ヤマトノ教室|勉強ブログ

公務員試験、資格試験、進学受験の対策

公共の福祉と人権の制約|公務員の人権と特別権力関係論も解説

私たちの社会において、特に欠かせない存在が公共の福祉です。公共の福祉の存在により、国民の人権には一定の制約が存在します。

人権については、以下の記事で日本国民と外国人にどう与えられているかを解説しています。合わせて内容を押さえてください。

この記事では、公共の福祉の観点にかかる人権の制約を解説します。公務員の人権や特別権力関係論もともに捉えましょう。

 

公共の福祉と人権の制約

f:id:yamatono11:20210617173914j:image

日本国民は、自由に自己決定できる権利を有しています。しかし、人権は無制限に認められているわけではありません。

仮に制約がないと、不法行為も許容しないといけなくなるためです。自由を放任しすぎると、社会の秩序も乱れてしまいます。

公共の福祉には、大きく分けて3つの考え方があります。

  • 一元内在制約説
  • 内在・外在二元的制約説
  • 一元的外在制約説

難しい内容にはなるものの、これらの内容を学問的に捉えましょう。

一元内在制約説

一元内在制約説は、公共の福祉を人権同士の衝突を避けるための原理と考えます。憲法13条・22条・29条の全てで考え方が共通しています。現行法では、こちらの学説が通説(一般的な考え方)です。

しかし、この立場に立つと判断基準が「必要最小限度」と抽象的になるのが批判されるポイントです。一元内在制約説では、大きく比較衡量論と二重の基準があります。それぞれの内容について分かりやすく解説しましょう。

比較衡量論

比較衡量論とは、人権を制限して得られる利益と制限しないことで維持される利益を比較する考え方です。仮に前者の利益が勝る場合、人権の制限が認められます。

ただし、どちらの利益を重視するかは結局主観的な判断に委ねられます。さらに国家と国民の利益を比較した際、国家が有利になりやすい点も批判されるポイントです。

二重の基準

二重の基準は人々の持つ自由を2種類に分け、それぞれ異なる基準を設ける考え方です。自由は、主に以下の2種類に分けられます。

  • 精神的自由(学問、信教、表現)
  • 経済的自由(経済活動、移動、居住)

精神的自由は厳格な基準、経済的自由は合理的な基準がそれぞれ設けられているのでしっかりと覚えましょう。

つまり、精神的自由の場合は制約を設けるのであれば厳しめの基準を設けなければなりません。

人々の「信念」にかかる部分なので、制約される基準がブレると不安に駆られてしまうからです。

一方で、経済的自由はケースバイケースにより合理的な基準が採用されます。そうなれば、経済的自由の場合は国家も自ずと裁量が働きやすくなります。

内在・外在二元的制約説

内在・外在二元的制約説は、制約できる人権を経済的自由と社会権に限定する学説です。

憲法13条はあくまで倫理的なもの(訓示規定)とみなし、人権制約の根拠にはしません。一方で、憲法22条と29条には人権制約も認めると考えます。

しかし、このような観点では憲法13条に法規範性がなくなります。憲法13条をもとに新しい人権が生まれなくなるのは望ましくありません。

また今日では、自由権と社会権の区別が他の関係との比較において成り立っています(相対化)。この中で、内在的制約と外在的制約に分けるのは難しい点も支持されにくい要素です。

一元外在制約説

一元外在制約説は、全ての人権が公共の福祉で制約できると考える説です。憲法13条は人権の外にあるため問題なく制約でき、憲法22条と29条は特別な意味を持たないと捉えます。

ただし、こちらの説に立つと人権が法律で簡単に縛れる存在になります。明治憲法の考え方と大きく変わらず、「個」を尊重する現代には合わない考え方です。

 

 

私人間効力と憲法の適用

私人間効力とは、社会の権力から基本的人権を守るために憲法の規定を適用させる考え方のことです。

ここでは、以下の2つの手段について紹介します(ここでは無適用説を除外)。

  • 直接適用説
  • 間接適用説

それぞれがどのように異なるかを深く掘り下げましょう。

直接適用説

直接適用説は、憲法の規定をそのまま国民に適用させる方法です。憲法には、公法と私法の2種類の役割を担うとする考え方に基づいています。

ただし、直接適用説では私的自治の原則や契約の自由を否定するのではと懸念されています。現代では、私法については個人で取り組むのが基本です。国家が介入すると、その自由が奪われる恐れもあります。

