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詐害行為取消権とは?要件や行使方法についてわかりやすく解説

行政書士試験や公務員試験の民法において、詐害行為取消権がわからず困っている人もいるでしょう。難しく感じる理由は、専門的すぎて日常生活ではまず関わることがないからです。

この記事では、行政書士試験や公務員試験に一発合格した筆者が詐害行為取消権をわかりやすく解説します。要件や行使方法もしっかりと押さえてください。

 

 

詐害行為取消権とは

詐害行為取消権とは、民法第424条以降に定められている債権を回収する方法の一つです。この用語を理解するには、具体例から押さえるのをおすすめします。

詐害行為取消権の具体例

詐害行為取消権の具体例を図でまとめてみました。そもそも詐害行為とは、債務者が債権者を害するのを知っていながら、自分の財産を減少させる行為です。

例えば、A(債権者)がB(債務者)に100万円を貸しました。Bはそのお金を使い、腕時計を購入します。Aは返済を待っていましたが、期限が過ぎてもお金は返ってきません。

そのためBの持っている腕時計に対し、差し押さえして競売しようと考えました。一方でBは、せっかく買った腕時計を手放したくありません。そこで差し押さえを避けるべく、第三者のCに対して贈与を検討します。

このように財産の差し押さえなどを防ぐために、あえて第三者へ譲渡する行為が詐害行為になります。民法の規定では、Aにはこうした行為を取り消す権利があるわけです。

詐害行為取消権はあまり見られないが

説明を読んでいる方も思ったかもしれませんが、詐害行為取消権はなかなかにマニアックです。現実世界で行使する場面はほとんどありません。

具体的な統計データがあるわけではないものの、判例をみても勉強するのは古いものばかりです。とはいえ行使された例はありますし、実際に詐害行為をされたら債権回収に支障をきたしかねません。万が一、日常生活でも似たような場面に遭遇したとき、民法上のルールを知っておくと便利です。

 

詐害行為取消権の要件

詐害行為取消権には、債権者・債務者・第三債務者ごとに要件が定められています。要件に該当しなければ、権利を主張できません。各立場に分けて解説します。

債権者の要件

詐害行為取消権を行使する際の債権者側の要件が、金銭債権であることです。つまり債務者がお金を返してくれないとき、債権者は初めて行使できます。

ただし特定物の取引について、詐害行為取消権が使えないわけではありません。特定物の取引の具体例として、債務者が自動車を引き渡す行為が該当します。債務者が詐害行為をすることで、無資力(一文なし)になる場合は例外的に認められます。

また詐害行為取消権の対象は、詐害行為の前の原因に基づいて生じた債権のみです。詐害行為をしたあと、再び債務者にお金を貸した分は適用されません。債権の内容だけではなく、発生するタイミングも重要であると押さえてください。

債務者の要件

債務者の要件は、債務者の立場からみた要件(主観的要件)と双方の関係を俯瞰的にみた要件(客観的要件)に分けられます。それぞれを区別しながら解説します。

主観的要件

詐害行為取消権の主観的要件は、債務者が自分の行為が債権者を害することを知ってなされたことです。つまり債務者が債権者を害すると知らなかった場合は、詐害行為取消権の対象になりません。

害することを知っていたかどうかは、債権者側が主張する必要があります。法律の世界は、原則として権利や利益を主張する側に証明責任があるためです。

ただし、債権者を害するのを意図していたことまでは要件としません。あくまで「知っていたかどうか」が判断ポイントとなります。詳しい内容については、民法第424条も参考にしてください。

第424条

債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

引用:法令検索e-Gov

客観的要件

詐害行為取消権の客観的要件は、わかりやすく法律行為の種類ごとに行使できるかできないかを表でまとめました。

詐害行為取消できる 詐害行為取消できない

・契約
・債務の免除
・遺産分割協議

・婚姻(身分行為)
・相続放棄
・債権譲渡の通知
・離婚の財産分与(※)

 

これらを見分けるポイントは、財産権を目的にしているかどうかです。契約や債務の免除、遺産分割協議はいずれも自分の責任財産を守るうえでの直接的な行為です。

婚姻は身分行為であるほか、相続放棄も単に権利を手放すのを主張しています。加えて通知も事実上の行為であるため、債権者は詐害行為取消権を行使できません。一方で離婚の財産分与に関しては金額が不当に過大な場合、その部分は認められます。

