公務員試験や行政書士試験の中でも、比較的苦戦されるであろう範囲が行政手続法です。申請に対する処分を中心に、覚えるところが多い分野といえます。
この記事では、公務員試験・行政書士対策向けに「申請に対する処分」の内容を解説します。これらの試験を受験される方は、しっかりと内容を押さえてくださいね。
申請に対する処分
行政手続法に定められている事項は、大きく以下の5つに分かれます。
- 申請に対する処分
- 不利益処分
- 行政指導
- 届出
- 意見公募手続
その中でも、まず勉強すべき分野は「申請に対する処分」です。こちらは国民の申請に対し、行政がどのように対応すればよいかを定めています。
申請は国民が行政に対し、許可や認可(許認可等)といった利益を求める行為です。国民の権利にも関わる内容であるため、生活において極めて重要なルールといえます。
審査基準の考え方
国民から申請があった際、特にルールがないと行政の勝手な判断で許認可が決まってしまう恐れもあります。このリスクを防ぐべく、公平にジャッジするための基準が審査基準です。ここでは審査基準の規定について解説します。
設定・公表は法的義務
申請に対する処分の審査基準は、設定および公表のいずれも「法的義務」であることを覚えてください。したがって行政は、絶対に当該基準を設定し公表しなければなりません。
先程も説明しましたが、審査基準は公平なジャッジを保証するために設けられるものです。国民側に示されていなければ、透明性の向上という一番の目的に背いてしまうでしょう。
「法的義務」「努力義務」に関する引っかけ問題は、公務員試験や行政書士試験ではよく見られます。得点源になるので、これらの区別はしっかりと付けましょう。
ただし「公表」の意味は、あくまで「国民に対して内緒にしない」と解釈されます。行政側が国民に対して、積極的に周知する必要はありません。事務的には、国のホームページ等で掲載するだけでもOKです。
審査基準は「具体的」に
こちらも当たり前ですが、審査基準はできる限り具体的に定める必要があります。あまりにも抽象的すぎると、仮に拒否されたときに国民が納得いかないためです。
とはいえ何に対して許認可の判断をするかで、具体的の意味合いもまた変わります。試験勉強においては、とりあえず「具体性が大事」である点を押さえれば問題ありません。
審査基準の具体性が争われた判例
審査基準の具体性が争われた判例として、個人タクシー免許事件が挙げられます。こちらは個人タクシーを開業しようとしたXが、陸運局から「主張と証拠提出の機会を与えられずに」申請を却下された事案です。
結論から言うと、最高裁は陸運局の申請を却下した判断が違法であると判旨しました。最高裁は道路運送法の規定は基準が抽象的であるため、審査基準を具体的に定めるべきとします。
また審査基準の内容が微妙だったり、高度な認定が必要だったりする場合は、申請人に主張と証拠提出の機会を与えないといけないとしました。
まとめると上記のような「申請人に主張と証拠提出の機会」を与えず、申請を却下した当該事案では陸運局のほうに非があると認められました。
標準処理期間の考え方
行政が申請を受理したものの、いつまでも許認可の判断を下さなかったら国民を不安にさせてしまいます。そのため行政手続法では、標準処理期間の取り扱いも定めています。審査基準との違いをしっかりと押さえましょう。
設定は努力義務
標準処理期間の設定は努力義務とされています。できる限り定めるのが望ましいものの、審査基準とは違って強制されるものではありません。
なお標準処理期間の考え方ですが、こちらは適切な方法で提出された書類に適用されます。記載漏れや添付書類の不備の補正に必要な期間は該当しません。
公表は「法的義務」になる
ここが紛らわしいポイントですが、仮に標準処理期間を定めた場合、それを公表するのは「法的義務」となります。機関の事務所に備え付けるか、ホームページ等に掲載しなければなりません。
したがって国民は、標準処理期間の有無を把握できるようになっています(何も掲載していなければ標準処理期間が設定されていないと分かる)。
