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プライマリーバランスは意味ない?黒字化の仕組みについて解説

皆さんも日々のニュースで、プライマリーバランスを黒字化にする議論を見たことがあるでしょう。しかし日本において、プライマリーバランスは意味ないともいわれています。

この記事では、プライマリーバランスを黒字化させることが意味ないかどうかをわかりやすく解説します。経済学を勉強されている方は、ぜひ最後までご覧ください。

 

プライマリーバランスとは

プライマリーバランスをわかりやすく解説した図

プライマリーバランスとは、税収および税外収入と歳出総額から国債費を除いた額(政策的経費)のことです。日本語では、基礎的財政収支とも呼ばれています。

わかりやすく言えば、日本全体の経済における収入と支出のバランスです。仮に政府がお金を欲しがるとき、私たちの収入から「税金」として徴収します。

一方で公共事業に着手する場合は、財政出動するための政策的経費を用意しなければなりません。歳出が増えれば、基本的に国は赤字となります。

日本では、プライマリーバランスの黒字化を目指そうとする声も少なくありません。しかし本当に黒字の状態が望ましいかは、さまざまな意見が存在します。

プライマリーバランスの計算方法

プライマリーバランスの黒字化とは、支出よりも収入の方が多い状態のことです。式に直すと税収・税外収入−(歳出総額−国債費)と表せます。

つまり税収や税以外の収入により、公共事業をすることができれば黒字になっている状態です。一方で収入から歳出のやりくりができず、国債の発行によって資金を集めたら、基本的には赤字となります。

財政赤字を克服するには、増税か輸出の増大で対処する必要があります。この考え方を表したモデルが、以下の公式です。

(S-I)=(T-G)+(EX-IM)

こちらの計算方法については、こちらの記事でも詳しくまとめているため、併せて参考にしてください。

日本のプライマリーバランス

日本のプライマリーバランスについて、細かく見ていきましょう。たとえば2022年ベースで見た場合、政策的経費が83.7兆円、税収等は70.7兆円になったそうです*1

この数値だけを使えば、プライマリーバランスは13.0兆円の赤字と計算できます。しかしコロナ禍の影響もあったため、赤字額はもう少し大きくなると見込まれます。

なお2025年度の試算においては、約4.5兆円の赤字が出ると算定されました*2。一般的な理論では、日本のプライマリーバランスは赤字の状態が続いているといえます。

 

黒字化が意味ないと言われる理由

プライマリーバランスの黒字化が意味ないと言われるのは、さまざまな理由が存在します。ここでは、どういった見解があるかをチェックしてみましょう。

国と個人では借金の概念が違う

プライマリーバランスの黒字化を掲げる理由として、「日本は借金が多い」と主張する方もいます。しかし国と個人では、借金の概念が異なる点に注意してください。

たとえば個人が消費者金融から借金をしました。仮に貯蓄が0円であれば、借りたお金は消費者金融のものです。したがって損益通算書で見てみると、借金した分だけ債務が発生していることになります。

一方で国の場合、借金の約50%は日本銀行から借りている分です*3。そもそも借金が生じる問題の一つは、利子の支払いが生じる点です。

しかし日本銀行からお金を借りたとしても、政府と連携している機関が利息収入を得ています。したがって利子の支払いに関する問題も、そこまで深刻なわけではありません。

無論、日本銀行から借りたからといって、国債をどんどん発行するのは危ないとされています。債権格付けがあまりにも低すぎると、海外からの信用を失いやすくなるためです。

とはいえ日本の国債格付けは、おおむねA〜AA評価(安定的)を推移しています*4。いきなり下がる恐れもありますが、現段階では日本の財政リスクは極めて低いといえます。

インフレ率とのバランス

日本で国債を発行しすぎると、インフレーションを招く恐れもあります。現代社会では物価の高騰が続いているため、国債の発行は危険と考える方もいるでしょう。

しかし日本で起こっている商品価格の高騰が、必ずしもインフレーションを引き起こしているとは限りません。インフレ率の調べ方にも、さまざまな考え方があるためです。

  • 消費者物価指数を見る
  • コアコア指数を見る
  • GDPデフレーターを見る

仮にインフレでないにもかかわらず、黒字化を無理に進めてしまうと、反対にデフレーションを引き起こす恐れがあります。そこでインフレかデフレかを分析する方法として、上記3点の内容をわかりやすく解説します。

消費者物価指数を見る

まずインフレ率を調べる一般的な方法が、消費者物価指数を見ることです。消費者物価指数は、財(モノ)とサービスの価格がどう変動するかを示した指数を指します。

経済の標準では、インフレ率2.0%を目標にしています。2025年9月の数値によれば、前年同月比で2.9%も上昇していました*5。したがって消費者物価指数の視点でみれば、おおむねインフレーションが発生している状態といえます。

