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仮の義務付けと仮の差止め|主な具体例とその他の仮の救済も解説

行政事件訴訟法には、仮の義務付け仮の差止めについても定められています。これらは平成16年の改正で誕生した、比較的新しいルールです。

この記事では仮の義務付けと仮の差止めの定義に加え、主な具体例についても取り上げます。行政書士試験や司法試験を受験される方はしっかりと内容を押さえてください。

 

仮の義務付けとは

仮の義務付けの仕組みについてわかりやすく説明している図

仮の義務付けとは、義務付け訴訟が提起されたときにおいて、処分や裁決がなされないことで損害を避けるために適用される救済措置です。このことから仮の義務付けを申し立てるには、義務付け訴訟をまずは提起しないといけません。

その他の細かい条件として、以下の内容が定められています。

  • 償うことができない損害を避ける
  • 緊急の必要がある
  • 本案について理由があると見える

上記の3つの理由が全て当てはまれば、申し立てにより裁判所を決定をもって、仮の処分・裁決すべきことを行政庁に命令できます。ただし公共の福祉に重大な影響を及ぼすときは、仮の義務付けはできません。

主な具体例

主な例として挙げられるのが、学校の入学拒否に関する事例です。例えば身体に障害を抱えている生徒が、バリアフリーが完備されていないために学校長から入学を断られたとします。

生徒の親が義務付け訴訟を提起していれば、仮の義務付けが認められる可能性は極めて高いでしょう。裁判はかなり長い期間を必要とするので、勝訴しても結果的に入学が遅れてしまいます。

そのため仮の義務付けを命じることで、なるべく予定どおりに入学させるわけです。

 

仮の差止めとは

仮の差止めの仕組みについてわかりやすく説明している図

仮の差止めとは、差止め訴訟が提起された場合において、処分や裁決ををしてはならないと仮に命ずることを指します。こちらも差止め訴訟を提起して、初めて申立てが認められます。

細かい条件についても仮の義務付けと同じです(もう一度書きます)。

  • 償うことのできない損害を避ける
  • 緊急の必要がある
  • 本案について理由があると見える

裁判所は仮の差止めが必要と判断すれば、申し立てにより決定をもって命じます。しかし公共の福祉に重大な影響を及ぼす際にはできません。

主な具体例

仮の差止め訴訟が認められる例として、住民票の職権削除の例が挙げられます。例えば行政が住民に対し、虚偽の情報を届け出ているとして住民票から氏名を削除しようとしました。

住民が裁判で争うとしても、住民票の情報が削除されたら人権も著しく侵害されてしまいます。こうした事例においては、とりあえず仮の差止めを発動させて行政の動きを止められます。

 

 

仮の義務付け・仮の差止めへの準用

仮の義務付けや仮の差止めについては、執行停止に加えて次の規定が準用されます。

  • 口頭弁論を経ないで決定
  • 即時抗告ができる
  • 事情が変更したときの取消し
  • 内閣総理大臣の異議

仮の義務付け・仮の差止めは、口頭弁論を経ないでの決定が可能です。ただし当事者の意見を聞かなければなりません。

また何か事情が変わったら、これらの決定が取り消されることもあります。事情の変更がなくとも、内閣総理大臣が異議を述べるケースも許されています(理由が必要)。

 

その他の仮の救済

司法試験レベルの細かい話になりますが、ここでは仮の救済について見ていきましょう。特に押さえたいのが執行停止との違いです。

執行停止には「処分の効力の停止」「処分の執行の停止」「手続きの続行の停止」の3種類があります。一般的に執行停止が認められるのは、以下に掲げる条件があるときです。

  • 重大な損害を避けるため
  • 緊急の必要があるとき

しかし種類によって、条件が細かく変わります。ここでは仮の救済の内容に照らし、処分の効力の停止と処分の執行の停止について解説しましょう(手続きの続行の停止は割愛)。

なお執行停止については、以下の記事にもまとめているのでぜひ参考にしてください。

処分の効力の停止

処分の効力の停止とは、その名のとおり「効力」を暫定的に停止して処分をなかった状態にすることです。こちらは執行停止の中でも、いわゆる最終手段の位置づけにあるといえます。

要するに処分の効力の停止については、処分の執行の停止や手続きの執行の停止ができる場合は認められません。当該救済が認められるのは、不利益処分がなされたケースのみです。

主な例として、パチンコ店の経験者が営業許可の停止を受けた事例に適用されます。

処分の執行の停止

処分の執行の停止は、処分に伴い課せられる強制手段(義務履行など)を停止することです。

処分の効力の停止とは異なり、執行停止が認められる条件に該当すれば認められます執行の停止・効力の停止の説明があべこべになっている選択肢に注意

ただし強制手段の際に認められるので、適用される範囲はやや狭いといえます。主な具体例は、退去強制事由に該当する外国人が令書を交付された事例です。

 

執行停止との違い

最後に仮の義務付け・仮の差止めと執行停止との違いを解説します。要件に焦点を当てて、どのように異なるかをまとめましょう。

救済が認められる要件

執行停止が認められるには、そもそも処分取消訴訟を提起しなければなりません。一方で仮の義務付け・仮の差止めは、それぞれ義務付け訴訟または差止め訴訟の提起が必要です。

さらに執行停止は「重大な損害を避けるため」が要件の一つですが、仮の義務付け・仮の差止めは「償うことのできない損害」に変わっています。償うことのできないとは、原状回復や賠償が不能・困難である状態です。

併せて執行停止では、「本案について理由がある」ことが要件とされていない点も押さえましょう。

救済が認められない要件

執行停止は、以下の条件に該当する場合には認められません。

  • 公共の福祉に重大な影響を及ぼす恐れがある
  • 本案について理由がない(と見える)

一方で仮の義務付けや仮の差止めについては、公共の福祉に重大な影響を及ぼす恐れがある場合に限られています。こちらも引っかけ問題に出される可能性があるので注意してください。

両制度の共通点

仮の義務付け・仮の差止めと執行停止の共通点は、内閣総理大臣の異議が認められる点です。申立て先は、裁判所と規定されています。もし内閣総理大臣が異議を唱えるには、理由も付けなければなりません。

申立てを受けた裁判所は、執行停止ができなくなります。すでに執行停止がなされていたら取消しが必要です。

そして上述の内容は、仮の義務付けと仮の差止めにも準用されます(行訴法37条の5Ⅳ)。

 

仮の義務付けと仮の差止めのおさらい

仮の義務付けや仮の差止めは、行政事件訴訟法の中では少し影の薄い制度といえます。そのため勉強が間に合わず、あまり理解できない状態で試験に臨む人も一定数いるでしょう。

仮の義務付け・仮の差止めは、それぞれ義務付け訴訟と差止め訴訟を提起しなければなりません。この訴訟があって、はじめて申立てが認められる制度です。

また細かい条件についても、押さえておくのが望ましいです。当ブログも試験勉強の参考にしてください。