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債権者代位権と詐害行為取消権の違い|相違点をわかりやすく解説

民法の中でも、マイナーな制度の一つが債権者代位権と詐害行為取消権です。これらは内容が似ているため、勉強しているときに区別しにくいと感じた方もいるでしょう。

この記事では、行政書士試験に一発合格した筆者が、債権者代位権と詐害行為取消権の違いを解説します。行政書士試験に挑戦する予定の方は、ぜひ参考にしてください。

 

債権者代位権

債権者代位権の仕組みをわかりやすく説明した図

債権者代位権は、債務者が第三債務者に対して有する債権を、債権者が代わりに行使できる権利です。たとえばAがBに対し、100万円を貸していました。本来BはAに返済しないといけませんが、自身もCに同じ額を貸してしまいます。

Bが無資力となる場合、AはCに100万円の返済を要求できます。このときAはBの代理人ではなく、自己の名で債権者代位権を行使するのがポイントです。

さらに債権者代位権は、あくまで債権者の財産を守ることを狙いとしています。BがCに200万円を貸していたとしても、AはBに貸した100万円分しか請求できません。

債権者代位権の詳しい内容は、以下の記事でも詳しく紹介しています。あわせて確認してみてください。

 

詐害行為取消権

詐害行為取消権の仕組みをわかりやすく説明した図

詐害行為取消権は、債務者の詐害行為から債権者を守るための制度です。債権者代位権とは異なり「債権者を害すること」が権利を行使できる要件とされています。

たとえば、AがBに100万円を貸しました。BはAへの返済義務を逃れるため、知人のCにお金を贈与しようと考えます。仮にお金が他人へ渡ったら、Aは返済を実現するのが難しくなるでしょう。

そこでBとCの贈与契約を取り消し、自己へ返還を求めることができます。なお詐害行為取消権を行使するには、受益者や転得者といった第三者にする必要があります。

ただし権利を行使できるのは、あくまで受益者や転得者も「債権者を害するという事実」を知っていたときです。詐害行為取消権の詳しい内容は、以下の記事でも詳しく解説しているので、併せて確認してください。

 

債権者代位権と詐害行為取消権の違い

債権者代位権と詐害行為取消権は、どちらも類似した特徴があります。しかし厳密には数々の違いがあるため、これらの相違点をわかりやすく解説します。

履行期の到来を考慮するか

債権者代位権の場合は、債権の履行期が到来していないと権利を主張できません。債権者が期間を早めてしまうと、債務者の権利を不当に奪う形となるためです。

ただし保存行為については、到来前でも債権者代位権の行使が認められています。その例の一つが、時効の完成猶予や更新による裁判上の請求です。

一方で詐害行為取消権は、債権が履行期を到来している必要はありません。あくまで詐害行為前に、債権が存在していたかどうかが判断基準となります。

債権の成立時期による影響

債権者代位権は、債権が成立した時期は特に問いません。たとえば債務者が債権者から借金をする前に、債務者が第三債務者にお金を貸していたとしましょう。この場合でも、債務者が無資力になれば債権者は第三債務者へ返金を要求できます*1

一方で詐害行為取消権については、債権が詐害行為の前に存在していることが条件となります。詐害行為自体がなければ、そもそも取り消す対象となる債権が存在しないためです。

裁判上の行使の有無

債権者代位権の場合、権利を行使するうえで裁判所を通す必要はありません。債務者の行為を債権者がすることは、第三債務者にもそこまで大きな影響を与えないためです。

改正前の民法では、債権の期限が到来しない間でも「裁判上の代位」をすれば、債権者代位権が認められていました*2。しかし裁判上の代位は、実際に利用された実績がほとんどありませんでした