第三者の要件

まずは図を参考にしつつ、第三者として受益者と転得者を押さえてください。図のように受益者は詐害行為で直接利益を受けた人転得者は当該行為から派生して利益を得た人物を指します。

詐害行為取消権の要件の一つが、第三者にあたる人が債権者を害するのを知っていたことです。受益者を相手にするときも、転得者を相手にするときも条件は同じです。転得者が複数人いるときは、全員が債権者を害することを知っていないといけません。

 

 

詐害行為取消権の行使方法

次に、詐害行為取消権の行使方法について紹介します。現実世界では、この手続きを行うタイミングはあまり訪れないでしょう。

しかし、知っておくだけでも日常生活で役立つはずです。公務員試験の勉強のみならず、今後の生活に繋がる知識として覚えてください。

裁判上で行使する

詐害行為取消権は、必ず裁判上で行使しないといけません

全員が債権者を害すると知っているとはいえ、当該権利は第三者にも影響を及ぼします。そのため、裁判所を介してトラブルを解決する必要があります。

ただし、詐害行為取消権は抗弁として行使できません。抗弁とは、相手の主張を打ち消すために別の事実を訴える防御方法のことです。

民法の規定では、あくまで「裁判所で請求できる」とされています。要するに、自らが訴えを提起して主張できるものであり、相手の訴えから守る手段としては使えません。

行使する相手は第三者

勘違いしやすいポイントですが、詐害行為取消権を主張する相手は受益者や転得者(第三者)です。債務者に対して、権利を主張するわけではありません。行政書士試験や公務員試験でも、引っかけ問題として問われる可能性があります。

受益者や転得者に主張する理由は、あくまで失いつつある財産を回復させるためです。財産さえ戻ってくればいいので、現段階で所持している者に対して「返してくれ」と訴える手法となります。

詐害行為取消権の時効

詐害行為取消権は、次の出訴期間を過ぎたら行使できません。時効は次の2種類となっているので、こちらも併せて覚えるようにしてください。

  • 債権者が詐害行為を知ったときから2年
  • 詐害行為のときから10年

2年と10年という期間は、民法のほかの規定をみても珍しいです。数字を覚えるのは大変であるものの、一つずつしっかりと勉強しておくとよいでしょう。

詐害行為取消権が適用される範囲

詐害行為取消権を行使するにあたり、どこまでが取消しできる範囲になるかは、財産の種類によって異なります。金銭のように分けることができる財産であれば、自己の債権額の限度のみです。100万円を貸しているのであれば、その金額をオーバーできません。

ただし金銭以外の財産(動産や不動産)は、分割できないため仮に債権額を超えているものでも、行為全部を取り消せます。つまり債務者が第三者に建物を贈与する行為について、債権者は贈与そのものの取消しが認められます。

詐害行為取消権が適用される内容

詐害行為取消権は、基本的には財産を直接取り返す制度ではありません。あくまで総債権者の共同担保を保全する、つまり元の状態に戻すのが狙いです。

ただし金銭や動産であれば、直接自己に引き渡すよう請求できます。これらは民法第424条の9に定められている限定的な規定です。一方で不動産の場合、自分に対して直接所有権移転登記手続を求めることはできません。

詐害行為取消権の効果

詐害行為取消権の判決が下されたら、その効果はすべての債権者と債務者に及びます。たとえば、債務者Bの債権者にAと甲の2人がいたと仮定しましょう。

財産を第三者に譲り渡そうとするBに対し、Aのみが詐害行為取消権を行使したとします。しかしAが取消権を行使した場合でも、甲より優先的に弁済を受けられるわけではないのが特徴です。

その一方で、Aが甲に対して財産を分配する手続きも存在しません。したがって、ほかの債権者に分配する義務を負わないことも押さえてください。

 

詐害行為取消権の整理

今回は、民法第424条に記載されている詐害行為取消権の要件を解説しました。こちらの手続きは、極めて独特であるため実生活ではなかなか行使するタイミングはありません。

一方で、公務員試験や行政書士といった試験では出題されることもある分野です。まずは、しっかりと内容をイメージする必要があります。

特に押さえなければならないのが、債務者・債権者・第三者(受益者・転得者)の要件です。加えて、裁判上で行使する義務と主張する相手が第三者であることを押さえるといいでしょう。

このブログでは、今後も公務員試験などの試験問題の解説を行います。受験される予定の方は、マト塾の更新をお楽しみにしてください。