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共有物の管理行為や変更に関する規定|保存行為のルールも解説

我々は日常生活を送る中で、1つの財産を他人と共有するケースもあるでしょう。その際に、よく揉めるのが共有物の管理行為や変更に関する内容です。

この記事では、民法に規定されている共有物の管理行為や変更の定義を解説します。保存行為のルールも取り上げるので公務員試験や宅建試験、行政書士を受験される方は参考にしてみてください。

 

共有物の管理行為

管理行為とは、共有物を変更しない程度に使用する状態を指します。また共有物の経済的な価値を増大させる行為も含まれます。管理行為が規定されているのは、民法第252条です。

第252条1項

共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。

引用:法令検索e-Gov

管理行為の決定方法

共有物の管理行為を行うには、各共有者の持分価格の過半数による賛成が必要です。

例えば、1軒の貸家をAさん・Bさん・Cさんで共有していたとしましょう。その際に、当該建物を第三者である甲さんに貸していました。

しかし、甲さんがお金を払わないのでAさんとBさんは賃貸借を解除しようと考えます。もし2人の持分価格が過半数を超えていたら、Cさんの同意がなくとも解除が可能です。

管理行為では、あくまで持分価格の過半数超えが要件となります。AさんとBさんの2人が平等の価格で管理していた場合、Aさんのみの意思では決定できません。過半数と半分の違いは、しっかりと区別しましょう。

図も参考にしながら、管理行為の決定にかかる具体的なイメージを掴んでください。

管理行為の具体例

共有物の管理行為は、賃貸借契約以外にもさまざまな具体例があります。より理解がしやすいように、他の具体例についても紹介しましょう。

使用貸借契約の解除

使用貸借契約とは、特定物を無償で貸し借りする契約のことです。

例えば、Aさん・Bさん・Cさんがお金を三等分して1つの自動車を共有していました。その自動車をBさんの友達に貸したと仮定します。

もし、この使用貸借契約を解除したい場合は持分価格が過半数となる2人以上の賛同が必要です。

株式における議決権行使

同じくAさん〜Cさんの3人が、株式を共有していた場合を想像してください。株は保有しておくと、株主総会で議案に対して賛否を述べられる権利を有します。この権利こそが議決権の行使です。

こちらは、共有物の使用価値を上げる役割を担います。そのため管理行為の一種として捉えられ、行使する際には持分価格の過半数以上の賛同が必要となります。

公務員試験レベルでは踏み込みすぎた内容かもしれませんが、余裕があったら覚えておくといいでしょう。

 

共有物の変更

共有物の変更とは、物の性質を一切変えてしまう行為を指します。物理的に物を変えたり、処分したりする行為が変更にあたる要素です。順番が前後しますが、民法では第251条に規定されています。

第251条1項

各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。

引用:e-Gov法令検索

変更の決定方法

共有物を変更するときは、共有者全員の同意が必要です。共有物の物理的な変化や処分が生じると、他の所有者にも大きな負担が生じてしまいます。

そのため、全員の同意が必要と管理行為よりも厳しく設定されているのがポイントです。

変更の具体例

共有物の変更についても、具体例をいくつか紹介しま。公務員試験では、具体例から変更に該当することを読み取る問題も出てくるので、定義とあわせて押さえてください。

共有地で地上権を設定

地上権とは、他人の土地を使用する権利のことです。

例えば、AさんとBさんが共有している土地について、Aさんの友達が建物を建てるとします。当該行為は地上権の行使にあたるため、AさんとBさんの2人が同意しなければなりません。

地上権に関する問題は、公務員試験でも問われやすい分野の一つです。共有のルールとともに覚えるようにしましょう。

農地から宅地に変える

農地から宅地に変える行為も、共有物の変更に該当します。農地は農作物を耕作するための土地、宅地は建物が建てるために使用されている土地です。

ここでは、Aさん・Bさん・Cさんの3人が農地を共有している状況を想定してください。もしAさんが住居用建物を建てる場合は、BさんとCさんの同意を得る必要があります。

同意がなかった場合は、BさんとCさんは各自で工事の差止めや原状回復請求(建物の撤去)が可能です。このルールは、平成10年3月24日の最高裁判例により誕生しました。

 

共有物の保存行為

共有物を現状維持する行為は保存行為と呼ばれます。

保存行為が規定されているのは、民法第252条5項です。同じく条文を紹介しましょう。

第252条5項

各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

引用:法令検索e-Gov

保存行為の決定方法

共有物の保存行為については、各共有者が単独で決定できます。他人と共有しているだけで、所有権自体はそれぞれに認められているためです。

共有物に妨害が生じたら、安全に所有できる権利が奪われる恐れもあります。そこで民法は、各自で保存行為を主張できるようにルールを定めました。

保存行為の具体例

保存行為は、将来において共有物を安全に所有するための行為全般を指します。そのため、具体例としてさまざまなケースが考えられます。ここでは、特に問われやすい部分を紹介しましょう。

不法占有者への明渡請求

例えば、Aさん・Bさん・Cさんで共有している土地に、全く無関係の者が勝手に建物を建てたとしましょう。何も対処しなければ、土地の利用において大きな妨害となってしまいます。

この場合は、Aさん〜Cさんがそれぞれ単独で明渡請求を行使できます。保存行為の具体例として、よく使われる事例であるため必ず覚えてください。

不実の登記の抹消請求

登記の内容に真実性がない場合、抹消請求によって効力を失わせることも可能です。登記の対象となる不動産が共有物であれば、各共有者が単独で提起できます

例えば、Aさん・Bさん・Cさんがそれぞれ3分の1ずつの持分で土地を持っていたとしましょう。その際にCさんがAさんやBさんに無断で、自分名義の所有権移転登記をしました。

当然、AさんやBさんからすれば「私たちにも持分があるぞ!」と批判するでしょう。この権利を守るべく、2人は単独で移転登記の抹消手続きを行えます。

 

まとめ

今回は、共有物の管理行為や変更、保存行為について説明しました。特に押さえてほしいポイントは、それぞれの定義と決定方法の違いです。

実際の試験では、具体例を用いながら問われるケースがよく見られます。どの行為にあたるかを判断し、正しい選択肢を選べるように練習してください。

最後に、管理行為・変更・保存行為の内容を表でまとめましょう。

  管理行為 変更 保存行為
条文 第252条1項 第251条1項 第252条5項
決定 持分価格の過半数の同意 全員の同意 単独で可能
具体例 使用貸借・賃貸借の解除
株式の共有
地上権の設定
農地→宅地への変更
不法占有者への明渡請求
不実の登記の抹消請求