そのため2020年の民法大改正により、「裁判上の代位」に関する規定が削除されます。結果的に債権者代位権では、裁判所を通す必要がなくなりました。

一方で詐害行為取消権の場合は、必ず裁判所を通さなければなりません。法律行為を取り消すことは、法律上において大きな効果をもたらすためです。

勝手に法律効果が取り消されると、受益者や転得者の権利も不当に奪われかねません。こうした影響もあり、裁判所が公正に判断すべきと考えられています。

時効の有無

債権者代位権については、特に権利を行使する期間は定められていません。しかし原則として、被保全債権や被代位債権が存在している必要があります。

通常、債権の時効は次のように定められています。

  • 権利を行使できるのを知ったときから5年
  • 権利を行使できるときから10年

そもそも被保全債権や被代位債権が時効で消滅してしまったら、債権者代位権を行使できません。したがって民法には債権者代位権単体で時効を定めてないものの、実際には債権の時効に左右されます

一方で詐害行為取消権については、以下のように時効が定められています。

  • 原因を知ったときから2年
  • 詐害行為時から10年

先程も説明したとおり、詐害行為取消権は法律行為を取り消す作用があるため、当事者に多大な影響を与えます。また争いが長引くことも防ぐべく、単体で時効を定めていると押さえておきましょう。

 

債権者代位権と詐害行為取消権の共通点

債権者代位権と詐害行為取消権には、共通点もいくつか存在します。相違点だけではなく、共通点も一緒に覚えるようにしましょう。

行使する目的

債権者代位権と詐害行為取消権は、いずれも債権者の財産を守るのが目的です。債務者の責任財産(強制執行の対象となる財産)の保全とも言い換えられます。

双方の目的が同じでありながらも、行使方法や成立時期が異なるのは第三者の立場の違いによるものです。

債権者代位権の場合は、第三債務者も元々返済をしなければなりません。一方で詐害行為取消権は、本来であれば受益者が金銭を得られる権利を持ちます。

そのため詐害行為取消権のほうが、裁判上の行使を要求したり、単体で時効が設定されていたりなどとルールが厳格に定められています。

無資力要件の有無

債権者代位権も詐害行為取消権も、債務者の無資力が要件とされています。無資力は支払いのできない状況を指し、必ずしも貯金が0円であることを要するわけではありません。

詐害行為取消権の場合、「債権者を害する」が無資力を意味しており、「詐害行為時」「取消権行使時」といった二通りの判断基準があります。詐害行為時に無資力でも、その後の事情で復活したときは詐害行為取消権を行使できません。

なお金銭債権以外を保全すべく、債権者代位権の制度を転用する方法も民法で認められています。債権者代位権を金銭債権以外で転用する際には、例外的に無資力要件は求められません

行使する相手

債権者代位権も詐害行為取消権も、行使する相手は第三者です。しかし両者の制度において、第三者の呼び方が異なります。

債権者代位権の場合は、第三債務者と呼ぶのが基本です。一方で詐害行為取消権は、一般的に受益者と呼びます。

なお詐害行為取消権では、受益者が転得者に財産を移転させるケースもあります。この場合、債権者は転得者に対しても権利を行使することが可能です

直接自己に引き渡させる権利

債権者代位権・詐害行為取消権ともに、金銭や動産であれば自己に直接引渡すよう要求できます。こちらも債務者の責任財産の保全といった、両制度における目的を達成させるためです。

請求できる金額は、基本的に債権者自身の債権額の範囲内です。ただし詐害行為取消権では、目的物が不可分な一棟の建物の場合は、債権額を超えても全部の取り消しが認められます*3

 

債権者代位権・詐害行為取消権のまとめ

債権者代位権と詐害行為取消権の違いは、権利を行使する方法と考え方です。債権者代位権は、債務者の第三債務者に対する債権を債権者が行使できる制度を指します。

一方で詐害行為取消権は、債務者の受益者に対する法律行為を取り消す制度です。受益者の権利も奪いかねないため、詐害行為取消権のほうがルールも厳格になっています。

とはいえ双方の制度には、共通点もいくつか存在します。債権者代位権と詐害行為取消権を勉強するときは、それぞれの特徴を比較してみるとよいでしょう。