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特別権力関係論とは?意味と判例についてわかりやすく解説

マニアックな内容ですが、憲法や基礎法学を勉強すると、特別権力関係論という言葉が出てくることもあります。司法試験レベルの内容なので敬遠されがちですが、実は法の意義を知るうえで役立つ概念です。

この記事では、特別権力関係論の意味についてわかりやすく解説します。行政書士試験レベルであれば、特別権力関係論自体を細かく覚える必要はありません。ただし法治主義や法の支配といった、基礎法学の理解につながる記事であるため、ぜひ参考にしてください。

 

特別権力関係論とは

特別権力関係論のイメージをわかりやすく説明した図

特別権力関係論とは、公務員と私人において特別な権力関係が発生するという考え方です。大きく分けて、3つの力が働くと考えられています。

  • 法治主義の排除
  • 人権の制限
  • 司法審査の排除

これらに共通していえるのは、国家権力が私人の権利や自由を制限してしまうことです。現代の生活からすると、あまりイメージできない社会かもしれません。それぞれの力について、どのような効果が生じるのかを解説します。

法治主義の排除

法治主義とは、行政行為は法律に基づいてなされるべきとする考え方です。主に行政権を統治する目的で使われ、いかなる政治も法律が存在してはじめて実行できます。

仮に良策を思いついても、法律の定めがなければ行政はその策を行使できません。反対に悪い策でも、法律さえ存在していたら実行することが認められます。

しかし特別権力関係論においては、行政が法律に基づかないで私人を支配しても問題ありません。私人に対する行政の権力が大きくなると解釈してください。

人権の制限

私たちは生きていくうえでは、人権は極めて重要な存在です。人権が与えられなければ、私たちは自由に選択し、生活することができません。

一方で特別権力関係が働くと、国家が私人の人権を制限できてしまいます。法律も効果が生じないので、強制的に労働を強いるといった行為も認められるでしょう。

司法審査の排除

現代社会では、仮に国家が暴走しても司法が平等に裁いてくれます。行政が違法に私人の土地を奪えば、処分取消訴訟で取り返すことも可能です。

ただし特別権力関係論に基づくと、司法審査も排除されてしまいます。行政行為が違法だったとしても、私人は訴訟を提起することさえ認められません。

 

 

日本と特別権力関係論の関係

現在の日本において、特別権力関係論は用いられていません。日本国憲法が「法の支配」を採用しているためです。ここでは法の支配を解説しつつ、特別権力関係論とどのように関わるかをまとめます。

法治主義と法の支配の違い

「法治主義」と「法の支配」は似ていますが、厳密には意味が異なります。先述したように法治主義とは、行政権の行使は法律に基づいてなされるという考え方です。一方で法の支配は、権力者もまた「法」で拘束される理論を指します。

法治主義においては、権力者が法律を作ってしまえば、どんな悪行も許されます。法律を作れる国家が一番偉いため、国家が腐敗していたら悪法ばかり生まれるリスクもあるわけです。

反対に法の支配では、国家さえも服従させる存在として「憲法」があります。日本国憲法は日本国民から国家に向けた法とも解釈でき、憲法に反する法律は作れません。したがって現代の日本は、法治主義ではなく法の支配に基づいていることがわかります。




もし悪い法律が出てきたらどうなるの?




法の支配では憲法に照らし、裁判で「違憲」と確定したら失効する!

法の支配と特別権力関係論

大日本帝国憲法時代は、特別権力関係論を認めていました。しかし日本国憲法に変わり、天皇主権から国民主権へ転じたことから、特別権力関係論は使えなくなります。

さまざまな理由がありますが、まず挙げられるのが国民に基本的人権を与えているためです。確かに法律は、国会が作っています。しかしその国会も、国民の選挙によって決められた代表者です。

さらに国会がおかしな法律を作っても、司法が違憲立法審査権を行使して廃止します。こうした現代社会において、人権の制約を許容するのは望ましくありません。したがって特別権力関係論は、認められないと考えられています。

 

特別権力関係論の発生原因

大日本帝国憲法のころ、特別権力関係論が発生する主なケースは、特別の公法上の原因が生じたときでした。細かく説明すると、法律の規定もしくは本人の同意があった場合が該当します。

法律の規定で発生する主な例が、受刑者と刑務官の関係です。一方で本人の同意については、国公立大学と学生の関係、公務員の在勤関係が該当します。

 

 

特別権力関係論の修正

特別権力関係論は現代の憲法で否定されており、直接的に言及している判例もほぼありません。しかし、一部では「修正」という形で間接的に影響を与えています。ここでは判例をいくつか紹介するので、どのように修正されたかを押さえてください。

よど号ハイジャック記事抹消事件

拘置所に収容されていたXは、自分のお金で新聞を定期購読していました。しかしこの頃の新聞には、日本を震撼させた「よど号ハイジャック事件」の記事が掲載されていました。

所内の秩序維持に悪影響を与えると判断した拘置所長は、該当の記事を墨で塗りつぶします。そこでXは、旧監獄法や法務省の通達などが憲法に違反すると訴えました。

この事件においては「相当の蓋然性がある」場合には、在監者の行為を一部制限できるとしました。要するに秩序の維持が難しくなることに対し、具体的に可能性を示せれば墨の塗りつぶしもOKとしたのです。

このように決して判例では、大日本帝国憲法時代の特別権力関係論を認めたわけではありません。一方で特定の条件により、似たような権力関係が発生しうることを想定しています。

富山大学単位不認定事件

富山大学で経済学の講義を受けていた学生らでしたが、担当の教授は学長から全授業の停止措置を受けてしまいます。学生らにも代わりの講義を受けるよう指示しましたが、彼らはその命令を無視し、単位取得が認められませんでした。

この判例における特徴は、特別権力関係論という言葉を使わず、部分社会論を持ち出している点です。部分社会は特殊な関係で成り立つ社会を指し、一般社会とは区別されます。

たとえば大学もそうですが、宗教団体や労働組合にも独自のルールや社会基盤が存在するはずです。特別権力関係論とは異なり、公権力の関係には限定されないことがわかります。

ちなみに部分社会論を持ち出した当該判例では、司法審査の対象にはならないと判旨しました。一般市民の法秩序と直接的な関連はなく、あくまで内部的な問題にすぎないからです。

 

特別権力関係論まとめ

特別権力関係論とは、公務員と私人の間に特別な権力関係が発生するといった考え方です。大日本帝国憲法時代には用いられていましたが、現行の憲法には適用されません。

ただし判例の中には、似たようなジャッジを下しているものもあります。これらの判例においても、基本的には特別権力関係論を直接的に認めたわけではないので注意してください。

特別権力関係論に関しては、行政書士試験では少々深入りしている内容です。一方で法治主義や法の支配といった基礎法学も絡んでくるので、知識として覚えておいて損はないでしょう。