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占有権とは?所有権との違いや効力・種類をわかりやすく解説

行政書士試験の民法において、占有権と所有権の区別をしっかりと付けなければなりません。これらの違いがわかっていないと、物権の内容を理解できなくなる恐れがあります。

この記事では、行政書士試験に一発合格した筆者が、占有権と所有権の違いを解説します。行政書士試験を受験される方は、ぜひ最後まで読んでみてください。

 

占有権とは

占有権とは、現実に物を支配していることを主張できる権利です。たとえばAが自分の庭に自転車を置いていたとき、自転車を占有している状態といえます。

しかしBの家に忘れてきた場合、A自身は現に自転車を占有していません。このケースでの自転車の占有者は、Bとなります。

 

占有権と所有権の違い

占有権と所有権の違いについてわかりやすく説明した図

占有権と所有権の違いは、自由に物を使用・収益・処分する権利があるかどうかです。占有権の場合は、物を使用するのに一定の制限が生じます。一方で所有権は、物を全面的に支配できるのが特徴です。

たとえばAが車を購入しました。車の所有者はAであるため、違法にならない範囲で改造したり、誰かに売却したりすることも認められています。

一方でBが車をAの庭に置き、自分は酒を飲みに行ったとしましょう。このとき車を直接占有しているのはAですが、勝手に改造や売却をしたらBから訴えられる可能性があります

このように占有と所有は似ていますが、意味が全くもって異なります。両者を混同しないように、しっかりと違いを区別できるようにしてください。

 

占有権で推定されること

民法の規定により、占有者は以下の要素が推定されます。

  • 所有の意思をもつ
  • 善意での占有
  • 平穏かつ公然と占有を開始

したがって占有権の存在を争っても、上記の要素を自ら立証する必要はありません。それぞれの具体的な意味について見ていきましょう。

所有の意思をもつ

所有の意思を持つとは、自分の所有物として管理している状態のことです。たとえばAがBの腕時計を拾い、そのまま占有していました。

Bの腕時計と知っている場合、20年経過したら取得時効が成立します。しかし20年経過したあとにBが気づき、時効の成立を争ったとしましょう。

取得時効が成立するには、所有の意思が必要です。とはいえ裁判で争ううえで、自身に所有の意思があったことを立証するのは難しいでしょう。

意思は、あくまで自分の内面にある要素にすぎないためです。したがって所有の意思は自動的に推定され、自ら立証する必要がないとされています。

なお取得時効の詳しいルールについては、以下の記事で詳しく解説しています。行政書士試験の受験生は、こちらも併せて押さえてください。

善意での占有

占有者の善意についても、占有している段階で推定されます。善意とは、他人の所有物であることを知らない状態です

たとえばAがBの落とした腕時計を渡さず、10年間が経ってしまいました。取得時効は、善意であれば完成までの期間が10年に減らされます。

しかしAは善意で占有していることが推定されるため、自らは立証する必要がありません。Bのほうで調査し、Aが悪意であることを立証しなければなりません。

なお善意は推定されるものの、過失が含まれていないのが注意点です。この規定は即時取得とは異なるので、以下の記事も参考にしながら区別してください。

平穏かつ公然と占有を開始

ほかにも民法では、平穏かつ公然と占有を開始したことも推定されます。平穏とは暴力や詐欺など、非法行為によらないで占有を開始した状態です。

一方で公然は、占有していることを隠さず、きちんと公表する状態を指します。これらも立証するのは難しいため、民法であらかじめ推定しているのが特徴です。

 

