行政事件訴訟法の法定抗告訴訟に分類される訴えとして、差止め訴訟も挙げられます。しかし行政事件訴訟法は取消訴訟等のボリュームが大きく、差止め訴訟まで勉強が回らない方もいるでしょう。
この記事では、差止め訴訟の主な訴訟要件や取消訴訟との違いについてわかりやすく解説します。公務員試験や行政書士試験を受験される方は、記事の内容をしっかりと押さえてください。
差止め訴訟とは

差止め訴訟とは、行政が処分・裁決するのをストップさせる訴訟です。いつでも提起できるわけではなく、行政事件訴訟法に細かく訴訟要件が定められています。
訴訟要件
差止め訴訟の訴訟要件は、大きく分けて2つ存在します。
- 処分・裁決により重大な損害が生じる
- 他に適当な方法がない
これらの訴訟要件について詳しく解説しましょう。
処分・裁決により重大な損害が生じる
まず差止め訴訟を提起するには、行政が処分や裁決するために重大な損害が生じることが必要とされています。重大な損害の判断要素は下記のとおりです。
- 損害の回復が困難かどうか
- 損害の性質・程度、処分や裁決の内容・性質を勘案
この訴訟要件については、非申請型義務付け訴訟とほぼ同じです。こちらに非申請型義務付け訴訟の解説をしているので、ぜひ以下の記事も参考にしてください。
他に適当な方法がない
差止め訴訟については、損害を避けるために他に適法な方法があるときは提起できません。もし取消訴訟等が提起できるのであれば、そちらを優先的に活用する必要があります。
一方で第三者に民事訴訟を提起できたとしても、損害を避けるための他の方法には該当しません(差止め訴訟を問題なく提起できる)。
勝訴するための要件
差止め訴訟で勝訴するには、以下の要件2つのいずれかに該当する必要があります。
- 処分・裁決すべきでないことが根拠法令の規定から明確
- 処分・裁決が裁量権の範囲を超え、もしくは濫用にあたる
これらの規定は、行政事件訴訟法第37条の4の5号に規定されています。
原告適格
差止め訴訟については、誰でも提起できるわけではありません。
行政事件訴訟法の規定上は、行政庁に処分・裁決を命じてはいけない旨を求めるにあたり「法律上の利益を有する」ことが要件とされています。
原告適格の考え方に関しては、非申請型義務付け訴訟に加えて取消訴訟とも同じです。原告適格の内容は以下の記事でも紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
取消訴訟との違い

差止め訴訟は取消訴訟と同じ法定抗告訴訟に括られますが、全てのルールが準用されているわけではありません。ここでは取消し訴訟との違いについて解説しましょう。
執行停止の有無
まず主な違いとして挙げられるのが、執行停止の有無です。取消訴訟には訴訟の提起中、執行停止が認められています。要するに行政の処分や裁決を一時的にストップできます。
しかし差止め訴訟には、執行停止の規定が準用されていません。もし訴訟の提起中に仮の救済が欲しいのであれば、仮の差止めが適用されます。
第三者効の有無
第三者効の有無も、取消訴訟と差止め訴訟の大きな違いの一つです。取消訴訟では第三者効が認められるため、判決の効力は第三者にも及びます。したがって第三者の訴訟参加や再審の訴えも認められます。
一方で差止め訴訟には、第三者効が認められていません。判決の効力は、あくまで訴えの提起人のみに及ぶと考えられています。
取消訴訟との共通点
差止め訴訟には、取消訴訟の規定が準用されているものもあります。
- 訴訟の移送
- 共同訴訟
- 訴訟参加
- 職権証拠調べ
- 拘束力
特に押さえたほうがよいのが拘束力です。差止め訴訟には拘束力が働くので、判決は行政庁やその他の関係行政庁を拘束します。したがって差止め訴訟が認められたら、行政庁は処分や裁決を止めなければなりません。
差止め訴訟の代表的な判例

差止め訴訟の中でも有名な判例として位置づけられるのが、国旗に向かっての起立斉唱やピアノ伴奏をしなかったために、懲戒処分がなされた事件です。具体的な事件の内容と判例の結論を解説しましょう。
事件が起こった理由
東京都教育委員会の教育長は都立学校に向けて、入学式・卒業式に関して以下の内容に関する通達を発しました。
- 国旗を掲揚する
- 教職員は国旗に向かって起立・国歌斉唱する
- ピアノ伴奏により行う
- 命令に従わない場合は責任を問う
しかし教職員の中には国歌を歌わない層が一定数おり、この命令に背く人もいたわけです。該当の教職員が通達の内容に従わなかった結果、懲戒処分を受けてしまいます。
その教職員は通達の内容が違法だとし、差止め訴訟と国家賠償請求訴訟を提起しました。
通達に処分性はあるか
通達はあくまで、上級行政庁から下級行政庁に対する行政内部の命令にすぎません。通達だけでは、教職員個人の権利義務を形成するような法律上の効果はないとされています。
そのため処分性も認められず、基本的には抗告訴訟の対象にはなりません。
差止め訴訟の是非
先程も説明したとおり、差止め訴訟は「重大な損害を生ずる恐れ」がないと訴訟要件にはあたりません。もし取消訴訟等の執行停止などで、簡単に救済を受けられるのであれば差止め訴訟は認められないとされています。
しかし今回の通達に関しては、事後的な損害の回復が難しい懲戒処分の内容が取り決められたものです。
懲戒処分が適用されると執行停止などでは太刀打ちできないので、今回のケースでは「重大な損害を生ずる恐れ」に該当すると判断されます。結果的に差止め訴訟も公法上の当事者訴訟として適法と認められました。
差止め訴訟のまとめ
差止め訴訟は、その他の抗告訴訟の中でも極めてマイナーな部類に位置づけられる種類です。勉強が追いつかず、ほとんど見直さないまま試験本番に臨んでしまう方もいるでしょう。
どうしても間に合わない方なら仕方ありませんが、なるべく基本的な部分だけは押さえておいたほうが賢明です。読むだけでもよいので、定期的に内容を見返してください。