【資格の教室】ヤマトノ塾

法律・経済学・歴史学の勉強ブログ

債権譲渡とは?第三者に対する対抗要件と確定証書の優劣関係

債権者が自身の権利を第三者に渡すことは、債権譲渡と呼ばれています。行政書士試験の勉強では、記述式の対策も踏まえて内容を押さえないといけません。

この記事では、債権譲渡の債務者や第三者に対する対抗要件を詳しく解説します。行政書士試験を受験される方は、記事をしっかりと押さえてください。

 

債権譲渡とは

債権譲渡の仕組みについて簡潔にまとめている図

債権譲渡とは、特定の債権について債権者を変更する手続きのことです。

例えばAがBに対して、お金を貸していたとします。本来、BはAに借りた金額を返済しなければなりません。

しかし事情により、Aの債権を甲に譲ったとしましょう。このような債権譲渡が有効に完了すれば、今後Bは甲に対して弁済する必要があります。

債権譲渡には、手続きを踏むうえでいくつかの対抗要件が存在します。その中で、特に重要な条件に位置づけられるのが対抗要件です。

 

債権譲渡の対抗要件

債権譲渡と対抗要件の仕組みを簡単に説明している図

債権譲渡の効力が認められるには、対抗要件を備えなければなりません。

対抗要件を設ける理由は、債権のありかを債務者に正しく知らせるためです。債務者が譲渡人と譲受人の2人に弁済することのないよう、民法で取り決めがされています。

一方で、債権者が複数人に譲渡しないように配慮する必要もあります。この目的も踏まえ、債権譲渡の対抗要件を債務者と第三者の観点から解説しましょう。

債務者への対抗要件

まず債務者への対抗要件とされているのが、以下の2点です。

  • 譲渡人による通知
  • 債務者の承諾

債権譲渡が有効になるには、いずれかの条件を満たさなければなりません。

譲渡人による通知

債務者に対する通知は、必ず譲渡人側が行う必要があります。

債権を譲り受けた側が代わりに通知しても、債権譲渡は有効とはなりません。無関係の人が「債権譲渡があった」と嘘の報告をし、不当に利益を得る恐れがあるためです。

また通知は、譲渡が完了した後のみ認められています。譲渡前に通知しても、債権譲渡は正式に認められないので注意が必要です。

加えてA→B→Cのように、権利が順番に移動するケースもあるでしょう。この場合CはBの代わりに、Aへ債務者に通知をするよう請求ができます(自らは通知できないため)。

債務者の承諾

通知以外にも、債務者が承諾することで債権譲渡が認められることもあります。債務者の承諾については、譲渡人と譲受人のどちらに明示しても問題ありません。

譲受人が明確であれば、譲渡前の承諾も可能です。念のため、債務者に対する通知との違いも押さえておくといいでしょう。




債権譲渡を債務者に伝えないと「本当にお金を渡しても大丈夫か」不安になるもんね!

第三者への対抗要件

債権譲渡の第三者への対抗要件は、確定日付のある証書または承諾です。証書の具体例には公正証書が挙げられ、日付が明確に入っているのがポイントとなります。

また債務者の承諾も第三者に対する対抗要件となるため、合わせて覚えてください。

ここでの第三者とは、法律上の利益を有する者とされています。誰が該当するかを以下のように整理しておくといいかもしれません。

 

 

債権譲渡が制限される場合

債権譲渡は、どのようなときでも必ず認められるものではありません。債権者が、債権譲渡できなくなる条件について3つ解説しましょう。

債権の性質が許さないとき

債権の性質上の原因により、債権譲渡できなくなるケースがあります。主な例として考えられるのが、家庭教師に自分の勉強を見てもらうといった債権です。

例えばAが社会人になったあと、大学に行きたいと思ったとします。家庭教師の中には社会人に勉強を教えている人もいるので、自身がお金を払って雇わせました。

双務契約なのでわかりにくいですが、家庭教師に仕事を与えるAが債権者で、勉強を教える義務がある家庭教師が債務者です。

しかし債権者であるAが、勉強を教えてもらえる権利を全く無関係のBに譲渡しました。家庭教師からすると、AとBでは教える内容も目的も異なってしまうでしょう。このように個人間の信頼関係をもとに成立させた債権は、原則として債権譲渡できません。

法律が認めないとき

あらかじめ債権譲渡を禁止している法律(規定)も存在します。具体例として挙げられるのが、扶養を受ける権利について定めた民法881条です。この条文には「扶養を受ける権利は処分できない」旨が書かれています。

扶養とは、仕事や財産の都合上生活が苦しい者を経済的にサポートする制度です。当然ながら、扶養も個人間の信頼関係で成り立ちます。債権譲渡が認められないのは当たり前です。

譲渡制限特約があるとき

債権者と債務者の間で、債権譲渡を制限する特約(譲渡制限特約)が交わせます。しかし債権者が制限特約を意図的に破って債権譲渡しても、直ちに無効になるわけではありません。

ただし制限特約について悪意重過失の第三者には、債務者は対抗できるとされています。その第三者には債権の譲受人も含まれます。したがって譲受人が悪意重過失であれば、たとえ請求を迫られても債務者は拒否できます。

一方で差押債権者は、制限特約について悪意重過失でも転付命令が可能です。つまり裁判所の命令により、債権を取得することが認められています。転付命令が認められないと、債権者・債務者間の特約で強制執行を逃れられてしまうためです。

民法の強制執行に関しては、以下の記事で詳しく解説しています。こちらも併せて勉強したい方は、ぜひ参考にしてください。

 

