我々は、選挙に参加する権利を持ちます。この権利の名称が参政権です。
選挙があるたびに、18歳以上の方はハガキを持って指定された場所で投票します。
しかし、皆さんは疑問に思ったことがありませんか。外国人に参政権が認められているのかと。
ここでは、外国人に対する参政権の有無が争われた判例を紹介します。
- 外国人の地方参政権
- 在外国民選挙違憲判決
それぞれの結論となる部分を押さえ、参政権と外国人の関係性を勉強しましょう。
また、後半部分ではその他の参政権に関する判例も紹介します。外国人と関係ありませんが、ついでに目を通してください。
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参政権とは何か
まず、参政権についておさらいしましょう。この言葉は中学校3年生の公民で習います。
簡単に言えば、「選挙で代表者たる議員(公務員)を選ぶことができる」権利です。最も馴染みのある例が「選挙」ですね。
カッコ書きで公務員とも記載しましたが、実はこの公務員には一般事務職員も含まれています。
ただ、一般の公務員の場合、現実的には国民の選挙で選ばれていませんよね?
その理由は、
『全ての公務員が最終的には国民の信任を受けている』と国民主権の原則を定めたにすぎないからです。
そのため、一般事務職員も理屈上は国民の信任に基づいて選ばれていると考えられているのです。
そう思うと、これから公務員を目指す方は一気にプレッシャーを感じますね。
公務員を目指す方は、あらかじめ肝に銘じておくといいでしょう。
外国人と参政権(判例)
では、参政権と外国人との関係について説明します。
公務員試験においてこの範囲が出題されるとすれば、判例が特に狙われやすい範囲です。
まずは、外国人に参政権が認められているかを解説します。あわせて判例を2つ紹介するため、しっかりと内容を理解してください。
外国人に参政権はあるか
まずは、参政権の基本的な考え方を掘り下げて説明します。
参政権は、原則として国民に与えられた権利です。したがって、外国人が当然に持つものではありません。
ただし、全ての参政権が否定されているわけではないことも押さえましょう。
明確に否定されているものは次のとおりです。
- 選挙権
- 被選挙権
では、反対にどのような権利が認められているかを判例とともに解説します。
外国人の地方参政権
まずは、外国人の参政権と地方選挙の関係性について紹介しましょう。
選挙は国会議員や政党を決めるだけではなく、地方自治体における知事や市長を選ぶものもあります。
かつて地方自治体の選挙に
外国人が参加できる権利を持つかが争われました。
ここでは、平成7年2月28日に出された最高裁判例を取り上げます。
外国人は「住民」に含まれるか
地方選挙は、該当する地域に住民票を置いている方が参加できます。
東京都知事選において、北海道民や沖縄民は投票できません。その地域に住む人は、「住民」と呼ばれています。
しかし、ここで問題となるのは外国人が住民に含まれるかです。当判例は、具体的な答えを出しました。
そもそも、地方自治体は国家を作るうえで欠かせない要素のひとつです。憲法にも、第8章で地方自治をしっかりと定めています。
私も含め、日本の国籍を持っている方は全員が「国民」です。外国籍の方は、日本国民とは扱われません。
そして、国民は国家の構成員であり、地方自治の一員にも数えられます。全員が2つの立場を担うと押さえてください。
この考え方を貫くと、「国民=住民」が成立しなければなりません。したがって、外国人は住民と扱わないのが基本です。
まとめると、憲法が直接外国人に対して地方選挙へ参加する権利を保障したとはいえません。
地方参政権を禁じてもいない
最高裁は、憲法では外国人への地方参政権は保障されていないと判断しました。一方で、全ての外国人に権利を禁止したものではないとも述べます。
この基準となるのが、自治体との関係性です。
たとえ日本国籍を持たなくとも、一生涯を日本で暮らす外国人は存在します。このような方々の呼称が永住者です。
永遠に日本で暮らす以上、住所を置く自治体の動きが生活に影響を与えるかもしれません。
そのため、最高裁は「永住者かつ緊密な関係を持つ」と認められた方に、地方参政権を与えてもいいと述べました。
こちらも、必ず与えなければならない権利ではありません。最終的な判断は、あくまで自治体の裁量です。
国政選挙については、参政権が日本国民に限定されています。国と地方で考え方が変わると押さえてください。
在外国民選挙権制限違憲判決
次に、在外国民が選挙権を持つか否かの事例を紹介します。
在外国民とは、外国に住んでいる日本国民のことです。現代では、仕事の関係で海外に住居を構える人も増えています。
