公務員試験の行政法では、行政事件訴訟法の執行停止が問われる可能性もあります。この内容自体の出題頻度は高くないものの、総合的な知識として押さえた方が賢明です。
今回は、行政事件訴訟法の執行停止と申立ての利益を公務員試験のレベルで解説します。受験生の方を中心に、制度の内容をしっかりと理解してください。
行政事件訴訟法の執行停止とは
行政事件訴訟法における執行停止とは、行政処分の執行や効力の発生を一時的にストップさせる制度です。原告の権利を守るための救済措置として、例外的に発動されます。
執行の停止は、処分の取り消しについて訴えの提起があるのを前提とします。あくまで取消訴訟の一環として、認められることもある制度のひとつだと押さえてください。
執行停止の具体的な仕組みを解説しましょう。
執行不停止の原則が基本
日本の行政法では、執行不停止の原則が採用されています。なぜなら行政法では、行政の円滑な運営を重視しているからです。
常に執行停止を行うと、処分の手続きが進まずに運営がストップしてしまいます。特に行政は業務量が数え切れない程あるので、できる限り仕事を止めないようにしなければなりません。
もし原告が取消訴訟を提起しても、理由がない場合は行政処分が執行されます。執行停止は、特別のケースのみに認められている制度だと覚えてください。
執行停止が認められる場合
執行停止が認められるのは、処分または手続きの執行が以下の2点にあたるときです。
- 重大な損害を避けるため
- 緊急の必要があるとき
こちらは行政事件訴訟法の第25条に記載されています。参考として、以下の条文にも目を通してみてください。
第25条
処分の取消しの訴えの提起があつた場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止(以下「執行停止」という。)をすることができる。ただし、処分の効力の停止は、処分の執行又は手続の続行の停止によつて目的を達することができる場合には、することができない。
引用:法令検索e-Gov
言葉だけを見ると、極めて例外のケースだと感じるでしょう。しかしながら、現行制度は改正前よりも幅が広がっています。
平成16年に改正される前は「重大な損害」の部分が「回復の困難な損害」となっていました。あらゆる状況を想定し、柔軟に対応できるようにするためです。
執行停止は、公共の福祉に重大な影響を及ぼす場合は認められません。加えて、訴えに勝てる見込みがないときも申立てできないとされています。
申立ての利益がある人
執行停止の申立ては、誰もが自由にできるわけではありません。申立ての利益を有することが前提条件です。
法律に具体的な定めはありませんが、判例上は利益保護との関係性が必要となります。
要するに執行停止が発動されなくとも、原告の権利が守られるのであれば申立ては無効です。
インド国籍の外国人が抗告訴訟を提起した際にも、強制送還の停止は認められませんでした。仮に強制送還されても、現地で引き続き訴訟の継続ができるためです。
また行政事件訴訟法においては、職権による執行停止の申立てはできません。
職権でも執行停止が認められる行政不服審査法と大きく異なります。
執行停止の種類
執行停止には、大きく分けて3つの種類があります。試験に直接問われるかは微妙ですが、制度の全貌を捉えるうえで重要です。簡単にまとめるので、それぞれの特徴を捉えましょう。
処分の効力を止める
執行停止のタイプとして、処分の効力を止めるものがあります。処分によって消えてしまった行為を、一時的に復活させる作用のことです。
公務員の懲戒免職処分を撤回する事例が具体例として挙げられます。
処分の執行を止める
執行停止の代表的なケースが、処分の執行を止めることです。行政処分の中には、国民に義務を課す種類もあります。こうした処分を一時的に停止するのも、執行停止のひとつです。
具体例として、強制送還を停止する行為が挙げられます。
手続きを停止する
処分がされることを前提にして、予定されていた手続きを止めることも執行停止のひとつです。主に事業認定後の収用採決の停止が該当します。
ちなみに事業認定とは、誰かの土地を公共用として用いるために国や自治体から認めてもらう手続きを指します。事業認定後に収用委員会の裁決が開始されますが、執行停止によりストップさせることも可能です。
執行停止の流れ
最後に、執行停止の大まかな流れを解説しましょう。重要な部分をピックアップしてまとめたいと思います。公務員試験対策に踏まえ、もしものときの知識としても押さえてください。
申立ての提起・決定
行政事件訴訟法では、執行停止は申立てによって効力が発動します。管轄の裁判所が申立てを受けて、決定をもって執行停止が行われます。
重大な損害や緊急の必要については、申立人側がある程度釈明しなければなりません。この場合に求められるのは疎明であるため、証明のように確たる証拠までは必要ありません。
なお執行停止の決定は、公開の裁判を経ることなく判断できます。しかし、当事者の意見を聞くといった行為は必要です。
内閣総理大臣の異議
裁判所の執行停止の決定について、行政側が納得いかないケースもあるでしょう。執行停止の決定前後にかかわらず、内閣総理大臣が異議を唱えることができます。
ただし、異議を唱える際には公共の福祉に重大な影響を及ぼす程度の理由が必要です。仮に異議があったら裁判所は執行停止を取り消し、内閣総理大臣は国会で報告しなければなりません。
執行停止の取り消しも可能
執行停止が確定したあとも、その後の事情によっては取り消しできます。理由が消滅した場合は、執行停止を続ける意味もなくなるためです。
取り消しの手続きをスタートするには、相手方(行政庁のケースが多い)の申立てが必要となります。こちらの手続きも、同様に裁判所の決定をもって行われます。
執行停止はとりあえず基礎が大事
今回は、行政事件訴訟法の執行停止について解説しました。公務員試験では、そこまで問われる頻度が高くありません。しかし行政事件訴訟法を構成するルールのひとつであるので、余裕があったら押さえた方が賢明です。
ここではさまざまな制度を紹介しましたが、まずは最初の見出しで紹介した基礎を押さえることが大切です。その後に、執行停止の大まかな流れを覚えましょう。
今後も、ヤマトノ教室では行政法に関する記事を作成します。公務員試験受験者をはじめ、法律の資格取得を目指している方はぜひアクセスしてください。