占有権に生じる効力

占有権を行使することで、民法においてさまざまな効力が生じます。ここでは、どのような効力が発生するかを見ていきましょう。

本権を適法に有している

民法第188条には、占有者は本権を適法に有する旨が定められています。本権とは、占有物について行使できる権利のことです

たとえばAが所有物である腕時計を、服のポケットに入れていました。このときAは腕時計(占有物)について、所有権(本権)を行使できます

基本的にほとんどの占有者は、占有物について適法な本権を有しているでしょう。いちいち疑っていると際限がないため、民法では「適法」と推定されます。

占有により果実を取得できる

占有者は、占有物について発生した果実を自由に取得できます。果実は、天然果実と法定果実の2つに分けられます

天然果実の具体例は、土地から得られる農産物などです。法定果実は、アパートを所有していることで得られる家賃が該当します。

たとえばAが建物を占有しており、Bに対して賃貸契約を結びました。しかし建物の本当の所有者は甲であり、本来Aには家賃(法定果実)を得る権利がなかったとします。

仮にAが所有者は自分だと信じていた場合、家賃を回収してしまうのは無理ありません。つまり本権があると信じた善意の占有者には、果実の取得が認められます

一方でAが所有者でないと知っていたのに、家賃を取得するのは望ましくない行為です。このような悪意の占有者は、果実を返還するか、代価を償還する義務を負います

また本権があると信じた善意の占有者も、本権の訴えに敗訴したら悪意の占有者となります。悪意の占有者に切り替わるポイントは、訴えの提起時になるので併せて覚えておきましょう。

損害賠償の範囲が変わる

他人の所有物を占有していた者が、自分の過失により占有物を壊してしまいました。この場合の損害賠償の範囲は、善意か悪意かで異なります

善意の占有者の場合は、損害賠償義務が現存利益のみとされています。つまり浪費して失った部分は、賠償する必要がありません。

一方で悪意の占有者については、損害の全部を賠償しなければなりません。なお所有の意思がない占有者は、善意であっても全部を賠償すると定められています。

 

占有権の種類

占有には、その方法に応じてさまざまな種類に分けられます。ここでは自主占有、他主占有、代理占有、準占有について見ていきましょう。

自主占有

自主占有とは、所有の意思に基づいて物を占有することです。たとえば泥棒がAのカバンを盗み、何食わぬ顔で使用していました。

カバンの所有者はAですが、泥棒は所有の意思に基づいて占有しています。したがって当該ケースも自主占有に該当します。

他主占有

他主占有は、所有の意思に基づかないで占有している状態です。たとえばAがホテルのクロークにカバンを預けました。

この場合、カバンを占有しているのはホテル側です。しかしホテルは「客の荷物」としてカバンを占有しているため、他主占有に該当します。

代理占有

占有には、代理人によって取得する代理占有もあります。こちらは代理人を介して、本人が間接的に占有しているのが特徴です。

たとえばAが家を所有していたところ、Bとの間で賃貸借契約を結びました。このとき実際に家を占有しているのは、賃借人であるBです。一方で家を貸しているAにも、代理占有が認められています。

仮に賃貸借契約を結んでいない甲が、勝手に家に住み着いていたとしましょう。この場合は代理占有者であるAも、占有の訴えを提起できます

なお占有の訴えについては、下記の記事で詳しく解説しています。こちらも重要なテーマとなるので、併せて覚えてください。

準占有

準占有とは、物の占有を伴わない財産権等について、占有権を認めることです。準占有の対象になる財産権として、債権や地役権などが挙げられます。

これらは占有の規定が準用され、占有の訴えや果実の取得が認められています。ただし物の占有を伴わないため、即時取得の規定は適用されません。

一方で準占有の対象にならない権利には、所有権、地上権、永小作権、質権、賃借権が該当します。これらの権利は物の占有に伴って発生するので、準占有が認められないと解釈されています。

 

占有権に関するまとめ

占有権の勉強をするときは、所有権との区別を付けることが大切です。占有権は現実に物を支配する権利、所有権は自由に使用・収益・処分できる権利と押さえておきましょう。

併せて占有には、以下のような種類が存在します。

  • 自主占有
  • 他主占有
  • 代理占有
  • 準占有

これらの特徴も押さえつつ、行政書士試験の対策をしていきましょう。