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処分性とは?判例も含めて処分取消訴訟について徹底解説

行政法の中でも、内容が濃いテーマとして挙げられるのが行政事件訴訟法です。特に、行政事件訴訟法では処分性について公務員試験でもよく出題されます。

判例が数多く出てくるため、行政法の分野ではボリューミーかつ難易度の高いテーマです。ここでは、処分性について判例も交えながら詳しく解説しましょう。

 

処分性とは

行政事件訴訟法では、大きく分けて4つの類型が存在します。

  • 抗告訴訟
  • 当事者訴訟
  • 民衆訴訟
  • 機関訴訟

これらの類型は、以下の記事でも解説したので合わせて覚えてください。

処分性は、抗告訴訟の中の処分取消訴訟で出てくる内容です。詳しい仕組みについて押さえましょう。

処分の意味

処分取消訴訟で用いられる「処分」とは、行政庁やその他公権力の有する機関による権力行使です。

国や地方公共団体などが、直接国民に権利や義務を形成することで初めて認められます。これらの行為がなくとも、権利や義務の範囲さえ確定すれば処分に該当します(国保の受給資格の確認など)。

この行為は、行政手続法にある「申請に対する処分」や「不利益処分」以外でも構いません。

処分性の有無が重要

処分取消訴訟では、処分性の有無が特に重視されます。なぜなら、処分性の有無によって処分取消訴訟が開始されるか否かが決まるからです。

訴訟においては、訴える行為が適法に行われる必要があります。処分性のない訴えは、不適法とみなされて却下されるのが基本です。

これまでも行政行為をめぐって、さまざまな訴訟が提起されていました。その中には、処分性がないために却下された事例も存在します。

行政事件訴訟法の勉強をする際には、各判例における処分性の有無を覚えなければなりません。慣れていない方は、勉強時に苦労されているかと思います。

全ての判例を1つの記事では紹介できないため、ここでは区別するうえでのパターンを紹介しましょう。

 

 

処分性の基準と判例

処分性が認められるには、以下のような判定基準が必要です。

  • 公権力性
  • 具体的法効果

これらの具体的な内容を、判例も含めて噛み砕きながら説明しましょう。

公権力性

処分性は、公権力との争いでないと認められません。行政が関わっていても、私法上の行為の場合は対象外になる点を押さえてください。主な例が国有普通財産の払下げ事件です(最判昭和35年7月12日)。

こちらは、国有となったAさんの土地が大蔵大臣に払下げされた事件を指します。払下げは、国有の財産を民間に売り払うことです。

Aは元々Bに土地を貸していました。しかし、大蔵大臣は払下げした土地をYに売ります。

そこでXはAがBに貸していた土地を、Yが賃借権を譲渡されたと偽り、大蔵大臣がその嘘を信じてしまったと処分取消訴訟を起こしました。

しかし、最高裁は処分取消訴訟の処分性を認めませんでした。国有普通財産の払下げも「私法上の売買である」と認識したためです。

具体的法効果

具体的法効果とは、特定の国民に直接かつ具体的に発生する法的効果のことです。間接的に関わっていたり、効果が抽象的だったりする場合は処分性が認められません。

具体的法効果と認められない事例は、以下の4種類が存在します。

  • 内部的行為
  • 中間的行為
  • 事実行為
  • 規範定立行為

同じく、判例を踏まえて内容について説明しましょう。

内部的行為

内部的行為とは、行政機関のみを拘束する行為のことを指します。主な例として、上級行政庁から送られる通達が挙げられます。

内部的行為は、国民を拘束するものではないので処分性が基本的には認められません。

有名な事例が、墓地や埋葬に関する通達です。こちらは行政庁内で交わされた通達について、取り消すように求めた訴訟を指します。

通達の内容は墓地・埋葬に関する法律13条に関するものでした。当該条文には「墓地の管理者は埋葬の求めを受けたときは、正当の理由がない限り拒んではいけない」と記載されています。

