公務員試験の民法で、特に押さえなければならないのが担保物権です。この分野は、物権の範囲でも難易度が高く、出題される頻度も高いといえます。
今回の記事では、担保物権の4つの種類を紹介します。付従性・随伴性・不可分性の原則についても併せて解説しましょう。
担保物権とは
担保物権とは、他人の所有物を自分の債権の担保に設定する権利のことです。ここでは、もう少し「担保」の意味をわかりやすく解説しましょう。
例えば、皆さんが友人にお金を貸したとします。貸したお金が返って来れば問題ありませんが、仮に返済が遅れると皆さんの生活にも大きな損害が出るでしょう。
そこで、友人の持っている腕時計に担保をかける方法があります。お金が返って来なかったら、友人の腕時計を自分の所有物にする手法です。
このように債権者が背負う損害をカバーすべく、設定されるものが担保です。
4つの担保物権
担保物権には、大きく分けて典型担保物権と非典型担保物権の2種類があります。双方の違いは、民法に規定されているか否かです。
さらに典型担保物権には、4つの種類に分けられます。
- 留置権
- 先取特権
- 質権
- 抵当権
公務員試験では、まず典型担保物権に該当する4つの種類を押さえてください。
留置権
留置権とは、弁済を受けるまで他人の所有物を保有できる権利です。
例えばAが自分の腕時計を、時計屋へ修理に出しました。時計が修理されたにもかかわらず、Aが代金を払わないときは時計屋は返さなくても良いとされています。
後ほど細かく紹介しますが、他人の物を留置しても許可なく使用することは認められていません。留置する際には、善良な管理者の注意(善管注意義務)が求められます。
留置権の内容は、以下の記事でも詳しく記載しているので参考にしてみてください。
先取特権
先取特権は、債権を有しているときに他の債権者よりも先に弁済を受けられる権利です。
Aが亡き父(甲)の葬式を開いたものの、その費用を支払わなかったとします。一方で、Aにはお金を借りている友人が複数人いました。
この場合、葬儀会社はAの友人たちよりも優先して費用の弁済を受けられます。先取特権は、対象の債権や優先される順番が民法に明記されている点も特徴です。
先取特権の詳しい内容は、以下の記事をご覧ください。
質権
質権は債務者から受け取った物を占有しつつ、その物について他の債権者よりも優先して弁済を受けられる権利です。皆さんも質屋を知っていると思いますが、質屋は質権を活用した金融機関となります。
例えば、Aが自分の持っている宝石を質屋に渡したとしましょう。鑑定した結果、Aに10万円を貸しました。
仮にAが100万円を返済できれば、渡した宝石は戻ってきます。しかし返済できない場合は、宝石は質屋に取得される(質流れ)のが主な効果です。
さらに質屋は、他の債権者に優先して宝石を売り飛ばせる権利があります。動産だけではなく、不動産にも設定できる点が特徴です。
抵当権
抵当権は占有を移転させずに、債務者の不動産への使用権に担保をかける権利です。主な例として、住宅ローンの設定が挙げられます。
Aが住宅ローンを設定した場合、家や土地は使用できるもののお金の返済を行わなければなりません。
仮に返済ができなかったら、使用していた家や土地は債権者に没収されます。質権とは異なり、債務者が占有するのがポイントです。
抵当権は性質上、原則として不動産に設定されます。しかし元々備え付けられていたエアコンなど、不動産の付加一体物となっている動産にも効力が及びます。
担保物権の4つの性質
担保物権を勉強する際に、必ず押さえなければならないのが4つの性質です。特に付従性・随伴性・不可分性は全ての担保物権が共通して持ちます。
ここでは、それぞれの性質の特徴について詳しく見ていきましょう。
付従性
担保物権には、原則として付従性を持ちます。付従性とは、そもそもの債権がなければ担保物権も存在しない性質のことです。
ある人物にお金などを貸していないにもかかわらず、その人の所有物に対して担保は設定できません。
原則として留置権・先取特権・質権・抵当権の全てに付従性があります。
しかし抵当権の中でも、範囲が不明確な状態の根抵当権には付従性がありません。債権額が大きく変動し、取り扱いがあまりにも複雑になるからです。
したがって根抵当権は、元本が確定してから付従性を持つと考えられています。
随伴性
随伴性は被担保債権(元の債権)が第三者に移転した場合、担保物権もそのまま移転する性質です。
