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生存権のプログラム規定説を解説!朝日訴訟などの判例も紹介

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憲法25条には、生存権が定められています。日本国民が生活していくうえで、決して軽視できない条文です。

しかし、生存権にはさまざまな考え方があります。特に「プログラム規定説」は欠かせません。

プログラム規定説の中身が理解し切れていない方のために、具体的な内容を紹介します。

朝日訴訟などの有名な判例も併せて押さえてください。

 

生存権の基礎

まず、生存権の基本的な内容を勉強します。

これは憲法25条に規定されている内容ですね。

「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」

我々が日本国民は、どんなに貧しくても最低限度の生活ができるような保障が日本ではなされています。生活保護然り、公的年金然り。

この規定は基本的に日本国民を対象にしたものなので、外国人の権利を保障したものではありません。

後述でも紹介している塩見訴訟が有名ですね。

一方で、外国人でも生活保護を与える判断も憲法に違反しているわけではありません。この辺りは、各自治体の判断に委ねられます。

生存権は国民の生活基盤ともいえる重要な規定ですが、内容は法曹界でもあらゆる意見が交わされています。

 

生存権の考え方

生存権には、3つの考え方があります。それぞれを紹介していきますので、整理して押さえてください。

プログラム規定説

プログラム規定説は中学校の公民でも習った方は多いと思います。他の説とは異なり、生存権の在り方に法的義務を課しません。

プログラム規定説によれば、国民への要求に応えるのはあくまで努力義務であるとされています。

つまり、立法府が設けるルールの在り方も原則的には自由です。

ただし、憲法25条には権利を有すると書いているのに努力義務だと考えるのは相応しくないという批判もあります。

具体的権利説

この考え方は、生存権の規定は立法府を拘束するという説です。

具体的権利説によれば、法律を作る立法府が生存権にかかる規定を作らない場合、国民は違憲訴訟を起こすことができます。

ただし、あくまで立法府は法律を整備するよう拘束されるだけです。国民は、直接国に対して具体的な生活を扶助させるような請求はできません。

抽象的権利説

これは、憲法25条に法規範を認めつつも、内容は抽象的なものだとする説です。

抽象的な規範であるため、法律として具体化されない限りは違憲訴訟を起こせません。

一応、抽象的ではありながらも国には国民への要求に応えるよう法的義務が課されているのが特徴です。

 

朝日訴訟について

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朝日訴訟は生存権の中でも、非常に有名な判例です。中学生や高校生の社会の授業でも、習った方は多いのかなと思います。

