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不作為の違法確認訴訟と義務付け訴訟|主な違いや併合提起について

行政事件訴訟の抗告訴訟は、大きく「取消訴訟」と「その他の抗告訴訟」に分かれます。その他の抗告訴訟に分類されるのが、以下の4点です。

  • 無効等確認訴訟
  • 不作為の違法確認訴訟
  • 義務付け訴訟
  • 差止め訴訟

この中で少し混同しやすいのが、不作為の違法確認訴訟と義務付け訴訟の違いです。今回の記事では両者の違いに加え、併合提起の仕組みについて解説します。

 

不作為の違法確認訴訟とは

不作為の違法確認訴訟について簡潔に説明した図

不作為の違法確認訴訟とは、処分や裁決にかかる申請をした人に対し、行政が何のアクションもしない場合に提起できる訴訟のことです。不作為は、「何もしない状態」を指します。

仮に国民が何らかの申請をした場合、たとえ要件を満たしていなくとも認否の判断を伝えないといけません。もし書類に不備があるときは、相当の期間を定めて補正させるか、申請を拒否する必要があります。

こうした対応をしなければ、申請者に余計な不安を感じさせてしまいます。したがって申請者は、行政の不作為が違法であることを法定で正式に争えます。

原告適格と訴えの利益

不作為の違法確認訴訟について、原告適格とされるのは申請者のみです。第三者が行政の不作為を争う権利はありません。なお仮に申請が不適法だとしても、申請者は関係なく訴訟の提起が可能です。

訴えの利益が認められるのは、口頭弁論の終結時です。そのため訴訟が係属している最中に行政が何らかのアクションをすれば、不作為の違法確認訴訟は却下判決となります。

出訴期間

不作為の違法確認訴訟に関しては、取消訴訟とは異なり出訴期間が定められていません。したがって行政が何のアクションもしなければ、申請者はいつでも訴訟を提起できます。

なお行政は常に多忙なので、申請内容をチェックするには相当の期間が必要です。

行政手続法では申請に標準処理期間を設定できると規定されていますが、こちらが必ずしも相当の期間に当たるわけではなく、あくまで裁判所の判断に委ねられます。

その他の効力

不作為の違法確認訴訟は、取消訴訟と同様に「訴訟の移送」「訴訟参加」「職権証拠調べ」などが認められます。

一方で執行停止については、不作為の違法確認訴訟には適用されません。そもそも何の対応もしない行政の違法性を争うのに、処分をストップさせるといった執行停止は合わないためです。

さらに判決には拘束力が適用されます。仮に申請者(原告)が勝訴した場合、行政は申請に対して何かしらのアクションをしなければなりません。とはいえ申請を認める必要はなく、拒否することも可能です。

 

 

義務付け訴訟とは

義務付け訴訟とは何の処分もしない行政に対して、申請者や審査請求人が処分すべきことを求める訴訟です。抗告訴訟の中でも地味に感じますが、意外と出題されやすい分野です。

しかし訴訟を提起できる要件や勝訴の要件は、非申請型か申請型かで異なります。これらの違いは特にややこしく、試験でも狙われる可能性が極めて高いでしょう。

それぞれに分けて、具体的な仕組みを紹介します。

非申請型義務付け訴訟

非申請型義務付け訴訟の仕組みについて簡潔に説明した図

非申請型は、文字通り申請者以外の者が提起する訴訟のことです。行政事件訴訟法では、第37条の2に規定されています。訴訟できる条件を簡潔にまとめましょう。

重大な損害を生ずること

非申請型義務付け訴訟を提起するには、行政が一定の処分をしないために、重大な損害を生ずる恐れがあることが必要です。

こちらの規定は、申請型義務付け訴訟にはありません。

ほかに適当な方法がない

仮に行政の消極的な対応により重大な損害が生じうる場合でも、すぐに非申請型義務付け訴訟を提起できるとは限りません。当該訴訟は、ほかに方法がない場合の最終手段として位置づけられているためです。

そのため取消訴訟やその他の行政上の権利救済が認められる場合、非申請型義務付け訴訟は提起できません。

しかし民事訴訟は、ほかの適当な方法に該当しないので注意してください(民事訴訟は可能でも、非申請型義務付け訴訟を提起できる)。

法律上の利益を有する者

非申請型義務付け訴訟は、申請という行為に基づくわけではないので、原告適格が「法律上の利益を有する者」と広く定められています。

法律上の利益として挙げられる例は以下のとおりです。

  • 産業廃棄物の焼却施設における設置許可処分の取消しを求めた周辺住民
  • 出生届が正式に受理されず、住民票の作成の義務付けを求めた保護者

ここまで詳しく問われませんが、イメージとして参考にしてください。

申請型義務付け訴訟

申請型義務付け訴訟の仕組みについて簡潔に説明した図

申請型義務付け訴訟は、行政に対して申請したにもかかわらず、何も処置がなされないことに対する訴えです。こちらは行政事件訴訟法37条の3に規定されています。同じく要件をまとめましょう。

申請に関連していること

まず申請型義務付け訴訟を提起できる条件として、行政に何らかの申請をしていることが必要です。主に以下の事例が該当します。

  • 申請をしているのに何の処分・裁決がなされない
  • 無効な却下・棄却がなされた

非申請型義務付け訴訟とは異なり、「重大な損害」や「損害を避けるために他の方法がない」などは要件とされていません。ここは引っかけ問題として狙われやすいので注意です。

併合提起が必要

非申請型義務付け訴訟との大きな違いは、申請型義務付け訴訟には併合提起が必要であることです。併合提起とは、他の訴訟と併せて訴えを起こす方法を指します。

要するに申請型義務付けは、不作為の違法確認訴訟・取消訴訟・無効等確認訴訟と一緒に提起しないといけません。

併合提起された他の訴訟において、請求に理由があると認められるのが申請型義務付け訴訟の勝訴要件にもなります。

 

不作為の違法確認訴訟と義務付け訴訟の違い

最後に不作為の違法確認訴訟と義務付け訴訟の違いをまとめましょう。

「何もしない行政の怠慢を咎める」という目標においては、双方にそれほど大きな違いはありません。

しかし不作為の違法確認訴訟は違法があったとしても、裁判所は基本的に「何かしらの対応をするように!」と命令できるにすぎません。一方で義務付け訴訟は処分や裁決を下させるという違いがあります。

また不作為の違法確認訴訟の場合、原告となるのは申請者のみです。一方で義務付け訴訟の「非申請型」であれば、法律上の利益を有する者は訴えを提起できます。

申請型義務付け訴訟も、不作為の違法確認訴訟等の訴えがあって初めて争えます。それぞれの関係性はややこしいですが、過去問を解きながら両者の違いをしっかりと押さえてください。