民法の保証債務の分野で、最も複雑なのが個人根保証契約です。公務員試験ではほとんど問われませんが、行政書士などでは押さえた方がいい分野となります。
ここでは、個人根保証契約について元本確定事由と極度額の解説も踏まえながらまとめます。試験対策用の知識として、まずは内容を自分なりにイメージできるようにしましょう。
個人根保証契約とは
個人根保証契約とは、一定の範囲に属する不特定債務にかかる保証債務のことです。言葉だけではイメージしにくいので、イラストも用いながら解説しましょう。
例えば、主債務者が大きな事業を進めるべく、月に1回の契約で銀行からお金を借りるとします。このような契約において、保証債務を担うのが根保証人です。
根保証人の立場からすれば、最終的に返済額がいくらになるか分かりません。あまりにも返済時のリスクが高くなるので、民法では具体的にルールが規定されています。
その中でも、根保証人が法人以外である契約が個人根保証契約です。
保証契約の一種である以上は、必ず書面(または電磁的記録)で契約する必要があります(要式契約)。このような基礎的な部分から、コツコツと覚えるようにしてください。
個人根保証契約における元本確定事由
個人根保証契約は、効果が続く限りは延々と保証しなければなりません。しかし将来の分も背負うとなると、返済時期がどんどん延びる恐れもあります。
そこで保証債務の期限を設けるべく、民法で定められたものが元本確定事由です。効果が発動すれば、根保証人はこれ以上の負担から逃れることができます。
元本の決まり方について、詳しい規定を見てみましょう。
元本確定期日はない
一般的な個人根保証契約の場合、元本確定期日に関する規定はありません。保証債務の期間が定められていないこともあるので、確定事由が生じないと保証が続くケースも考えられます。
賃貸借契約などの根保証人となっている人は、このルールをしっかりと理解してください。
元本確定事由は3つ
個人根保証契約での元本確定事由は、大きく分けて3つあります。いずれかの条件に当てはまれば、保証債務の範囲が確定します。
- 保証人に対する強制執行の申立て
- 保証人が破産手続きを開始した
- 主債務者または保証人の死亡
それぞれの内容を簡潔にまとめましょう。
強制執行の申立て
まず元本確定事由に該当するのが、保証人に対して強制執行の申立てがあったときです。強制執行とは、財産を強制的に取り上げられる処分を指します。
強制執行の内容は、金銭の支払いを目的とする点が主な条件です。申立ての時点で元本が確定され、保証債務の範囲が明確に決まります。
保証人の破産手続開始
保証人の破産手続開始が決定したときも、元本確定事由に含まれます。どうしても保証債務の対応に限界が来たときは、破産を選ぶのも方法のひとつです。
しかし、破産手続きには今後の生活においてさまざまなデメリットがあります。
ブラックリストに長くて10年は掲載されるため、クレジットカードの作成やお金の借り入れが難しくなります。
賃貸契約も通りにくくなるほか、所有している財産が没収される点も考慮しなければなりません。
仮に根保証人の立場になった場合は弁護士などの専門家と相談し、今後の動きを慎重に決めることが大切です。
主債務者や保証人の死亡
保証債務は、主債務者との信頼関係があって成立する制度です。そのため主債務者か保証人のどちらかが死亡した場合は、個人根保証契約の元本が確定します。
保証人のみが条件となる強制執行や破産手続開始とは異なり、こちらは主債務者も含まれるのが特徴です。引っかけ問題で出題されても、答えられるようにしてください。
個人根保証契約と極度額
元本確定事由は、あくまで保証債務の期限を設定するための取り決めです。
他にも、個人根保証契約では「債務の上限額」である極度額を決める必要があります。債務の上限額がどんどん膨れ上がるのを阻止するためです。
したがって、個人根保証契約は極度額を定めないと効果が発動しません。なお極度額を決めるときは、書面(電磁的記録)にも明記するのがルールです。
なお極度額の範囲には、主債務の元本のみならず利息や違約金、損害賠償額も含まれます。勉強する際には、民法の第465条の2に目を通しておくといいでしょう。
個人貸金等根保証契約
個人根保証契約のひとつに分類されるのが、個人貸金等根保証契約です。こちらは、金銭の貸し借りや手形の割引によって生じる債務に限定されます。
一般的な個人根保証契約と比べて、ルールもまた別に定められているのが特徴です。
極度額の定めについて
個人貸金等根保証契約も、個人根保証契約と同様に極度額の定めが必要です。書面(電磁的記録)で明記しない限り、保証債務の効果は発動しません。
極度額の範囲に関しても、個人根保証契約と特に変わりありません。
元本確定期日がある
個人貸金等根保証契約の場合は、個人根保証契約とは違って元本確定期日が定められています。確定事由がなくとも、期間の経過により保証債務を逃れることが可能です。
元本確定期日の上限は、5年以内とされています。
もし元本確定期日の定めがないときは、個人貸金等根保証契約を結んだ日から3年を経過したタイミングが該当します。
仮に5年を超える期日を設定したら、この定めは効力を発動しません。民法のルール上、元本確定期日の定めがない場合と同じく、契約締結日から3年を経過した日となります。
期間を変更したあとも、5年を超えると効力が生じないのがポイントです。ルールが分かりづらいので、表で整理しましょう。
5年以内に元本確定期日を設定 | 契約で定めた日 |
---|---|
元本確定期日の定めなし | 契約締結日から3年を経過した日 |
5年経過後に元本確定期日を設定 | 契約締結日から3年を経過した日 |
元本確定事由の追加
個人貸金等根保証契約が個人根保証契約と異なるところは、元本確定事由の内容です。個人根保証契約と比べると、条件が2つ増えています。こちらは、2020年の民法大改正で追加された部分です。
- 保証人に対する強制執行の申立て
- 保証人が破産手続きを開始した
- 主債務者または保証人の死亡
- 主債務者に対しての強制執行の申立て
- 主債務者が破産手続開始を決定した
追加された項目について、詳しく見てみましょう。
主債務者への強制執行
個人根保証契約と異なるポイントとして挙げられるのが、主債務者に対して強制執行の申立てがあったときです。
強制執行にかかる財産は、保証人の場合と同じく金銭の支払いを目的として債権とされています。
条件をさらに広げることで、根保証人の負担をなるべく軽減するのが狙いです。
主債務者の破産手続開始
個人貸金等根保証契約では、主債務者が破産手続きを開始したときも元本確定事由となります。金銭の貸し借りや手形の割引に関して根保証人となっている人は、これらのルールも押さえておくとよいでしょう。
こちらも根保証人の保護を厚くするのが狙いとされています。
個人根保証契約の要点整理
個人根保証契約は、民法で個別にルールが定められています。
通常の保証債務と同様に要式契約で、根保証人は大きなリスクを抱えやすいのが特徴です。根保証人の負担を防ぐべく、個人根保証契約は極度額の定めがないと効力が発動しません。
また元本確定事由に該当すれば、保証債務の範囲が定まります。根保証人の負担もなくなるので、個人根保証契約において非常に重要な要素です。
さらに個人根保証契約に似ている制度として、個人貸金等根保証契約があります。こちらは、金銭の貸し借りや手形の割引に限定しているのが特徴です。
元本確定事由が追加されているほか、元本確定期日の定めがあります。それぞれの違いもしっかりと押さえるようにしましょう。