たとえ公表したとしても、その期間を絶対に守らないといけないわけではありません。結局は「標準」であるため、国民にはざっくりとした基準が伝わればよいのです。
申請の許認可に関する規定
続いて申請に対する処分の、事務対応に関する規定を紹介します。行政はどう応答すればよいか、理由の提示に関する取り扱いを押さえてください。
申請が届いたら遅滞なく処理
行政は、申請が届いたら遅滞なく審査を開始しないといけません。職員は記載内容や添付書類の不備がないかのチェックが必要です(実際の仕事でも重要なルール)。
もし不備が見られたときは、速やかに以下の対応を行います。
- 相当の期間を定めて補正させる
- 許認可等を拒否する
実際の試験でも、「拒否はできず補正を求めないといけない」などという選択肢が出てくることもあります。こちらは間違いで、行政は「拒否もできる」と覚えてください。
許認可の拒否には理由が必要
許認可を求める申請の拒否においては、理由を提示しなくてはなりません。ただし以下の条件に該当する場合は、申請者から求められたときに示せばOKとされています。
- 要件や審査基準の数量的指標(客観的指標)が明確である
- 指標に適合しないのが申請書から明らかである
また許認可の拒否を書面でする際には、理由も書面で示さないといけません。なお理由の提示が必要なのは、あくまで「許認可を拒否する」ときです。申請内容を認める処分は、申請者に不都合がないので理由もいらないとされています。
理由の提示が争われた判例
許認可等を拒否する申請において、理由の提示が不十分ではないかと争われた判例もあります。特に有名な2つのケースを紹介しましょう。
- 青色申告の更正における事案
- 旅券発給拒否の事案
どちらも結論部分はほぼ同じですが、試験で正答できるように押さえてください。
青色申告の更正の判例
毎年2月に確定申告が実施されますが、ある人物(X)が青色申告をしたところ税務署は計算が違うと更正処分を通知しました。
要するにX自身で計算した所得額と、税務署で算定したXの所得額に開きがあったのです。更正処分がなされると、追徴課税(ペナルティ)の可能性が高まるなど納税者が不利になります。
しかし更正処分の理由には、根拠が一切記載されていませんでした。Xは理由が不十分だと審査請求したものの、国税局長に棄却されたので訴訟を提起します。
結果的に最高裁は、税務署の理由の書き方は要件を満たしていないと判旨しました。どの勘定科目に漏れがあり、どの根拠に基づいて更正したかの記載がなければ、納税者も状況が飲み込めないためです。
旅券発給拒否の事案
サウジアラビアに渡航しようと考えていたXは、一般旅券の発給を申請しました。しかし外務大臣から「旅券法13条1項5号に該当する」とだけ理由を記載され、発給を断られてしまいました。その対応に対し、Xは訴訟を提起します。
こちらも最高裁では、外務大臣(被告側)の対応に問題があるとしました。
理由の提示は、記載内容から「どの規定に基づき、どういった関係で発給が拒否されたか」を把握できなければなりません。単に根拠規定を示しただけでは、当該事案との関係性が不明確なままです。
そのため単に根拠規定を示した記載方法は、理由の書き方として不十分と判断されました。
公聴会の開催
行政の申請に対する処分により、申請者のみならず第三者にも不利益が生じる場合もあります。もし許認可の要件が、第三者の利益も考慮すべきものであれば、公聴会の開催が求められます。
公聴会とは、申請者以外の意見を聴く制度のことです。しかし公聴会の開催はあくまで努力義務であり、何が何でも実施しないといけないものではありません(行政の負担も大きいため)。
申請に対する処分の勉強法
申請に対する処分の内容は、審査基準と標準処理期間の違いを押さえるのが絶対です。努力義務か法的義務かは試験でも問われやすいので、確実に正答できるようにしましょう。
また理由の提示や公聴会の開催など、細かいルールが問われることもあります。特に公務員試験では行政法対策をじっくりとはできませんが、上手くイメージして覚えましょう。
公務員試験と行政書士試験では、どちらとも判例の対策も重要です。ここで取り上げたようなメジャーな判例は必ず覚えてください。