債権譲渡の対抗要件にかかる優劣関係

※画像はイメージです

債権譲渡の対抗要件において、特に重要なポイントが優劣関係の整理です。仮に債権が二重に譲渡されたとき、誰が債権者としての権利を持つのかを決めるルールがあります。

公務員試験でも、この辺りの内容は非常に問われやすいです。それぞれの内容をしっかりと押さえてください。

証書がバラバラに届いた

確定日付のある証書がバラバラに届いた場合、到達日の早かった方が優先されます。あくまで通知が届いた日で比べるのであり、確定日付の先後ではありません

引っかけ問題として出されやすいので注意してください。

通知の到達日で決める理由は、債務者が譲渡した事実を把握できるタイミングになるからです。

証書が同時に届いた

それぞれ確定日付のある証書が同時に届いたときは、双方の譲受人が債務者に対して債務の履行を請求できます。債務者は、どちらかに弁済をするといった形を採ります。

債務者は片方の譲受人から請求を受けた際に、もう一方の譲受人がいることを理由に拒むことはできません。

確定日付のない証書

続いて、以下の事例について見ていきましょう。この場合、第一譲渡については有効となるでしょうか。

債権者AはBに対して債権譲渡を行った(第一譲渡)。
その後、Cに対しても債権を譲渡した(第二譲渡)。
債務者(甲)の元に第一譲渡について確定日付のない証書が届いた。
次の日、確定日付のある第二譲渡の通知がさらに届いた。

 

確定日付のない証書は、第三者への対抗要件にはなりません。したがって他の人が第三者への対抗要件を備えたら、第一譲渡の効果は発動できなくなります

この事例では、Cに対する第二譲渡において確定日付のある証書が甲のもとへ送られました。したがって、第一譲渡に関しては無効となるのが民法上のルールです。

 

債権譲渡は何に役立つのか

ここからは行政書士試験対策ではなく、債権譲渡そのものを深堀りしたいと思います。勉強する際に覚える必要はありませんが、深く知りたい方はぜひ参考にしてください。

民法の勉強をしていても、債権譲渡が実生活で何に役立つかイメージできない方はいるでしょう。債権譲渡にどのようなメリットがあるのかを解説します。

自分の債務へスムーズに充てられる

債権譲渡の仕組みについて簡潔にまとめている図

例えばAはBにお金を貸している一方で、甲から借金をしていました。Aは所持金がほとんどなく、甲にお金を返せない状態であるものの、Bが返済してくれれば債務を履行できるとしましょう。

とはいえ、わざわざ「B→A」「A→甲」の順番を守るのは少し面倒です。そこで「B→甲」に直接お金が渡るよう、Aは甲に債権を譲渡することがあります。そうすればスムーズに自分の弁済ができるわけです。

債権の売却で資金集めができる

債権譲渡とファクタリングの例について解説している図

債権は、商品やサービスのように売買できる性質を持ちます。特に企業での取引で多いですが、資金集めのために債権譲渡を選択することも可能です。

例えば企業Aが、企業Bに対してサービスを提供しました。しかし企業Bの経営は健全ではなく、すぐにサービス代を支払える状態ではありません。一方で企業Aも、今すぐに資金を回収したいと考えていました。

そこで企業Aは、自社の債権をファクタリング会社(甲)へ譲渡します。ファクタリング会社とは、売掛債権の買い取りをする企業のことです。売買が成立すれば、企業Bの支払いを待たずして資金が得られます

債権譲渡担保で資金回収できる

少し難しい内容ですが、債権譲渡担保を活用した資金回収も可能です。債権譲渡担保の具体例と設定方法について詳しく紹介します。

債権譲渡担保の具体例

債権譲渡担保の例について簡単に示している図

例えば企業Bが、企業Aのサービスを月契約で使いたいと考えていました。

しかし企業Bが資金繰りに困って倒産した場合、途中からサービス代を払ってもらえなくなる恐れがあります。こうした事態に備え、契約されるのが債権譲渡担保です。

仮に企業Bがクライアントに対して債権を有していた場合、企業Aはその債権に担保を設定できます。支払いが滞ったとき、企業Bのクライアントに対する債権を譲り受ける権利です。

企業Bが本当に倒産したとしても、企業Aはクライアントから支払いを受けて資金回収ができます。債権譲渡の仕組みを応用した手段といえます。

債権譲渡担保の設定方法

債権譲渡担保の契約方法は、基本的には債権譲渡と同じです。

まずは企業Aと企業Bの双方で、譲渡担保に関する契約を結びます。しかしこの段階では、クライアントは企業Bの債権に担保がかけられているのが把握できません。

そこでクライアントに通知するか、クライアントから承諾をもらうかのアクションが必要です。通知は譲受人の企業Aではなく、「譲渡人である企業B」が行います。

 

将来債権の譲渡について

債権譲渡は、将来債権についても制限付きで認められています。将来債権とは、名称のとおり将来発生する債権のことです。

有名な判例として、医師の診療報酬が挙げられます。ある医師が担当機関から診療報酬をもらう予定であるものの、現時点では債権が存在していませんでした。

最高裁は今後も業務を続け、遠くないうちに債権が発生するのであれば、始期と終期を定めたうえで譲渡できると判旨します。ある程度予測できる場合は、将来債権も譲渡が可能です。

 

債権譲渡はイラストで勉強しよう

公務員試験の民法において、債権譲渡の分野は極めて重要です。単なる一問一答ではなく、少し長めの文章を読みながら答えさせる問題も出されやすいでしょう。

問題を解く際には、人物の関係性を自分で整理することが大切です。誰が譲渡人・譲受人・債務者に当たるかを把握すべく、簡単なイラストでまとめるのをおすすめします。