コアコア指数を見る

消費者物価指数は、あくまで全部の財とサービスの価格の変動を捉えた数値です。しかし実際に価格がどのくらい変わるかは、財およびサービスの種類で異なります。

価格の高騰は、エネルギーや食品に起こりやすいといった特徴があります。これらは生活必需品でありながらも、政治や気候変動で供給面のダメージを受けやすいためです。

そもそも商品やサービスの価格は、需要と供給のバランスに応じて決められています。仮に需要があまり高くなくても、供給不足によって価格が高騰する場合もあるでしょう。

そこでインフレ率を見るときは、エネルギーや食品を除いたコアコア指数で測ることも可能です。とはいえ2025年9月の日本においては、コアコア指数も3.0%上昇しました*6。そのためコアコア指数の観点でも、ややインフレに振れている状態です。

GDPデフレーターを見る

GDPデフレーターとは、名目GDPと実質GDPから物価上昇率を分析する手法です。名目GDPとは、現在の価格をそのまま使って求めたGDPを指します。一方で実質GDPは、現在の価格から物価の影響を除いたGDPのことです。

名目GDPと実質GDPを使い、物価変動を求めるには以下の計算方法を採用します。

\dfrac{名目GDP}{実質GDP}=物価

日本の2025年4-6月の名目GDPは、約633兆円程度です。一方で実質GDPは、約562兆円となっています*7。これらを計算すると、物価上昇率はわずか1.12%です

したがってGDPデフレーターの理論でみると、そこまでインフレーションに振れていないことがわかります。無論、どの考え方を使うべきかは、人によって意見も異なるでしょう。

ただし日本の物価上昇は、世界情勢や気候変動による供給不足の側面もきちんと考慮しなければなりません。エネルギー価格や食料価格が高騰しているからといって、必ずしも日本全体でインフレーションが起こっているわけではない点も覚えておきましょう。

GDPデフレーターについては、下記の記事でも説明しているので、こちらも参考にしてください。

「増税」以外でも黒字化できる

政府が掲げるプライマリーバランスの黒字化は、基本的に増税政策を意味します。以前は立憲民主党の小川議員が、消費税を欧州並みの25%にすべきと唱えて非難されました。

そもそも日本では全体的に税金を多く取りすぎており、2024年には国民へ還元されていたほどです。エネルギー価格や食料価格の高騰で苦しんでいることを見ても、安易に増税へ走るのは望ましくないでしょう。

またプライマリーバランスの改善は、増税だけではなく経済成長による税収の増加でも達成できます。無理に増税した場合、逆に経済成長を止めてしまう恐れがあります。

政府全体の収支を把握できない

政府の借金と日本銀行の利息収入の関係をわかりやすく示した図

プライマリーバランスは、政府全体の収支の動きを把握できない点でも意味ないと考えられています。つまりプライマリーバランスを計算することは、必ずしも正しい分析方法とはいえません。

先程も説明したとおり、日本の借金は約50%が日本銀行から借りています。つまり日本銀行には、政府から利息収入を得ているわけです。

しかしプライマリーバランスの計算方法では、日本銀行の収入が度外視されています。日本銀行には独立性があるものの、実際の業務上は政府と足並みを揃えないといけません。

マクロ経済学では、国民所得を伸ばすには財政政策と金融政策のバランスが必要と考えられています。つまり政府だけではなく、中央銀行の資産も本来は考慮する必要があります。

以上から日本銀行の資産が算入されていないプライマリーバランスは、算定方法として不十分といった声も少なくありません。財政政策と金融政策の仕組みについては、下記の記事で詳しく解説しています。併せて参考にしてください。

 

プライマリーバランスのまとめ

日本では、たびたび黒字化を目指す動きが繰り広げられています。しかし、これまで政策の失敗により、デフレーションを呼んでしまった過去があるのも事実です。

無論、財政の赤字が日本にとって全く問題ないわけではありません。赤字国債を発行しすぎると、国債格付けがどんどん低くなり、海外からの信用を失ってしまうためです。

とはいえプライマリーバランスでは、日本の収支すべてを把握できない方法となっています。政府と中央銀行の関係を見ても、日本銀行の資産も本来は計算に入れなければなりません。

政府のプライマリーバランスの黒字化目標は、増税政策の言い分として利用されています。こうした言い分を鵜呑みにしないためにも、計算方法の仕組みを正しく知ることが大切です。