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行政事件訴訟法の類型|4つのパターンをわかりやすく解説

行政による違法または不当な処分により、国民の生活に甚大な被害を与えるケースもまれにあります。こうした場合において、裁判所に訴訟した際のルールをまとめたものが行政事件訴訟法です。

今回は、行政書士の資格を持っている筆者が行政事件訴訟法の類型について説明します。行政事件訴訟法の範囲は、「判例」も数多く問われます。訴訟の類型だけではなく、ある程度内容を説明できるよう、行政書士試験の勉強に活かしてください。

 

行政事件訴訟法とは

※画像はイメージです

まずは、簡単に行政事件訴訟法を説明します。皆さんが行政から違法または不当な処分を受け、日常生活に著しい支障をきたしたとします。このような事態が起こったら、行政行為の違法性について争いたくなるでしょう。

そこで行政法では、審査請求と行政訴訟の2種類を用意しています。審査請求は、裁判所を経由せずに審査庁の審理手続で解決を図る手続きです。

一方で行政訴訟は、裁判所が行政行為の違法性について判断します。こちらの手続きについて、詳しくまとめた法律が行政事件訴訟法です。

処分以外にもさまざまなケースを想定しているため、行政事件訴訟法は行政法の中でもボリューミーとなっています。行政書士試験では非常に重要な分野となるので、必ず勉強しなければなりません。

ちなみに審査請求の内容は、下記の記事で詳しく解説しています。こちらも併せて参考にしてください。

 

 

行政事件訴訟法の類型

行政事件訴訟法の類型として、4つのパターンを必ず押さえておきましょう。

  • 抗告訴訟
  • 当事者訴訟
  • 民衆訴訟
  • 機関訴訟

法律の勉強をしない人からすれば、いずれも馴染みのないものばかりです。ただし、これらを区別しておかないと行政書士試験で苦戦してしまいます。それぞれのパターンについて、わかりやすく解説します。

抗告訴訟=行政庁への不服

まず、一般的な行政事件訴訟法の類型が抗告訴訟です。行政庁が権力を行使するにあたって「不服である旨」を訴えます。抗告訴訟は、さらに6つの類型があります。

  • 処分取消訴訟
  • 裁決取消訴訟
  • 無効等確認訴訟
  • 不作為の違法確認訴訟
  • 義務付け訴訟
  • 差止め訴訟

内容が多いものの、それぞれの違いを捉えてください。

処分取消訴訟

処分取消訴訟の簡単なイメージについて示した図

処分取消訴訟は、行政庁の下した処分を取り消すよう求める訴えです。対象はあくまで「処分」であるため、処分以外の行政行為への訴えは却下されます。

処分に該当するには、国民の権利や義務を形成し確定させる行為が対象でなければなりません。処分に該当するかどうかを決める判断要素が処分性です。

これまでも数々の判例で「処分性があるかないか」が争われました。処分性の内容については、下記の記事で紹介しているので併せてご覧ください。

裁決取消訴訟

裁決取消訴訟の簡単なイメージについて示した図

裁決取消訴訟とは、行政不服審査法の審査請求に基づいて判断された裁決に関する争いのことです。行政庁の処分に不満を持った住民が、最初に審査請求をしました。

しかし審査庁の裁決に納得がいかず、もう少し争いたいと考えています。裁決取消訴訟は、このケースにおいて採られる行政訴訟です。

厳密にいえば、裁決も行政による処分の一種に分類されます。しかし、行政不服審査法との関係性を整理するため、あえて処分取消訴訟とは別に設けられています。

無効等確認訴訟

無効等確認訴訟は、行政庁の処分や裁決が無効ではないかと争う訴えです。こちらは、以下のケースの場合に国民を救う例外的なものと考えてください。

  • 取消訴訟の出訴期間が過ぎていた
  • 審査請求をしていなかった

法律上の利益を受ける方のみ、訴えの提起が可能です。取消訴訟をカバーする目的もあるため、出訴期間は設けられていません。無効等確認訴訟の具体的な説明は、以下の記事で詳しく解説しています。

