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訴えの利益とは?原告適格との違いや主な判例を紹介

行政事件訴訟法において、原告適格と同じくらい重要な内容が訴えの利益です。言い方によっては、狭義の訴えの利益と呼ばれることもあります。

しかし、当該要素と原告適格との違いがあまり認識していない人もいるでしょう。ここでは、訴えの利益と原告適格の違いについて詳しく紹介します。

また、訴えの利益にかかる判例も取り上げるので、公務員試験を受験される方は参考にしてください。

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◆この記事でわかること◆
・訴えの利益の定義
・訴えの利益と原告適格の違い
・訴えの利益に関する判例の結論
 

 

訴えの利益とは

訴えの利益とは、原告の請求が認められたときに権利回復が客観的に見て可能である状態を指します。

例えば、行政の不正な処分が原因でAさんの営業免許が停止されました。訴えの利益が認められれば、Aさんに免許を復活させるチャンスが生まれます

訴えの利益によって、必ずしも確実に権利を手に入れられるとは限りません。あくまで可能性を与える作用であり、場合によっては権利を得るための手続きなどは各自でクリアする必要があります。

 

原告適格との違い

訴えの利益とよく似た言葉が原告適格です。しかし、双方は意味が全くもって異なるので区別して押さえてください。

原告適格は、あくまで訴訟を提起できる資格のことを指します。具体的には、訴訟を起こす原告としてふさわしい人物か否かを判断します。

訴えの利益は、原告適格が認められたあとに権利回復の可能性を判断したものです。

要するに原告適格の場合は「人物」、訴えの利益は「訴訟内容」に着目すると覚えてください。

原告適格の内容は、以下の記事でも取り上げているのでチェックしてみましょう。

 

 

訴えの利益と判例

次に、訴えの利益について是非を問うた判例を紹介します。行政事件訴訟法は、最低限として判例の結論部分はしっかりと覚えなければなりません。

ここでは、争われた内容をカテゴリー化して訴えの利益が認められたか否かを解説しましょう。




訴えの利益が認められない事例もあるの?




権利回復したところで、法律上の効果がないケースが主な例だね!

 

期間の経過と利益

まずは、期間の経過によって訴えの利益が失われたかを示した判例について紹介します。

行政処分がなされてから、訴訟の準備をするまで想像以上に時間がかかります。しかし、訴えの期間は規則等で定められており、制限をオーバーしてしまうケースもあるでしょう。

当該パターンの判例では、皇居外苑使用不許可事件が有名です。

メーデーを行うために皇居外苑の使用を申請したものの、不許可処分をされたことで訴訟が提起されました。しかし、訴訟係属中にメーデーの日程である5月1日を過ぎてしまい、争う意味がないと訴えが棄却されます。

原告は当然上訴しましたが、最高裁も5月1日の経過後に訴えの利益を失ったと判旨しました。不許可処分が、今後の使用を金輪際認めないとする主旨ではない点も主な理由です。

なお、皇居外苑使用不許可事件については以下の記事でも紹介しています。あわせて参考にしてみてください。

処分の効果が完了した

処分取消訴訟を提起したものの、行政行為によって処分の効果が完了するケースにおいては訴えの利益が認められないこともあります。

公務員試験でも、この効果の完了については数多く出題されます。しっかりと内容を押さえてください。

都市計画法の開発許可処分

まず具体例として挙げられるのが、都市計画法29条に基づく開発許可処分です。

がけ地部分に建物を建てようとしたAに松戸市が開発許可を与えたものの、近隣住民のXらが反対しました。当該開発許可が違法だと、取消訴訟を提起します。

最高裁は、住民らの取消訴訟に訴えの利益はないと判旨しました。

たとえ開発許可に違法性があっても、違反是正命令を下すような拘束力は生まれないと考えたためです。開発許可と違反是正命令は、互いに障害を与えるような関係でもありません。

開発許可は、あくまで工事に着手するのを認めた判断です。工事が完了し、検査済証が交付された時点で効果を失います

建築工事の完了

建築主事から建築確認を受けたAに対し、隣地に住むXは建築物が違法と確認処分の取り消しについて不服審査請求をしました。

しかし当該審査請求は棄却されたため、今度は行政事件訴訟として確認処分の取消を提起したものの、建築工事がすでに終わってしまいます。

最高裁は建築確認について、確認を受けないと建築工事ができないという効果が与えられているにすぎないと判旨しました。仮に建築確認が違法だったとしても、検査済証の発行に関しては大きな影響がありません。

