します(随伴性)。
抵当権を消滅させるには、全額をきっちりと弁済しなければなりません(不可分性)。少しでも弁済額が残ってしまうと、権利を行使されてしまいます。
このように付従性・随伴性・不可分性の性質を持つことを押さえてください。
妨害排除請求が可能
何の権利も持たない無関係者が、抵当権にかけた不動産を占有しているとしましょう。この場合は、正式に占有している人が妨害排除請求を行使して、土地および建物の明渡しができます。
しかし占有者がなかなかこの権利を発動しない場合、抵当権者にとっても迷惑がかかります。もし優先的弁済を受けるのが難しいのであれば、抵当権者も妨害排除請求の行使が可能です。
さらに妨害排除請求によって、抵当権者自身が直接自己に土地または不動産を明け渡すように請求することも認められています。
地上権や永小作権も対象
地上権や永小作権も、抵当権の対象となります。この場合、地上権設定者に対して承諾を得る必要はありません。
なお借地権についても、地上権に対して設定されていれば抵当権の行使が可能です。一方で、借地権が賃借権に設定されていたときは抵当権を行使できないので注意してください。
質権と抵当権の違い
質権と抵当権の違い、特に不動産質になると区別が難しいと感じる人もいるでしょう。しかし、これらの制度は根本的に仕組みが異なります。どのように異なるか、具体的に述べましょう。
占有権が移動するか否か
質権と不動産の明確な違いは、占有権が移動するか否かです。
質権の場合は、質権者に占有権が移動して初めて成立します。上述しましたが、債務者(設定者)の代理占有は認められません。
不動産質に関しても、質権者側が不動産を使用・収益できる旨が定められています。そのような権利を認めなければ、不動産が遊休資産となってしまい社会的にも望ましくないからです。
一方で抵当権になると、債務者(設定者)側が不動産を使用・収益します。
もし誰かに質権と抵当権の違いを聞かれたら、この占有権の説明をしてあげるといいでしょう。1番しっくりくる回答になるかと思います。
対象となる目的物の違い
質権と抵当権では、対象となる目的物にも違いが見られます。
質権の場合は動産や不動産、権利と対象が広く設定されているのが特徴です。あへんや扶養を受ける権利など、換価できないものに限って規制が入ります。
対して抵当権は、不動産や地上権・永小作権しか権利を行使できません。質権と比べて、範囲が狭くなっている点が特徴です。宝石のような動産は、抵当権の対象にはならないので注意しましょう。
質権と抵当権のまとめ
この記事では、質権と抵当権の違いについて解説しました。いろいろと説明しましたが、今回の内容は以下のようにまとめられます。
- 占有権が移転するか否か
- 担保の対象となる目的物
公務員試験について、質権は基本的な内容を押さえるだけで問題ありません。しかし抵当権は、もう少し噛み砕いて覚える必要があります。
そのため本ブログでは、今後も抵当権の内容を細かく記載していく予定です。公務員試験を受験される方を中心に、民法の勉強をより一層したい方は楽しみに待っていてください。