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行政手続法の不利益処分|聴聞と弁明機会の付与の違いも解説

行政手続法には、不利益処分に関する定めもあります。行政は国民が不利益と感じる処分を下せますが、原則として意見を陳述する機会(聴聞か弁明機会の付与)を与えないといけません。

この記事で紹介するのは、不利益処分の内容と聴聞および弁明機会の付与のルールについてです。公務員試験や行政書士試験でも問われやすいので、試験勉強をされている方はしっかりと押さえてください。

 

不利益処分とは

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不利益処分とは、名あて人(特定の者)に対して直接に義務を課したり、権利を制限したりする処分のことです。主な例として「運転免許の取消し」が挙げられます。

一般的に不利益処分が採られると、ときに国民の人権にも著しく悪影響が及ぶ可能性もあります。したがって相手の主張を尊重すべく、意見陳述手続きを採らないといけません。

意見陳述手続きとは、聴聞や弁明機会の付与のことです。これらのルールが複雑であるため、しっかりと区別して覚えてください。

 

 

重い処分には「聴聞」が採られる

聴聞とは、名あて人に及ぼす不利益の程度が重い場合に採用される制度です。主な例を挙げてみましょう。

  • 許認可等の取消し
  • 名あて人の資格・地位を剥奪する行為
  • 役員の解任等(法人の場合)
  • 名あて人の業務に従事する者の解任
  • 行政庁が相当と認めるとき

聴聞は、口頭による手続きが行われます(口頭審理主義)。

聴聞に参加する人々の関係

聴聞には、さまざまな立場の人が参加します。混乱しやすい部分なので、言葉とその意味をしっかりと押さえてください。

  • 主宰者
  • 名あて人
  • 代理人
  • 参加人

それぞれの関係性を簡潔に紹介しましょう。

主宰者

主宰者は、聴聞を主宰する行政庁によって指名される職員等のことです。行政庁への質問について許可を出したり、審理の記録をまとめたりと会全体をつかさどります。

ただし公平性の観点から当事者や参加人、これらの親族等(配偶者・四親等内の親族・同居している親族など)が主宰者になることは認められていません。

名あて人

名あて人とは、不利益処分を下す相手側のことです。不利益処分の性質上、相手は名あて人として特定される必要があります(不特定の人への処分は不利益処分にならない)。

彼らが聴聞で認められる権利は、大きく分けて以下のとおりです。

  • 代理人を選任する
  • 文書等の閲覧請求(聴聞終結まで)
  • 意見陳述および証拠書類提出
  • 聴聞調書・報告書の閲覧請求
  • 補佐人との出頭(主宰者の許可が必要)

この中で問われやすいのは、文書等の閲覧請求です。こちらは聴聞が終結するまでであればいつでも請求でき、行政庁も第三者の利益を害する、その他正当な事由がないと拒否できません。

文書等閲覧請求と混同しやすいのが、聴聞調書や報告書の閲覧請求です。こちらは聴聞終結後に作成される記録書であり、当然ながら聴聞終結後にも請求できます。文書等の閲覧請求における「聴聞終結まで」と一緒にしないでくださいね。

代理人

代理人とは、名あて人によって選任されることで聴聞に参加できる者です。書面によって証明すれば、名あて人が聴聞で認められる権利の一切を行使できます。

代理人を選任するうえでは、主宰者から許可を得る必要もありません。ちなみに代理人も、主宰者になることが認められていない人物の一人です。

参加人

聴聞の手続きにおける参加人とは、不利益処分において利害関係を有する当事者以外の第三者のことです。主宰者が必要と認めたとき、または主宰者が許可を下した場合に参加できます。

参加人も名あて人と同等の権利を得るので、文書閲覧請求や代理人の選任も可能です。

聴聞の基本的なルール

聴聞を開催する際には、相当の期間を設けて名あて人に対して「書面」で通知しなければなりません(公示から2週間経過したときも同様)。通知には意見陳述の機会や証拠書類の提出の権利、資料閲覧請求の権利などを教示する必要があります。

先程も説明したとおり、文書閲覧請求は基本的に拒否できませんが、行政庁は日時や場所の指定が可能です。

開催したうえで再度聴聞の必要が生じたら、主宰者は新たに日程を指定して会を続行できます。ちなみに名あて人は聴聞の結果に納得が行かなかったとしても、その結果に対する審査請求はできません。

聴聞の具体的な流れ

公務員試験に関しては、聴聞の具体的な手続き内容まで勉強する必要はありません。この見出しにおいては、行政書士試験向けの内容となります。ただし実際に勤務するときに活かせるかもしれないので、簡単に目を通してみてください。

聴聞の流れは、大きく以下のように分けられます。

  1. 行政庁の職員が不利益処分の内容と根拠規定を説明
  2. 名あて人・参加人による意見陳述、証拠提出、質問
  3. (必要があるとき)続行期日を指定する
  4. 聴聞調書や報告書の作成
  5. 不利益処分をするかどうかの決定

これらは全て行政手続法に定められている内容です。

 

 

弁明の機会の付与

弁明の機会の付与は、聴聞と比べて不利益の程度が軽い場合に採られる手続きです。

  • 営業停止処分
  • 施設の改善命令
  • 免許の効力の一時停止処分

聴聞との大きな違いとして、次の3点が挙げられます。

  • 原則書面で行う(行政庁が認めたときは口頭)
  • 参加人は関与できない
  • 文書等の閲覧請求は認められない

これらの内容は、公務員試験や行政書士試験でも問われやすい部分のひとつです。聴聞のケースと区別して覚えてください。

一方で「代理人の選任」「証拠書類の提出」は弁明の機会の付与でも認められます。ややこしいポイントですが、上手く自分の中で整理するとよいでしょう。

 

不利益処分のまとめ

不利益処分は、行政手続法の中でも覚えるところが比較的多い分野です。特に聴聞と弁明の機会の付与は、混同しやすいので注意しなければなりません。

聴聞と弁明の機会の付与について表でまとめてみました。こちらも勉強時の参考にしてください。

  聴聞 弁明の機会の付与
方式(原則) 口頭 書面
代理人の選任
証拠書類の提出
参加人
文書等閲覧請求