例えば甲がAにお金を貸し、Aの所有している宝石に質権を設定したとします。仮に甲が乙に債権を譲渡した場合は、質権者も乙になります。
随伴性も付従性と同じく、留置権・先取特権・質権・抵当権の全てにあるのを押さえてください。
ただし、元本が確定される前の根抵当権は随伴性がないと考えられています。
不可分性
不可分性は、全額の弁済を受けるまでは全部の目的物に権利を有する性質のことです。
仮に半分の金額を返したとしても、目的物の半分が担保を解除されるわけではありません。
抵当権がわかりやすいですが、途中まで弁済を続けていても、返済できなくなった時点で担保にかけた家は全て没収されます。
この不可分性も、留置権・先取特権・質権・抵当権の全てが有します(例外も特になし)。
物上代位性
物上代位性とは、目的物が他の債権になった場合でも、変わらず優先的弁済を受けられる権利のことです。
仮に持ち家が火事で消失した場合、その家にかけられた保険金にも抵当権の効果が及びます。債務者は返済ができなかったら、保険金も債権者に回収されてしまいます。
物上代位性は先取特権・質権・抵当権が有し、留置権には認められていません。よく問われやすいポイントになるので、必ず覚えるようにしてください。
留置権 | 先取特権 | 質権 | 抵当権 | |
---|---|---|---|---|
付従性 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯(例外:根抵当権) |
随伴性 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯(例外:根抵当権) |
不可分性 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
物上代位性 | ✕ | ◯ | ◯ | ◯ |
担保物権の3つの効力
目的物に担保がかけられると、債権の種類に応じてさまざまな効力が及びます。代表的な効力の種類が以下の3つです。
- 優先的弁済効力
- 留置的効力
- 収益的効力
それぞれの定義に加え、どの担保物権に与えられるかを紹介します。
優先的弁済効力
優先的弁済効力とは、他の債務者に優先して弁済を受けられる効果のことです。こちらの効力が与えられているのは、先取特権・質権・抵当権となっています。
留置権には優先的弁済効力がありません。そのため留置権として目的物を持っていても、他の債権者が優先されることも考えられます。
留置的効力
留置的効力は債務が全て弁済されるまで、目的物を債権者が自分の手元に置ける効果です。性質上、留置権と質権のみが持つものと考えられています。
単に優先的な弁済を受けられるだけの先取特権や目的物を債務者に使用させる抵当権には認められていません。
収益的効力
この収益的効力は、公務員試験においてはそこまで集中的に抑える必要はないでしょう。担保物権の中でも、効力が認められているのが限りなく少ないからです。
一応説明だけ書いておくと、こちらは債権者が担保にかけた目的物を使用・収益できる効果を指します。
そのため、そもそも目的物を債権者が持つのを目的としない先取特権や抵当権は対象になりません。
留置権は、あくまで他人の所有物を手元に置くためだけの権利です。留置している物を使用するのは認められないので、収益的効力は持たないとされています。
質権の場合は、不動産であれば債権者が使用・収益するのが可能です。しかし宝石のような動産は、留置権のルールがそのまま準用されます。
債務者の承諾がない状態では、目的物を勝手に使用するのは認められていません。
留置権 | 先取特権 | 質権 | 抵当権 | |
---|---|---|---|---|
優先的弁済効力 | ✕ | ◯ | ◯ | ◯ |
留置的効力 | ◯ | ✕ | ◯ | ✕ |
収益的効力 | ✕ | ✕ | △(不動産質のみ) | ✕ |
担保物権の内容整理
今回は、担保物権の基本的な内容を解説しました。まず、担保物権に該当する種類は4つあることを覚えてください。
- 留置権
- 先取特権
- 質権
- 抵当権
さらに担保物権には、4つの性質と3つの効力があります。どの権利が、それぞれの性質および効力を有するかを答えられるようにすることが大切です。
公務員試験に出題されやすいだけではなく、実生活にもこれらの知識は生かせます。公務員試験を突破したあとも、定期的に復習してみるといいでしょう。