したがって工事が完了したら、建築確認の取消訴訟において訴えの利益が失われると判断されました。

土地改良事業の認可処分

こちらはある人物が、換地処分にかかる土地改良事業の認可の取り消しについて争った事例です。換地処分とは、土地の区画を新たに割り当てる作業を指します。

認可処分が取り消されれば、当然こうした区画の割り当てにも大きな影響を与えます。仮に換地処分が終了し、原状回復が不可能でも「事情判決(行訴法31条)」とすべきと判断されました。

要するに処分は違法であると宣言しながらも、公共の福祉との関係で請求を棄却する形にします。このことから、土地改良事業の認可処分は訴えの利益が認められました

代替施設の設置

代替施設と訴えの利益で争われたケースとして、長沼ナイキ事件が有名です。こちらの事件は、憲法でもたびたび問題に出題されることがあります。

長沼ナイキ事件は、自衛隊の施設をしたことで保安林の指定を解除した判断がおかしいと争われた事例です。解除処分の取り消しを争ったものの、最高裁は訴えの利益を認めませんでした

その理由は、原告に認められる直接の利益はあくまで保安林の伐採による洪水や渇水の防止であり、代替措置さえ行えば対策を打てるからです。

原告が死亡した

原告の死亡については、公務員の免職事件(旭丘中学事件)が有名です。

ある教員(D)が市教育委員から懲戒免職の処分を受けたものの、処分に納得が行かず取消訴訟を行いました。しかし争訟の最中に死亡したため、相続人のXが承継しようとします。

相続に際し、原審は訴訟の承継はできないと裁判を終了しました。Xはこの判断がおかしいと訴え、訴訟の継続について争います。

最高裁はXの訴えを「正当なもの」と判断し、訴訟の継続を認めました。なぜなら取消訴訟で争われる「給料の請求」は、相続人の生活にも大きな影響を与えるためです。

したがって単なる反射的利益にはあたらず、訴えの利益があると最高裁は認めました。

運転免許に関する訴え

訴えの利益では、運転免許に関する訴えも出題される傾向はあります。当該内容については、免許停止・更新処分で結論が異なるので注意が必要です。

運転免許の停止処分

ある人物(X)は、公安委員会より30日間の自動車運転免許の停止処分を受け取消訴訟を提起しました。

しかし、公安委員会はXが無違反・無処分の状態を1年続けたために道交法上の不利益はなくなり、法律上の利益も失われたと主張します。

最高裁も公安委員会側の主張を支持し、訴えの利益は認めませんでした

その理由は、確かに30日間の免停処分の事実で名誉や信用に傷がつく可能性はあるものの、あくまで事実的な利益にすぎないからです(法律上の利益はない)。

運転免許の更新処分

運転免許の停止処分とは異なり、更新処分については訴えの利益が認められました

こちらはある人物(Y)の運転免許が、更新において優良運転者から一般運転者に降格したことで生じた事案です。その理由として、公安委員会は違反行為を理由に挙げます。

しかし、Yは「違反行為なんてない!」と否認したうえで訴えを提起しました。

最高裁が訴えの利益を認めた理由は、優良運転者あるいは一般運転者の記載は法律上の地位を証明するものと考えたためです。法律上の地位を回復するための訴訟と考えれば、当然に法律上の利益も認められるとしました。

 

訴えの利益は判例が大事

原告適格の内容と同様、訴えの利益の範囲も基本的には判例を押さえることが先決です。ある程度の定義を理解したら、過去に問われた判例を何度も復習してください

最後に、今回の記事で紹介した判例の結論部分を表で整理します。

カテゴリー 判例 訴えの利益の有無
期間の経過 皇居外苑使用不許可
処分の効果の完了 都市計画法の開発許可
建築工事の完了
土地改良事業の認可


代替施設の設置 長沼ナイキ事件
原告の死亡 公務員の免職事件
運転免許の訴え 運転免許の停止
運転免許の更新

過去問をベースに勉強しながら、行政法の正答率を高められるように励みましょう。

判例の勉強についても、基本的には過去問を解くだけで問題ありません。しかし中には、判例の内容を深く勉強したい方もいるでしょう。

もし、より深い内容を知りたいのであれば、公務員試験六法を使って条文と一緒に見ておくことも方法の一つです。解説の内容が非常に読みやすいスー過去と合わせて紹介します。