公務員試験の行政法を勉強する際に、以下の2つのテーマを学んだ人もいるでしょう。
- 行政行為の取消し
- 行政行為の撤回
これらの意味は同じと思うかもしれませんが、この2つの意味は全くもって異なります。行政行為の取消しと撤回の違いについて解説しましょう。
行政行為の取消し
はじめに、行政行為の取消しを詳しく説明します。撤回との違いを見比べるためにも、まずは取消しの内容をしっかりと覚えましょう。
取消しの定義
行政行為の取消とは、「最初から瑕疵のあった行政行為の効果を失くす」行為を指します。
例えば、自動車の普通免許を交付した場合を想定しましょう。本来、免許は成年に達していないと貰えません。
しかし、年齢を偽って16歳で交付を受けた場合はどのように処理されるのでしょうか。
このような違法(瑕疵)が見られた場合、免許をもらった当初に遡って効力が取消されます。
行政行為の取消しは遡及効
行政行為の取消しは、行為がなされた当初に遡って効力を発揮すると書きました。この効力は『遡及効』と呼ばれます。
つまり、取消されたら免許の効力は元々なかったものと考えられます。違法な行為で取得した人に対し、免許を与えたと認めるわけにはいかないからです。
行政行為の撤回
つづいて、行政行為の撤回について同じく定義や具体例を紹介します。公務員試験の問題では、取消との違いが問われた年もありました。それぞれの内容を整理し、自分の言葉で説明できるよう理解してください。
撤回の定義
行政行為の撤回は「瑕疵のない行政行為を取り消す」ことです。こちらも自動車免許を例に出して説明しましょう。
ある方に車の免許を渡しました。年齢も正確だと確認し、病気や障がいも特にありません。全ての条件を確認し、講習や試験もクリアしました。
しかし1ヶ月後に他人の車を巻き込んだ大事故を起こし、免許取消の罰を受けたとします。
「免許取消し」の言葉が出てくるのが紛らわしいですが、こちらは免許取得時は適法に手続きしたものの、その後に違法な行為が見られて効力を失ったパターンです。
したがって当該ケースの場合は「行政行為の撤回」に該当します。
行政行為の撤回は将来効
行政行為の撤回は、将来に向かってのみ効力を発揮します。そのため、免許を交付した当時から無効になるわけではありません。
年齢を詐称していた場合は、取消されたら免許が与えられた期間はないと判断されます。
しかし、撤回に関しては交付を受けてから取消されるまでは効力が認められます。つまり、ある期間までは免許を持っていたと主張することも可能です。
さて、ここからより深く内容を確認します。専門用語も分かりやすく説明しましょう。
取消しと撤回の実務的な違い
取消しと撤回の話を掘り下げる前に、行政庁の関係性を勉強します。上級庁と下級庁の定義からしっかりと押さえてください。
行政庁とは
行政庁とは、行政主体の意思を外部に表示する機関のことです。機関とはいえ、基本的には都道府県知事や市区町村長のような立場の人を行政庁と呼びます。
都道府県庁や市区町村役場といった施設は、行政主体に分類されるものです。これらはややこしいですが、間違いないように覚えてください。
上級庁と下級庁
行政庁の分類として、上級庁と下級庁に分ける方法があります。下級庁は、上級庁からの指示を受ける機関のことです。
その例のひとつとして「市(市長)」と「県(県知事)」の関係が挙げられます。市の上に県はありますが、上級庁にあたるかどうかは事業によりけりです。
僕は児童福祉課勤務でしたが、児童扶養手当等では行政不服申立てを最上級庁の県知事にするよう定められていました。また県から市町村に対し、さまざまな指示の下で仕事をしていたのを覚えています。
こうして、行政は上級庁又は下級庁の意思を伝達できるよう整備されています。
上級庁は取消と撤回ができるか
市役所・村町役場が事務をする中で、瑕疵(違法や不当など)が見られたケースを想定しましょう。
上級庁である都道府県知事は、取消や撤回ができると思いますか。正解はこちらです。
- 取消→可能
- 撤回→不可能
取消と撤回で上級庁の権限が変わるため、しっかりと整理してください。公務員試験では理屈まで問われませんが、深く理解したい方は覚えてもいいでしょう。
取消しと上級庁の関係
取消に該当すれば、本来持たせてはいけない力が働いています。つまり、早急の処置が必要な状態です。
処分庁(下級庁)が気付かない場合は、元の状態に戻すよう上級庁が取消しなければなりません。そのため上級庁は、下級庁の代わりに行政行為の取消しが可能です。
撤回と上級庁の関係
撤回は下級庁の下した処分と密接につながっています。交通事故を起こした市民の免許を取消す際にも、状況は処分庁がより詳しく知っているはずです。
ある程度の裁量(下級庁側の意見や見方)も当然に存在します。上級庁が勝手に行えば、下級庁の判断を無視してしまう危険性があります。
したがって上級庁は、下級庁の処分に対して勝手に撤回できないと考えられています。
撤回自由の原則
また、撤回には「撤回自由の原則」が働きます。原則として、法律の根拠無く処分庁は自由に撤回が可能です。
とはいえ、撤回のせいで住民に負担がかかることも考えられますよね?その負担を補う、損失補償の対象にも撤回は当然なり得ます。
加えて、行政行為の裁決がなされたら、争訟手続きに委ねられるため撤回できません(撤回自由の例外です)。
撤回と行政手続法の関係性
撤回は行政手続法に則ります。
ちなみに、行政法は行政手続法や不服審査法、行政訴訟法などの行政にかかる法律の総称です。撤回は不利益処分に該当するため、聴聞手続を取らないといけません。
聴聞手続とは、撤回をするとなったときに「相手の方や利害関係人に意見を言う機会を与える」ことです。
このあたりも勉強し、試験に出されても問題なく解けるよう準備しましょう。
まとめ
行政行為の取消しと撤回は似ているものの、意味が異なるので区別して押さえないといけません。ここでは、特に押さえたほうがよいポイントを整理します。
- それぞれの定義の違い
- 取消しは遡及効、撤回は将来効
- 上級庁と取消し・撤回の関係
また行政法を学ぶには、行政庁の仕組みも理解する必要があります。
行政法は慣れない用語が多く、取っつきにくいと感じる人もいるでしょう。ただし公務員として働くうえで基礎的な内容となるので、しっかりと勉強してください。