1998年以前は、在外国民に選挙権を与えられていませんでした。後に、裁判で参政権を争うようになります。具体的な内容を詳しくまとめましょう。
在外国民の取り扱い方
在外国民は、あくまで海外で暮らす「日本国民」です。したがって、本来は外国人とは位置付けが異なります。
しかし、日本国民であるにもかかわらず参政権はありませんでした。その要因は、投票できるシステムがなかったためです。
本来、選挙は住民票を基に投票で使うハガキを送付します。さらに、確認も住基(住民票の情報を閲覧できる役場の機材)を参考に作成した名簿で行われます。
つまり、国内に住民票がなければリストに名前を載せられません。このことが原因で、長らく在外国民には選挙権が与えられていませんでした。
一応、在外国民にも選挙権を与えようとする措置は考えていたようです。しかし、なかなか実現に至りませんでした。
最高裁の判決と現在
この訴訟は、平成17年9月14日に最高裁で判決が出されます。
結論から述べると、在外国民に選挙権を与えない対応は違憲と判断されました。
ポイントとなった部分は、海外に住んでいるとはいえども日本国民に変わりない点です。
憲法は、在外国民にも当然に参政権を保障していると判旨します。そして、やむを得ない事情がなければ制約できないと述べました。
ここで、「海外に住所を置いていることが『やむを得ない事情』と認められるか」が議論の対象です。しかし、最高裁は認めませんでした。
なぜなら、地球規模で情報技術が著しく発展しているからです。そこで、在外国民にも国政選挙を認める動きが生まれます。
具体的には、住んでいる地域の大使館へ選挙人名簿の登録を行います。投票方法は、以下のとおりです。
- 総領事館へ赴く
- 郵便で投票する
在外国民にも参政権を与えられましたが、全ての選挙で有効なわけではありません。
2023年時点では、最高裁裁判官の国民審査や地方選挙は対象外です。
このあたりも、今後の動向によっては変わってくるかもしれません。
憲法を勉強する際には、判例六法を使う方法もあります。
公務員試験で絶対に必要なわけではありませんが、辞書の要領で持っておいてもいいかもしれません。
気になる方は、検討してみてください。なお、有斐閣さんの六法は筆者も愛用しています。
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その他判例
ここからは、外国人の参政権とは特に関係がありません。しかし、勉強するうえで重要な判例がいくつも存在します。
我々の参政権にも影響があるため、あわせて覚えてしまいましょう。
在宅投票制度廃止事件
選挙では、かつて重度の障害者のために在宅で投票できるシステムを導入していました。
しかし、在宅投票では不正を行う者も現れるためにこの制度は廃止されるようになります。
ある時、障害を患った方は投票所に行くことができず、6度にわたって投票ができませんでした。
この在宅投票を復活しなかったことが憲法に違反するのではないかと争いますが、判例は憲法に違反しないと判断します。
理由は、国会議員は個人のためではなく社会全体のために仕事を全うするものだからです。
憲法でも、在宅投票を認めるべきという見方がありません。これらを総合的に捉えて判断されました。
三井美唄労組時間
この事件は以前もブログで紹介しました。こちらの記事ですね。
ただ、前回はさらっとしか紹介しなかったので、今回はもう少し掘り下げましょう。
北海道に美唄市という市があります。この地域で選挙が行われ、労働組合の反対を押し切って1人の組合員が立候補しました。
その方は、統制を乱したとして組合から処分を受けてしまいます。そこで、当処分が違法だと訴えを起こしました。
結論としては、労働組合の下した処分が違法と原告が勝訴します。ただ、ここでは以下の点に注意が必要です。
組合がある目的のために「立候補を思いとどまるよう説得する」だけなら違法ではありません。
あくまで組合にも説得する権利は持ちます。しかし、その説得を超えた処分は下せません。憲法15条に選挙権の記載があります。
憲法15条1項
公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
被選挙権(選ばれる側)の規定は、憲法に直接明記されていません。一方で、同じように保障されていると判例は解釈しました。
立候補の自由もかけがえのない基本的人権の1つといえます。
まとめ
今回は、公務員試験の憲法に出題される参政権を勉強していきました。
- 外国人と参政権の関係
- 在宅投票や組合員の立候補
などなど重要な判例も多く出題されます。しっかりと押さえて公務員試験に臨みましょう!