マクロ経済学において、新古典派(マネタリスト)はインフレーションの原因を貨幣量の増加に委ねました。この理論は、貨幣数量説と呼ばれています。
今回の記事では、貨幣数量説についてフィッシャーとケンブリッジの理論を紹介します。それぞれの公式の違いを押さえてください。
・マーシャルのケンブリッジ方程式について
・公務員試験で覚えたい貨幣数量説の特徴
貨幣数量説とは
貨幣数量説とは、貨幣量の増加がインフレーションに繋がると考える説です。
貨幣数量説に基づいて策定された経済政策のことを、マネタリズムと呼びます。皆さんも、一度くらいはこの言葉を聞いたことがあるでしょう。
貨幣数量説を勉強する際には、押さえておいた方がいいポイントが2つあります。
理論は大きく分けて2つ
貨幣数量説を採った考え方は、大きく分けて以下の2つを押さえておけば問題ありません。
- フィッシャーの交換方程式
- マーシャルの現金残高方程式
これらは、計測の対象が若干異なります。公式の作り方にも違いがありますが、詳しい内容については後述しましょう。
フィッシャーの貨幣数量説
貨幣数量説の基本となるのが、フィッシャーの交換方程式です。公務員試験の内容としては、公式と特徴を主に覚えてください。
交換方程式の公式
フィッシャーが唱えた交換方程式の公式は以下のとおりです。
MV=PT
まずMVとは、一定期間に使われた貨幣の量を指します。もう少し噛み砕いていえばMは貨幣の残高(マネーサプライ)、Vは貨幣の流通速度を示す値です。
貨幣の流通速度は、お金がどのくらい使われているかを表します。仮に1万円札に着目した場合、1年で10万回使われたらその回数が流通速度となります。
一方でPTとは、取引額の合計を示す値です。具体的にはPが物価水準でTは取引量を表します。価格×数量で取引量が示せることは、ぼんやりとイメージできるでしょう。
交換方程式の特徴
交換方程式で押さえてほしい特徴は、貨幣の流通速度(V)と取引量(T)を一定と考えることです。
経済的に安定している国であれば、取引される量にそこまで大きな差は生まれません。そのため、貨幣が使用される回数も変化はないと考えられています。
フィッシャーの交換方程式について、特に重視されているものはM(マネーサプライ)とP(物価水準)です。
貨幣の供給量をどんどん上昇させたら物価も比例して上がると考えています。
最近のMMTの理論でも、お金をたくさん刷ればいいと唱えている人もいます。その理論の根拠となっているのが、マネタリストと呼ばれる人の考え方です。
マーシャルの貨幣数量説
続いて、マーシャルの貨幣数量説であるケンブリッジ方程式を解説します。こちらは別名で現金残高方程式と呼ばれる理論です。フィッシャーとの違いも踏まえて理解してください。
ケンブリッジ方程式の公式
ケンブリッジ方程式の公式は次のとおりです。
M=kPT
ここで用いられているkとは、財産を「貨幣」として持ちたい人の割合を示しています。一般にマーシャルのkと呼ばれているものです。
マネーサプライは、取引総額にマーシャルのkを乗じて求めると考えられています。
ケンブリッジ方程式の特徴
ケンブリッジ方程式の特徴は、右辺を名目貨幣需要量として整理することです。
ケインズは、人々が貨幣を持つ理由には取引的動機・予備的動機・投機的動機の3つのパターンがあると考えました。
一方で、マーシャルはこの理由を取引的動機のみに限定します。要するに人々が貨幣を持つのは、売買が主な目的であると仮定しました。
マーシャルもフィッシャーと同じく、マネーサプライ(M)は物価(P)に比例すると論じます。
貨幣を持つ動機の詳しい内容は、以下の記事でも詳しく紹介しています。同じく公務員試験の重要なテーマとなるので、こちらも参考にしてください。
2つの貨幣数量説
このように貨幣数量説には、交換方程式とケンブリッジ方程式の2パターンがあります。公式が違えど、マネーサプライは物価水準に比例するという結論は同じです。
それぞれの貨幣数量説が、どのように関連し合うのかをもう少し掘り下げましょう。
マーシャルのkは貨幣の流通速度の逆数
まず絶対に押さえてほしいポイントは、マーシャルのkは貨幣の流通速度(V)の逆数になることです。この証明は数学的に解説できます。
交換方程式で用いられた公式は、
MV=PTでした。
この式を変形すると、以下のように示せます。
M=
上で変形した式をケンブリッジ方程式と比べてみましょう。
M=kPT
見て分かるとおり、2つの式を比べるとkとが同じ値になります。
はVの逆数です。
したがって、マーシャルのkは貨幣の流通速度(V)の逆数と等しくなると証明できました。
貨幣ヴェール観に繋がる
古典派経済学において、特に有名な考え方のひとつが貨幣ヴェール観です。この理論では、マネーサプライが国民所得に影響しないと考えられています。
フィッシャーとマーシャルは新古典派経済学の立場を採りますが、マネーサプライに関する考え方は古典派経済学と基本的に同じです。
財市場と労働市場を「実物部門」として捉え、貨幣市場とは区別します。
そのうえで国民所得は消費や投資といった財市場でのみ変化し、いくら貨幣量を調節しようが物価水準に影響を与えるだけだと考えました。
この貨幣ヴェール観については、以下の記事でも詳しく紹介しています。まだ読んでいない人は、下の記事も一緒に読んでみてください。
フリードマンのk%ルール
マネーサプライをどう変化させればいいかは、フリードマンの唱えた説も参考になります。
フリードマンも広い見方をすれば、新古典派経済学の一人とされています。シカゴ大学の出身であり、新古典派の一派として活躍しました。
フリードマンの唱えたk%ルールとは、毎年のマネーサプライの増加率を一定にすることです。
このルールを編み出した理由としては、経済政策の正確な分析・評価が難しく、タイムラグが生じる点が挙げられます。
フリードマンは闇雲にマネーサプライを増加させ、かえって経済状況が混乱するのを恐れました。
貨幣数量説と公務員試験
いろいろと述べましたが、貨幣数量説は公務員試験では選択肢のひとつとして出題されるパターンがほとんどです。
単純に試験を攻略するだけであれば、集中的に勉強するのも非効率かもしれません。
しかしマクロ経済学の背景を押さえるうえでは、貨幣数量説の考え方を知ることは大切です。
ケインズを中心に、他の人々との考え方とどのように異なるかを自分なりに整理するとよいでしょう。
公務員試験用として押さえたい、貨幣数量説のポイントは以下の3つです。
- マネーサプライと物価水準は比例する
- マーシャルのkは貨幣の流通速度の逆数
- マネーサプライは国民所得に影響を与えない
あとは各自過去問を解きつつ、どのような問題が出題されやすいかを分析してください。