公務員試験の勉強において、地役権の内容を飛ばす人もいるかもしれません。あまり出題頻度が高い方ではなく、難易度もそこまで高くはないからです。
しかし勉強を疎かにしすぎると、承役地や要役地の違いを中心に内容を忘れてしまうこともあります。この記事では、地役権をわかりやすく解説しましょう。
地役権とは
地役権とは、他人の土地を自分の土地のために使う権利です。一般的な例として、通行地役権が挙げられます。
皆さんが会社や学校から帰るとき、歩いている道は必ずしも国が管理しているものとは限りません。場合によっては、他人の所有している土地を通っているケースもあります。
このように他人の土地を通って家に帰る場合、自分の土地のために権利を行使しているといえます。
通行地役権以外にも、さまざまな目的のために使えることも押さえてください。主な代表例が以下のとおりです。
- 水不足のため用水路を開設
- 電気配線を地下に通す
まずは、具体例を踏まえて自分なりにイメージしてみましょう。
承役地と要役地の違い
地役権の勉強をする際に、必ず覚えないといけない単語が承役地(しょうえきち)と要役地(ようえきち)です。それぞれの意味の違いについて説明しましょう。
承役地:他人の土地
承役地とは、地役権が設定された際の他人の土地のことです。「承」の言葉には、「受け入れる」といった意味があります。
つまり「地役権を受け入れた側=他人の土地」という発想で覚えるとわかりやすいでしょう。
もし地役権者が他人の土地に通路や工作物を設けた場合、承役地の所有者も使用できます。その際には、利益を受けた割合で設置や管理にかかる費用を支払わないといけません。
要役地:自分の土地
要役地は、地役権を設定したときの自分の土地を指します。「要」は必要の意を指すため、単に地役権で必要となる土地と考えればわかりやすいでしょう。
仮に自分の土地を第三者に譲渡した場合、所有権移転の登記をすれば要役地としての権利も当然に移転すると考えられています。また地役権は所有権があって初めて成り立つものです。
このことから、地役権には付従性と随伴性の双方が伴っているといえます。付従性および随伴性の意味は、下記の記事を参考にしてみてください。
地役権の性質
地役権も、勉強するうえで押さえたい性質がいくつかあります。ここでは、特に代表的なものを紹介しましょう。
地役権は不可分である
まず、地役権が不可分である点を押さえてください。
例えば、要役地あるいは承役地をA・B・Cの3人で共有しました。この場合、AからCの3人全員が地役権を有します。Aのみが、自分の持ち分で地役権を消滅させることはできません。
このように共有物全体に権利が発生し、一部に分割できない状態を不可分性と呼びます。
しかし、土地の構造によっては共有者の一人だけが地役権を持つ場合もあります。この場合は例外で、土地の一部のみに地役権が発生します。
地役権と時効の関係
公務員試験の民法では、時効の問題が出題されるケースは少なくありません。地役権も時効と深く関わってくるので、それぞれの関係性を理解してください。
地役権の時効取得が許されるのは、以下の2つの条件が満たされたときです。
- 権利が継続的に行使される
- 外見上認識ができる
これら2つの条件が満たされた例として、要役地の所有者によって通路が開設された場合が挙げられます。
また地役権が共有であれば、1人が時効取得すると他の共有者も権利が発生します。時効の更新は、共有者全員にしないと効力を発揮しません。
さらに地役権は、基本的に効果を持続させるのを狙いとしています。
そのため取得時効については、共有者の1人に完成猶予や更新が生じても他の共有者は変わらず時効が進むのが特徴です(誰かは権利を主張できる)。
消滅時効に関しては、1人に完成猶予・更新が生じたら、他の共有者も同様の効果が生じます(時効で消えなくなる)。
時効の完成猶予や更新のルールは、以下の記事にもまとめているので参考にしてください。
地役権と妨害排除請求権
地役権では、妨害排除請求権を行使できる点もしっかりと覚えてください。
妨害排除請求権とは、不法に占有している人を追い出す権利を指します。
とはいえ地役権は、あくまで要役地の利便性を高めるのを狙いとした権利です。承役地については、特に地役権者が占有権を持っているわけではありません。
そのため、地役権に基づく土地の返還請求に関しては認められないことも注意点のひとつです。
このルールも、権利の性質を理解するとイメージしやすくなると思います。
囲繞地通行権について
地役権の一緒に、覚えておきたい用語が囲繞地(いにょうち)通行権です。囲繞地は、四方八方が他人の土地に囲まれている状態を示しています。
こうした土地に暮らしていたら、外出したいときに必ず他人の土地を通らなければなりません。通行権を認めないと、一歩も外に出れなくなってしまいます。
さすがに生活が不便になることから、囲繞地通行権は法律上当然に発生します。ただし、あくまで自分の土地の外に出ればいいので通れるのは隣接の土地のみです。
必要があれば、通路の開設も民法上で認められています(第211条)。
地役権は基礎を固めよう
ここまでいろいろと説明しましたが、地役権は基礎を固めることが先決です。絶対とは言い切れませんが、基礎を固めるだけでも基本的には問題に対応できます。
地役権を勉強する際には、承役地と要役地の区別を付けなければなりません。
そのうえで共有や時効の内容を勉強すれば、ある程度イメージしやすくなるでしょう。
地役権の内容は、共有・時効がメインの問題の選択肢として現れる方が多い印象です。
民法は全部の分野が関連し合うので、たとえ特定の分野の出題頻度が低くても、一度は目を通しておくのをおすすめします。