また、憲法はあくまで我々が国に対して権利を求めるための法規範です。私人間に適用すると、本来の役割を見失うとも批判されています。

間接適用説

間接適用説であれば、民法などの法律に反映させて適用します。こちらが現代では通説です。

間接適用説のメリットとして、私法自治の原則が守られる点が挙げられます。一方で、国家権力の人権侵害に救済がないのも望ましくありません。

そこで憲法の規定を私法に反映させることで、私法自治を守りながら国家からの救済も受けられるようにします。

間接適用説の批判されるポイントは、私法の解釈によって他の説と同じようなデメリットを生んでしまう点です。

公務員試験では、国家総合職でない限りはここまで深く問われないとは思います。余裕のある方は、念のために押さえておきましょう。

なお、間接適用説については実際に三菱樹脂事件でも争われました。この事件の内容は、以下のリンクでまとめています。合わせて参考にしてください。

 

公務員と特別権力関係論

次に、公務員(公人)と私人の関係について解説します。公務員を目指すのであれば、自分らにどのような人権が与えられるかを理解しなければなりません。

ここでは、特別権力関係論と公務員の人権を詳しく述べましょう。

特別権力関係論の是非

特別権力関係論とは、条件次第で特定の人間に人権の制約を加えてもよいと認めることです。

具体例として、刑務官と収監者の関係が挙げられます。逮捕されて収監されている人は、刑務官の管理のもとで過ごさなければなりません。このときに、刑務官は収監者の人権に制約を与えられるか否かが問われます。

結論からいえば、特別権力関係論は現代では認められていません

明治憲法時代では、刑務官は収監者に対して以下の権限を持っていました。

  • 人権保障の排除
  • 法治主義の排除
  • 司法の排除

収監者側は法律の根拠なく人権を制限され、司法にも守ってもらえませんでした。いくら刑務官の立場とはいえ、この状態では非人道的な横行が行われかねません。

日本国憲法で法の支配による概念が誕生したことで、特別権力関係論の考えは排除されました。

公務員の人権制約

なお、公務員の人権は私人よりも制約されています

この内容については、以下の記事で図解も合わせて詳しく解説しています。公務員試験では重要なポイントとなるため、合わせて内容を確認してください。

特に警察官や自衛官、消防士は労働三権の全てが認められていません。他は業種によって、どこまでの権利が与えられるかが変わります。憲法のみならず、労働法でも問われやすい部分です。

 

法人と人権の制約

基本的人権が保障されている主体性を人権享有主体性と呼びます。法人にも人権が認められるかを詳しく記載しましょう。

法人も「人」の一種

ここでまず押さえなければならないのが、法人も人の一種であることです。民法の考え方によると、人は自然人法人に分かれます。

自然人は、私たちのような一般人のことです。日本国民のみならず、外国人も自然人の対象となります。

一方で、法人は会社や一般社団法人などといった組織が該当します。法人が「人」と認められる理由は、細かく見ると一人ひとりの人間が集まる集合体であるためです。

法人と基本的人権

法人も私たち自然人と同じく、「人」に分類される主体です。したがって、基本的人権を持つべき存在だといえます。しかし、自然人と同等の権利は与えられません。

法人の人権で、制約されている主な例がこちらです。

  • 社会権
  • 選挙権及び被選挙権

社会権は、生活保護を例に考えるとわかりやすいでしょう。生活に困窮した日本国民は、条件さえクリアすれば生活保護を支給できます。

しかし、法人は運営に苦しんでも生活保護を受給できる権利はありません。一般的に生活保障を中心とする社会権は、自然人のみ(場合によっては日本国民のみ)が持ちます。

他にも、法人は選挙権が与えられていません。加えて、選挙に出る資格も持たない主体です。このように一定の人権の制約が、法人にはあると認識してください。

八幡製鉄政治献金事件

すぐ上の見出しで、法人には選挙権が与えられないと解説しました。しかし、法人主体である政党や政治家を応援したいと思うケースもあるでしょう。

この行為が認められるか否かについて「八幡製鉄政治献金事件」を例に出しながら説明します。

八幡製鉄株式会社は、1950年に設立された大手鉄鋼会社です。株式会社であるため、株主の資金によって運営が行われています。

この事件のきっかけは、八幡製鉄株式会社が特定の政党を応援するために政治資金を用意したことでした。この資金の中には、株主が出資した分も当然含まれています。

株主からすれば、勝手に政治資金で使われるのは納得がいかないはずです。裁判を起こしたところ、戦いは最高裁までもつれ込みました。

しかし、最高裁は八幡製鉄株式会社の行為を適法と認め、株主側が敗れてしまいます。その理由は、会社もまた社会的な存在に変わりないためです。

法人も社会的な存在である以上、特定の政党を応援するのも不思議ではないと判断します。結果として、法人といえども自然人による寄付と別に扱う理由はないとしました。

 

まとめ

今回は、公共の福祉と人権の制約の関係について紹介しました。公共の福祉には、大きく分けて3つの考え方があります。優先順位として、一元内在制約説を押さえてください。

また、公務員の人権制約と特別権力関係論も試験では覚えておきたいポイントの一つです。

このあたりは難しい用語を数多く勉強しなければなりません。意味を自分なりに理解しながら、勉強を進めるのをおすすめします。