公務員試験や宅建試験では、地上権の内容も押さえなければならない分野の一つです。しかし、賃借権との違いがあまりわからない方もいるでしょう。
この記事では、地上権の制度を賃借権と比較しながら解説します。就職試験や資格試験で民法を使う方は記事を参考にしてみてください。
地上権とは
地上権とは、他人の土地を使用する権利のことです。
例えば、仕事で使う作業場をどこかに作るとしましょう。無論、自由に土地を使いたい場合は、一緒に購入の契約を進めてもいいかもしれません。しかし建物と合わせてローンを組むのは、不安だと感じる人もいるはずです。
その場合は、地上権によって他人の土地を使わせてもらう形で作業場だけ建てる方法が有効です。地上権は地役権や永小作権と同じく、他人の所有物を使用または収益する用益物権の一種となります。
なお、図のように地上権を行使する人のことを地上権者と呼びます。
地上権と賃借権の違い
地上権の制度を見ると、他人の所有物を借りる賃借権と同類だと感じる人もいるでしょう。しかし地上権と賃借権はルールも含めて大きく異なります。それぞれの違いについて解説しましょう。
権利の性質の違い
大前提として地上権と賃借権は、権利の性質が異なります。地上権はあくまで物権の一種であり、1つの物に1つの権利しか成立できません(一物一権主義)。
また、物権には「物権法定主義」の原則も存在します。自由性がほとんどなく、法律に基づいて手続きがなされるのが特徴です。
一方で、賃借権は債権の一つとされています。基本的に契約の自由の原則に則るため、地上権と比べてある程度は自由が働きます。
地上権は物権、賃借権は債権と区別して押さえてください。
存続期間の違い
地上権は、当事者間の話し合いにより永久に設定するのも可能です。民法では特に規定がありませんが、判例上で認められています。
賃借権の存続期間は、最大で50年以内です。こちらは、民法の604条に規定されています。
費用と構成要件の違い
通常、地上権を行使する際には土地の所有者に地代(土地を借りるお金)を支払います。ただし、この場合の地代は地上権を構成する要素にはなりません。
言い換えれば、地上権は地代が発生しなくとも成立できる権利です。あくまで特約がある場合に、費用が発生するものと考えられています。
賃借権の場合は、賃料が発生してはじめて成立する権利です。つまり賃料が存在しなければ、そもそも賃借権自体が完成しません。
賃料は地代とは異なり、賃借権を形作る要素になると覚えましょう。
各請求権の違い
他人の土地を使用している間も、法律的にさまざまなトラブルが発生するケースも考えられます。自身の地上権を主張するために、どのような請求が認められるかを賃借権と比較しながら解説しましょう。
登記請求権について
まず押さえなければならないのが登記の関係です。登記とは、自身の権利を主張するための法的な公示制度を指します。
地上権は、基本的に登記を元に成立する権利です。たとえ権利を第三者に譲渡させたときは、登記移転請求権を行使できます。
しかし、賃借権の場合はこうした請求権が当然のごとく認められているわけではありません。法律上は仮に登記移転がなくとも、権利を第三者に移転させることもできてしまいます。
手続き次第では、賃借権にも登記請求権が認められるケースは存在しますが、公務員試験で覚える必要はありません。
妨害排除請求権について
権利のない人が、他人の土地を使っている場合は自身の行為にも支障が出るでしょう。その際に、地上権であれば当然に妨害排除請求権が認められます。問題の人物を追い出し、自身の権利を守る手段ですね。
一方で、賃借権の場合は「対抗要件を備えた場合のみ」と権利の行使に制限がかけられています。細かい部分にはなりますが、押さえておいて損はありません。
譲渡ができるか否か
請求とは少し違った観点にはなりますが、権利を譲渡できるか否かも見てみましょう。
地上権の場合は、基本的に権利の譲渡が認められています。つまり他人の土地で使用している作業場を、第三者に譲ることもできます。
賃借権になると、譲渡は賃貸人の承諾がなければ認められません。賃貸人と賃借人の信頼関係を基盤としているため、勝手に第三者へ権利と与えるのは許されないと覚えてください。
消滅時効の違い
消滅時効については、とりあえず数字を覚えるしかありません。ちなみに消滅時効とは、期間の経過とともに権利が抹消してしまう制度のことです。
地上権の場合は20年と期間が長く設定されています。
賃借権は2つのパターンを押さえてください。
- 権利が行使できると知ったときから5年
- 権利を行使できるときから10年
これらの内容は、民法166条に定められています。参考にしたい方は、条文も合わせてチェックしてみてください。
民法第166条
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
2 債権又は所有権以外の財産権は、権利を行使することができる時から二十年間行使しないときは、時効によって消滅する。引用:e-Gov法令検索
なお、時効に関する内容は以下の記事でも詳しく取り上げています。民法の大改正で大きく変更した分野でもあるため、本腰入れて勉強するのをおすすめします。
権利設定者の修繕義務の違い
最後に、権利を設定した側の修繕義務の違いも触れてみましょう。
権利の設定者とは
設定者とは、言葉の通り「権利を設定できる人」のことです。しかし、実際の問題で出題されると、誰のことを指しているか混乱してしまう受験者も少なくありません。
そこで制度の内容を確かめながら、誰が設定者にあたるかを解説しましょう。
地上権を設定できる人は、主に土地の所有者です。「私の土地で作業場を建ててもいいよ」と権利を与えることで、はじめて地上権が成立します。
賃借権であれば、設定者は賃貸人になります。こちらも地上権と同じ要領で、基本的には対象物の所有者が設定者になると理解するといいでしょう。
修繕義務について
権利の設定者を押さえたところで、修繕義務の有無について比較してみます。
地上権の場合、土地の所有者は修繕義務が存在しません。仮に自然災害で土地に異常が起きても、所有者は特に直さなくてもいいと考えられています。
一方で、賃借権の場合は賃貸人に修繕義務が働きます。この辺りのルールも狙われる可能性はあるので、あわせて押さえておくといいでしょう。
地上権と賃借権のまとめ
今回は、地上権と賃借権の違いについて説明しました。表を作成してみたので、記事で紹介した内容を振り返ってみてください。
地上権 | 賃借権 | |
---|---|---|
権利の性質 | 物権 | 債権 |
存続期間 | 永久も可 | 50年以内 |
費用が権利の要素となるか | 地代はならない | 賃料はなる |
登記請求権 | ◯ | ✕ |
妨害排除請求権 | ◯ | △(対抗要件を備えたとき) |
譲渡できるか | ◯ | ✕ |
消滅時効 | 20年 | 5年or10年 |
修繕義務 | なし | あり |
地上権と賃借権のように、似た特徴を持つ制度が民法には数多く存在します。これらの違いを押さえて、引っかけ問題に対処することが公務員試験や資格試験をクリアするコツです。