不作為の違法確認訴訟

不作為とは、行政庁が必要な処分や裁決を下さないことです。例えば生活保護の基準を満たしている住民に対し、何十年にも渡り申請を受理しないケースが該当します。

何もしない行政庁に対し、「怠慢ではないか」と訴えるのを作為の違法確認訴訟と呼びます。訴訟を提起できる方は、実際に処分や裁決に関する申請をした者です。無効等確認訴訟と同じく、出訴期間がありません。

義務付け訴訟

義務付け訴訟は、行政庁に対し一定の処分や裁決をするよう求める訴えです。種類は、大きく分けて「申請型」「非申請型」の2つがあります。

申請型とは、法令に基づく申請を前提としているパターンです。その申請において、国民の期待に応えるように要求します。一方で非申請型は、申請の存在を前提にしていません。

申請型は、「無効等確認訴訟」や「不作為の違法確認訴訟」と併せて提起する必要があります。非申請型は、「重大な損害」と「損害を避ける方法が他にない」場合を訴えの条件とします。各取消訴訟とは異なり、判決の効力は第三者に影響を及ぼしません

なお、不作為の違法確認訴訟との違いは実行されるか否かです。不作為の違法確認は、あくまで行為を促すだけにすぎません。義務付け訴訟の場合は、行政側が敗訴したら何らかの処分を必要とします。

こちらの記事では、不作為の確認訴訟と義務付け訴訟を解説しています。ぜひ併せて読んでみてください。

差止め訴訟

最後に紹介する抗告訴訟の類型は、差止め訴訟です。こちらは、義務付け訴訟とは反対に行政庁へ特定の処分や裁決を取りやめるよう訴えます。訴訟を提起できる条件は、以下の2点です。

  • 重大な損害の恐れがあるとき
  • 他に回避できる方法がないとき

義務付け訴訟と同じく、判決の効力は第三者に影響を与えません。差止め訴訟の詳しい内容は、以下の記事でまとめているので参考にしてください。

当事者訴訟=法律関係の確認

当事者訴訟の仕組みについてわかりやすく示した図

当事者訴訟は、当事者間の法律関係を確認するための訴訟です。取消訴訟とは異なり、行政主体と国民側が対等な関係で争うといった特徴があります。

例えば土地収用の裁決がなされ、Xの土地が買収されてしまいました。土地収用の起業者が国である場合、元々の所有者Xは国に補償してほしいと思うでしょう。こういったケースにおいて、所有者Xが国と当事者訴訟で争うことがあります。

当事者訴訟には、大きく形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟に分けられます。それぞれの詳しい説明は、下記の記事でしているので併せて参考にしてください。

民衆訴訟=行為の是正を求める

民衆訴訟は、法規に適合しない行為の是正を求める訴訟です。主な例として「住民訴訟」が挙げられます。

例えば行政機関が、大切な公金をギャンブルに使っていたとしましょう。私たちの納めている税金が、ギャンブルに使われていたら普通の人は怒るはずです。

そこで住民訴訟へ進む前に、住民監査請求で不当かどうかを捜査します。不当と判断された場合、取消しや無効を求めて住民訴訟を起こせます。

行政事件訴訟法の類型において、民衆訴訟は客観訴訟に該当します。客観訴訟は「自分の利益」を重視するのではなく、あくまで全体の利益のために争います。直接自分が被害に遭わなくとも、行政訴訟を起こせることが理解できるでしょう。

機関訴訟=行政同士の訴訟

機関訴訟は、機関同士の訴訟と押さえてください。要するに、国や自治体の各機関がお互いに争うことです。

地方自治法では、国の関与に対して自治体が訴訟を起こせる旨定められています。期間訴訟も、民衆訴訟と同じく客観訴訟に分類される種類の一つです。

試験では狙われにくい部分ではありますが、行政事件訴訟法の類型の一つとして覚えましょう。民衆訴訟や機関訴訟に関しては、以下の記事で詳しくまとめています。

 

行政事件訴訟法の類型まとめ

今回は、行政事件訴訟法の類型について解説しました。公務員試験の行政法の中でも、覚える内容が多く難しい分野のひとつです。

まずは、基本となる類型4つをしっかりと押さえてください。具体的な仕組みを押さえたら、各判例を勉強しましょう。

行政事件訴訟の範囲は、判例の理解が欠かせません。スムーズに勉強を進めるためにも、今回の内容は何度も振り返るといいでしょう。