マクロ経済学においては、物価上昇率と失業率の関係性を示したフィリップス曲線も有名です。この考え方を使い、マネタリストらが数々の自然失業率仮説を唱えました。
この記事では、公務員試験攻略に向けてフィリップス曲線の仕組みを解説します。複雑な内容にはなりますが、繰り返し勉強しながら押さえてください。
・インフレと失業率の関係性
・マネタリストの考え方
フィリップス曲線とは
フィリップス曲線とは、イギリスの統計学者であるフィリップスが編み出した物価上昇率と失業率の関係性を示したグラフのことです。
フィリップス曲線には、この2つの要素が負の相関であるのを示しています。内容を具体的に解説しましょう。
貨幣賃金変化率と失業率
本来のフィリップス曲線は、貨幣賃金変化率と失業率の関係を捉えています。
貨幣賃金変化率とは、貨幣としての賃金がどのくらい伸びたかを示したモデルです。経済学用語では、名目賃金とも呼ばれています。
つまりフィリップス曲線では、貨幣賃金の上昇率が大きくなるほど失業率も減ると考えました。単純に通帳上の給料が増えるので、従業員が辞めにくくなるといった当然の話です。
この場合は、図にもあるように縦軸に「貨幣賃金変化率」、横軸に「失業率」を置きます。
物価上昇率と失業率
フィリップ曲線の縦軸に置かれた貨幣賃金変化率は、物価上昇率に置き換えてもOKです。要するに物価が上がれば上がるほど、失業率は低下するのを示しています。
この関係を説明するうえで、以下の公式を念頭に置いてください。
貨幣賃金物価上昇率−労働生産性=物価上昇率
フィリップス曲線では、理論を単純化するために労働生産性は一定と捉えます。
上記の式から、労働生産性を除外したら
貨幣賃金物価上昇率=物価上昇率です。
したがってフィリップス曲線では、しばしば縦軸に物価上昇率、横軸に失業率が置かれます。
フィリップス曲線と自然失業率仮説
フィリップス曲線を勉強するうえで、無視できない考え方が自然失業率仮説です。
フリードマンを中心とするマネタリストにより唱えられ、ケインズの有効需要政策を否定しました。
ここではマネタリストが、フィリップス曲線をどのように活用したかをまとめましょう。なおケインズの有効需要政策については、以下の記事で詳しく説明しています。
自然失業率仮説の考え方
自然失業率仮説のポイントは、物価版フィリップス曲線の考え方を完全には信用しなかったことです。
具体的には「人々の物価上昇率にかかる予想」が現実の上昇率と変わらないのを条件としました。
このような物価上昇率にかかる予想は、期待物価上昇率と呼ばれます。なお経済学では、しばしば「予想」を「期待」と表現するので注意してください。
仮に両者の上昇率に乖離が見られ、期待時物価上昇率が上がるとフィリップス曲線は上方向にシフトします。
ケインズの政策は短期の間のみ有効
マネタリストらの自然失業率仮説では、ケインズの有効需要政策は短期の間しか効果を発揮しないと説きました。その理由は、時間が経つと実質賃金が名目賃金に追いついてしまうためです。
政府が財政政策をした直後
例えば政府が財政政策を行い、人々の名目賃金が上がったとしましょう。賃金が上がったことに喜んだ国民は、積極的に財やサービスを購入すると仮定します。
人々の需要に負けないよう、会社側も労働者の数を増やしました。要するに、この時点では失業率の低下を実現できたわけです。
ここだけを見てみれば、財政政策によって経済が潤っていると感じるかもしれません。
財政政策以前の水準に戻る
しかし名目賃金が増加すると、現実の物価も次第に上昇します。物価がある程度上昇し、実質賃金(名目賃金÷物価)が財政政策以前と変わらなくなるのです。
そうすると人々の生活水準も財政政策以前の頃に戻るようになり、失業率も元の水準へと上がっていきます。
それだけではなく失業率は元の水準へ戻ったにもかかわらず、物価だけが上がってしまう社会が生まれてしまいます。
この現象が貨幣錯覚です。貨幣錯覚の仕組みについては、後述の見出しで詳しく解説しましょう。
フィリップス曲線の種類
自然失業率仮説によるフィリップス曲線には、大きく分けて2種類のグラフが存在します。
- 短期フィリップス曲線
- 長期フィリップス曲線
それぞれの違いや描き方について説明しましょう。
短期フィリップス曲線
短期フィリップス曲線は、図では右下に描かれている線のことです。
物価版フィリップス曲線では、物価上昇率が上がるほど失業率が低下すると考え、この曲線一つで説明できると簡易的にモデルを示しました。
マネタリストは短期フィリップス曲線を行き来している状態は貨幣錯覚に陥っているとし、そこで長期フィリップス曲線の概念を見出します。
長期フィリップス曲線
長期フィリップス曲線は、横軸(失業率)に対して垂直に描かれるグラフのことです。このグラフでは、期待物価上昇率と現実の物価上昇率が一致しているのを指しています。
フリードマンは財政政策や金融政策を採ったとしても、長期フィリップス曲線の影響で自然失業率より失業率は下がらないと考えました。
仮に政府が積極財政を行い、物価の上昇と失業率の低下を実現できたとしましょう。
すると図のA点は、B点へと移行します。
しかし期待物価上昇率が現実の物価上昇率と一致すると、図のB点は長期フィリップス曲線のC点へと集約されてしまいます。
これが失業率が元に戻り、物価は上がったままになってしまう状態です。
フィリップス曲線の重要ポイント
今回の記事では、フィリップス曲線について解説しました。
フィリップス曲線は、フィリップスの考えとマネタリストの考えの2種類を押さえる必要があります。
フィリップスによる考えは、失業率を低くするにはインフレーションを起こすべきだとするものです。
しかしマネタリストは、長期フィリップス曲線の関係で財政政策と金融政策を何度も動かすのは望ましくないと考えました。
実際にはもう少し理論が複雑ですが、公務員試験ではここまでの考え方をまず押さえましょう。応用問題にもチャレンジしたい方は、以下のテキストも積極的に活用してみてください。