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占有の訴えの3つの種類を解説!占有保持・占有保全・占有回収

皆さんも、自身の持っていた傘や自転車を盗まれた経験はありませんか。

自分の占有物が盗まれた場合、民法の規定に従って占有の訴えをする必要があります。

この記事では、資格試験用に占有の訴えに関する解説と3つの種類について詳しく紹介します。公務員試験や宅建試験、行政書士試験に役立つので試験を受けられる方はチェックしてください。

 

占有の訴えとは

占有の訴えとは、占有物が第三者に支配された際に提起できる訴訟のことです。民法の第197条〜201条に規定されています。

例えば、皆さんの傘や自転車が盗まれた場合、仮に誰かの家に置いてあったのを見かけても勝手に持っていくことは許されません。

日本の法律では、自力救済禁止の原則を前提としているためです。つまり、盗まれた物を取り返すためには法的措置に取り組む必要があります。

占有の訴えを提起できるのは、自分の所有している物に限られません。親族や友人の所有物でも、自分が占有(他主占有)しているのであれば訴えの提起が可能です。

自力救済禁止の原則については、下記の記事でもまとめているので参考にしてください。

 

占有の訴え3つ

ここで、占有の訴えについての3つの種類を紹介します。

  • 占有保持の訴え
  • 占有保全の訴え
  • 占有回収の訴え

 

これらは、それぞれ民法第198条〜200条に具体名とともに記載されています。六法を持っている方は、実際に条文を確認してみてください。

占有保持の訴え

占有保持の訴えとは、物の占有を第三者から妨害されたことを要件とします。主な例が、自分の土地に別の誰かが勝手に建物を建てたケースです。

勝手に建物が建てられては、所有者は自分の土地を自由に使えなくなります。そこで訴えを提起し、建物の除去(妨害の排除)や損害賠償請求のいずれかが適用されます。

提起期間

占有保持の訴えを提起できる期間は、以下の2点です。

  • 妨害が続いている間
  • 妨害の消滅後1年以内

 

妨害の原因が消滅したあと、1年を過ぎると占有者は損害賠償を請求できなくなります。

ただし、占有保持の訴えの提起期間には例外も存在します。

例外にあたるのは、占有物が工事によって妨害されているときです。先程の土地と建物のケースでも、こうした例外が適用される可能性はあります。

ちなみに、工事の場合は工事が完成するまで又は完成後1年以内が提起期間です。このような例外は、実際の問題でも出題されやすいので注意しましょう。

占有保全の訴え

占有保全の訴えは、物の占有を第三者から妨害されそうなときに提起できる訴訟です。具体例として、自分の家に隣人の所有している木が倒れそうなときが該当します。

占有保持の訴えとは異なり、あくまでおそれがある場合に発動できる訴えです。妨害を予防したり、損害賠償を請求したりといった対策が採れます。

提起期間

占有保全の訴えの提起期間は、妨害される危険性が存在している間です。先程の例でいえば、隣人の木が倒れてくる前に「何とか倒木しないように対策してくれ」と主張できます。

また訴えている間に、倒れてしまうケースも当然ながら考えられるでしょう。その際に備え、あらかじめ損害賠償用の費用を準備してもらうような訴えも可能です。

一方で、工事に関する場合は占有保持の訴えと同様に例外規定があります。例外パターンの提起期間は以下の2パターンです。

  • 工事着手から1年以内
  • 工事完成前まで

 

これらの内容も合わせて覚えておくのをおすすめします。

占有回収の訴え

3つの中で、特に問われやすいのが占有回収の訴えです。こちらは占有物が奪われた際に、返還および損害賠償請求できる権利を指します。

条文に記載されている「占有を奪われた」とは、占有物が自分の意思に反して奪取された状態のことです。そのため単純に失くした物を拾われたり、詐欺で騙されて渡したりした場合は該当しません。

提起期間

占有回収の訴えの提起期間は、占有を奪われたときから1年以内です。この期間が経過すると、訴えを提起できなくなります。

仮に皆さんが占有物を奪われたときは、1年以内に行動しなければなりません。数字に関する問題も引っ掛けとして出されやすいので注意してください。

特定承継人との関係

次に、占有回収の訴えの条文に関する2項の話を紹介します。民法第200条2項の条文に目を通してみてください。

民法第200条

2占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。

引用:e-Gov法令検索

特定承継人とは、他人の権利義務を承継する者のことです。主な例として、売買・贈与・交換などで物を取得した人が該当します(相続は含まれない)。

仮に占有を奪った人物が第三者に売買したら、盗まれた側はその第三者に対して訴えを提起できません。一方で、第三者が侵奪された物と知っていたら例外的に訴えが認められます。

その他の要件

占有回収の訴えでは、提起期間以外にも細かなルールが定められています。まず損害賠償を請求する際には、相手の故意や過失が必要であることを押さえましょう。

占有の回収に関する損害賠償請求は、不法行為の場合と同様の意味を持ちます。不法行為は、民法709条に定められている他人の権利を違法に侵害する行為です。

民法第709条

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

出典:e-Gov法令検索

条文にもありますが不法行為も同様に、違法と認められるには故意や過失の存在が必要となります。

また、BさんがAさんの自転車を借りていたところ、誰かに盗まれたとしましょう。この場合は貸主であるAさんも占有回収の訴えが提起可能です。

また占有回収の訴えは、占有者の善意や悪意は要件としません。自分に本権がないことを知っている人でも、問題なく訴訟を提起できるとされています。

 

 

占有の訴えと本権の訴え

占有の訴えとともに押さえておきたいのが、本権の訴えです。本権とは、占有権に基づいた権利(所有権・地上権・債権など)が該当します。これらの関係について押さえましょう。

双方の訴えは妨げ合わない

占有の訴えと本権の訴えは、お互いに妨げ合わない点が特徴です。つまり、それぞれは独自に訴訟を提起できます。

その理由として、2つの制度は性質が異なる点が挙げられます。

占有の訴えは、物の支配に対する妨害排除の請求です。本権の性質とは、根本的な部分から性質が異なります。

双方の理由と裁判の是非

占有の訴えについては、本権の理由に関する裁判を起こせません。先程も説明したとおり、それぞれの訴えは性質が全く異なるためです。

一方で、本権に基づく反訴としての占有の訴えは提起できます。反訴とは、被告が原告に対して訴訟仕返すことです。

反訴できる理由は、本権の訴えで勝訴されると占有について大きな被害を受ける可能性があるからとされています。占有の訴えの提起を認めれば、占有に関する不都合も解消できます。

 

まとめ

今回は、占有の訴えについて3つの種類を中心に解説しました。ここで取り上げた以下の種類はしっかりと押さえてください。

  • 占有保持の訴え
  • 占有保全の訴え
  • 占有回収の訴え

 

これらの内容は、名前がよく似ているためにややこしく感じるかもしれません。条文にも目を通しつつ、それぞれの意味を具体例もイメージしながら覚えましょう。

また、今後の生活において自分の占有物が誰かに盗られるといったケースも起こる可能性はあります。私生活においても、このような知識を覚えておいて損はありません。