通達では「正当の理由」として他の宗教団体の信者であることも含むと解釈します。一方で寺院Xは、特定の宗教の信徒のみの埋葬に対応していました。

しかし行政が通達に従うと、他の宗教団体の信者であることを理由に埋葬を拒否するのができなくなります。そこで寺院Xは通達の取消しを求めました。

最高裁は通達が行政機関を統制するための文書であり、国民を拘束しないと判断します。したがって当該取消訴訟は却下すべきものと判旨されました。

中間的行為

中間的行為は、行政行為が途中の段階である状態を指します。まだ最終的な段階に至っていない場合は、直接かつ具体的な法律効果を与えるには早すぎると判断されます。

したがって、中間的行為についても処分性は認められません。このケースについては、用途地域の指定や土地区画整理事業の計画決定などの判例があります。

以前、下記の記事でも紹介しているので、具体的な内容はこちらを参考にしてください。

なお、中間的行為が原因で処分性が認められなかったのは、用途地域の指定を押さえれば問題ないかなと思います。

筆者は「都市計画」のワードが出た時点で、処分性は認められないと判断していました(問題の出し方にもよりますが)。

一方で第二種市街地再開発事業や土地区画整理事業の判例は、処分取消訴訟を認めています。

事実行為

行政が法律の見解を表示するだけであれば、事実行為として処分性は否定されます。

ただし、元々は事実行為でも見解を示すことで国民を直接・具体的に拘束するケースもあります。この場合は処分性が認められるので、区別して押さえなければなりません。

該当する主な判例が、ポルノ税関検閲事件です。

事件の背景を説明すると、税関長が女性ヌード写真の輸入禁止をX(業者)に対して通知しました。Xが通知の取消しを求めるため訴訟します。

最高裁判所は通知自体に焦点を当てるのであれば、関税法による事実を示しただけ(観念の通知)と判断しました。一方で、関税法の制約はXの貿易活動を制限することも確かです。

要するに、Xを直接かつ具体的に拘束するため当該通知には法律上の効果があると認められます。結果的に、Xの訴えには処分性があると判断されました。

規範定立行為

規範定立行為は、名称のとおり法律や規則、条例といった規範を制定する行為です。なかには人々を縛る条文もあると思いますが、一般的には国民を特定しません。

したがって、規範定立行為も処分性を否定する見方が基本です。

しかし、法律を読み解くと特定の人に直接・具体的な法的効果が認められるケースもあります。有名な判例が道路指定事件です(最判平14年1月17日)。

この事件は県知事がある道路を2項道路(幅員1.8〜4m未満でセットバックが必要)に指定しました。

基本、建物を建てる際には道路を4m以上確保しなければなりません。道路との間隔が狭すぎると、何か事故があったときに救急車や消防車が通れなくなるためです。

ただし、地域によっては狭くて4mの幅がない道路もあるでしょう。仮に幅員が3mであれば、片側を50cm空けることで4m分を確保できます。このように調整された道路が2項道路であり、別名でみなし道路とも呼ばれています。

事件の話に戻ると、県知事が2高道路に指定すると困るのは敷地所有者のXでした。自身の土地が道路の一部になり、今後使用するうえで制限を受けるためです。

Xは、敷地上の通路も2項道路に含まれるか確認申請を出しました。回答は2項道路と判断、県知事による指定は存在しないと訴えを起こします。

県知事の指定は、あくまで規範定立行為の一環です。しかし、2項道路が決められると敷地所有者は建築や私道について制限を受けます

この観点から見れば、県知事の指定は個々の直接かつ具体的な法的効果を与えている事例です。最高裁も、当該事例では処分性を認めました

 

まとめ

今回は、行政法より処分性が認められるか否かを解説しました。処分性が与えられる条件を確認しつつ、それぞれの判例を押さえることが重要です。

ここで取り上げたほかにも、多くの判例が存在します。余裕があれば、各事件の内容を簡単でいいので調べてみるといいでしょう。

ただし、公務員試験は他の科目との勉強のバランスを重視する必要があります。負担にならないよう、スキマ時間も上手く使いながら調べてみてください。