公務員試験でも憲法や社会科学で問われるかもしれないため、しっかりと内容を押さえてください。

朝日訴訟の具体的な内容

まずは、朝日訴訟の具体的な内容を解説しましょう。原告である朝日さんは、生活保護を受給していました。

なお、朝日さんは結核に罹ってしまいました。

ちなみに、生活保護はさまざまな種類があります。

  • 生活扶助
  • 教育扶助
  • 医療扶助
  • 介護扶助など

朝日さんは、これらの中から生活扶助と医療扶助を需給していました(月600円)。しかし、生活費としては足りず、生活保護費の増額を求めます。

なお、朝日訴訟は1956年の話なので現代とは物価が全く異なります。今の食パンの値段は200円弱ですが、昔は25円で買える時代でした。

ただし、昔の基準で考えても生活するには難しい金額です。

朝日さんの申請を経て、市の福祉事務所は朝日さんの兄に1,500円を送るように命令しました。

1,500円から600円を生活費にし、900円を医療費として自己負担にするのが市の方針でした。

このやり方がおかしいのではないかと、朝日さんは訴訟を起こします。

朝日訴訟の訴訟経過

まず、地方裁判所は「朝日さん勝訴」の判決を出しました。しかし、第二審の高裁判決では逆に敗訴してしまいます。

月600円は確かに額が少ないものの、足りない分は70円しかなかったからです。

総合的に見て、生存権を脅かすような問題とはいえないと判旨しました。当然、朝日さんは上告します。

しかし、上告している間に朝日さんは亡くなりました。生活保護は、性質上相続できるお金とは考えられていません。

争う理由もなくなってしまい、訴訟は打ち切る形で終了しました。

朝日訴訟の最高裁判決

途中で打ち切られた朝日訴訟ですが、最高裁判所は判決を出します。

判決が出される前に、「念のため」と前置きされたのは有名な話です。

最高裁判所は、生存権にかかる
「健康で文化的な最低限度の生活」厚生大臣の裁量に委ねられると考えます。

要するに、あまりにも著しい裁量権の逸脱が無ければ、違法にはならないと判旨しました。

上記に挙げた3つの考え方の中では、プログラム規定説を基準に考えます。

すなわち、生存権の権利を国民に与えるのはあくまで努力義務という見方です。

とはいえ、完全なプログラム規定説を採用しているとも言い切れません。

なぜなら、「著しい裁量権の逸脱」があった場合は裁判所に違法と判断されるからです。

ちなみに朝日訴訟の判決は、後述する食糧管理法違反事件を基準に出されました。

朝日訴訟の詳しい内容は、こちらの本に書かれています。興味のある方は、ぜひ読んでみてください。

 

生存権のその他判例

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生存権の内容には、朝日訴訟の他にも有名な判例がたくさんあります。これらは全て公務員試験で問われるかもしれません。

内容を簡単に把握しつつ、結論部分は必ず覚えてください。

学生無年金訴訟事件

こちらは障害基礎年金の受給要件にかかる制度が、訴訟に発展した事件です。

原告は20歳以上になってから傷害を負って障害保険に加入したものの、学生だったため国民年金に任意加入していませんでした。

そうなると障害年金が支給されなくなり、結果的には親の保険に強制加入されている20歳前の障がい者と年金の支給額に差異が現れてしまいます。

しかし、最高裁は年金の受給で20歳以上の学生と20歳前の障がい者で差異が生じることは合理性を欠かないとしました。

つまり、原告側が敗訴します。最高裁の違法性の判断基準は、朝日訴訟と同じです。

生存権の考え方も、プログラム規定説が採用されています。

(朝日訴訟と同じく、確実に分類されるとも言い切れません。公務員試験では、最高裁の判決さえ押さえれば問題ありませんが。)

食糧管理法違反事件

この事件は「やみ米」にかかるものです。

昔の日本は食糧管理法がありました。(1995年11月に廃止されています。)

米の生産を国が管理するための法律です。この法律に違反して取引されたお米は、「やみ米」と呼ばれていました。

ある日、とある人物が食糧管理法に違反してしまいます。

対して、当該法律は生存権の趣旨を反していると主張して訴訟に発展しました。

ただ、最高裁は国家の責務として生存権が存在しているものの、国民1人1人に対して具体的な義務を持つものではないと判断します。

従って国はやみ米の運搬を生活の権利だと認める義務もなく、食糧管理法は違憲にあたらないと結論を下しました。

考え方の根底には、プログラム規定説が採用されています。上述したとおり、朝日訴訟の最高裁判決の基準となった事件です。

堀木訴訟と塩見訴訟

他にも、生存権にかかわる訴訟として堀木訴訟と塩見訴訟が有名です。

しかし、これらの内容は以前にも詳しく書いています。それぞれの記事を参考にしてください。

なお、上の記事が堀木訴訟で下の記事が塩見訴訟です。

どちらも違憲とは判断されていません。結論部分だけでも確実に覚えましょう。

 

まとめ

今回は公務員試験に向けて生存権の内容を勉強しました。

有名な事件として、朝日訴訟をはじめに押さえてください。上述したとおり、中学生や高校生でも習う内容です。

具体的な話を理解できれば、訴訟の内容もイメージできるでしょう。

また、プログラム規定説の考え方も確実に押さえてください。

判例を勉強するには、結論部分をしっかりと覚えることが大切です。具体的な内容が分からなくとも、結論さえ押さえれば解ける問題はたくさんあります。

今回の内容は、実際の判例では違憲扱いされたものはありませんでした。

しかし、仮に「著しい裁量権の逸脱」が見られたら、最高裁判所も違憲判決は出せます。

試験で問われても、問題なく解けるように練習しましょう。