民法の弁済の範囲では、口頭の提供と現実の提供の違いを押さえることが重要です。考えうるさまざまなケースを見ながら、それぞれの提供方法を説明できるようにしましょう。
またこの記事では、供託した場合の取り扱いについても説明します。公務員試験受験者を中心に、民法の弁済を詳しく知りたい人はぜひ読んでみてください。
弁済の提供とは
弁済の提供とは、債務者が債権者に対して「弁済の準備が完了したので受領してほしい」と要求することです。
一般的に提供は、現実に引き渡すべきと定められています。この考え方が現実の提供です。
一度弁済の提供がなされると、法律上の取り扱いでもさまざまな変化が起こります。その変化について、詳しい内容を解説しましょう。
債務不履行を免れる
弁済の提供がなされた段階で、債務不履行の責任からは免れます。そのため、それ以降の部分に関しては債権者から損賠賠償の請求を受けません。
加えて弁済の提供がなされたら、契約を解除される心配もありません。債務不履行や契約の解除については、以下の記事も参考にしてみてください。
同時履行の抗弁権が解消
弁済の提供がなされると、同時履行の抗弁権も解消されます。同時履行の抗弁権とは、相手から弁済されるまで、こちらも債務を履行しないと主張できる権利です。
例えばコンビニのホットスナックの商品を注文したとき、店員が商品を渡さないのであればお金を払う必要はありません。売買契約も同時履行の抗弁権が生じるためです。
しかし相手側が弁済の提供を済ませたら、同時履行の抗弁権を主張できなくなります。そこから履行遅滞に陥る点もポイントです。
注意義務の変化
債務者は、弁済の提供が済むまでは目的物を善管注意義務に基づいて管理する必要があります。善管注意義務とは、一般人が常識的に求められる程度の管理義務のことです。
一方で弁済の提供を済ませれば、この注意義務についても自分の所有物を管理する程度の義務まで軽減されます。
現実の提供と口頭の提供
弁済の提供において、押さえたい言葉が現実の提供と口頭の提供です。それぞれがどのように異なるのかを理解できるようにしてください。
現実の提供
現実の提供とは、金銭や目的物を現実に提供する方法のことです。お金を借りた場合、貸主に直接弁済すれば現実の提供がなされたといえます。
なお弁済は現金同様の扱いがあれば問題ないので、銀行の自己宛小切手や銀行の支払い保証のある小切手も現実の提供の対象となります。
しかし債務者自身が振り出した小切手は、決済できない危険性もあるので対象にはなりません。
現実の提供は、金銭や目的物を持参して相手の住所で受領を催告したら達成できたと考えられます。
そのため債権者が受領を拒んだり、不在だったりで渡せなくとも、民法上は現実の提供をしたと認識されます。
口頭の提供
口頭の提供は、弁済の準備が完了したことを通知などで知らせる方法です。
基本的に弁済は、現実の提供で済ませなければなりません。しかし以下に示したいずれかの条件に該当するときは、口頭の提供でもOKと民法493条に規定されています。
- 債権者があらかじめ受領を拒む
- 債権者の行為が必要とする
それぞれの内容について、もう少し掘り下げて説明しましょう。
債権者があらかじめ受領を拒む
債権者があらかじめ受領を拒んでいるときは、原則として口頭の提供で可能です。
弁済にかかるお金の準備ができていた場合、その旨を通知すれば足ります。
一方で弁済を受領しないのを明確にしているときは、口頭の提供すら不要ともされています。契約の存在そのものを否定しているケースが主な例です。
債権者の行為が必要
債権者の行為が必要な場合も、一般的に口頭の提供が認められています。
債権者の行為の例として挙げられるのが、債務者が所有している時計を修理してもらうケースです。
修理に関しては、債権者側の協力がなければ債権も成立しません。したがって修理代を準備している旨さえ通知していれば、債務者側の弁済は完了したことになります。
ほかにも債務者の住所や営業所で債務を履行する、取立債務のときも本ケースに該当します。
弁済の提供と供託
債権者に弁済の提供ができない場合、供託によって完了させるケースもあります。
公務員試験でも、供託は覚えておいたほうがいい知識のひとつです。特に国家公務員の法務省では、供託所で勤務する人もいるでしょう。
ここでは、公務員試験で出題される一般的な知識を紹介します。
供託とは
供託とは、債権者に弁済できない場合、代わりに供託所へ目的物を渡す行為のことです。直接債権者へ物を引き渡すわけではありませんが、同様に弁済を完了したとみなされます。
弁済は現実の提供が基本なので、供託ができるケースも限られています。
- 債権者が受領を拒む(受領拒絶)
- 債権者が受領できない(受領不能)
- 債権者が誰かわからない(債権者不確知)
債務者以外でも、供託が認められる点もポイントです。
一部供託は原則無効
一部供託とは、全額ではなく弁済の一部分しか弁済しない状態のことです。民法上では、一部供託は原則として無効であり、債務の責任から逃れられないとされています。
しかし少しずつ供託した結果、最終的に全額まで達した場合は例外です。こういったケースであれば、有効な供託になると最高裁判所は判断しています。
供託物の取り戻し
一度供託した場合でも、有効に成立しない間は供託物を取り戻すことが可能です。ただし、以下の条件に当てはまる場合はその権利が消滅します。
- 供託者が取戻権を放棄した
- 供託を有効と宣告する判決の確定
- 債権者が供託を受諾した
- 供託が質権や抵当権を消滅させた
ほかにも、供託物の取戻権は時効によって消滅するケースもあります。消滅時効の期間は、免責を受ける必要が消滅したときから10年です。
こちらの数字の根拠は、寄託契約より導かれています。なお「供託したときから〜」ではありませんので注意してください。
弁済の提供の範囲も重要
弁済の提供は、はじめに基本的なルールを押さえることが大切です。
日本の民法では、原則として現実に金銭や目的物の引渡しを行わないといけません。しかし条件が成立すると、口頭の提供でも弁済が完了したとみなされます。
ほかにも受領拒絶・受領不能・債権者不確知にあたれば供託も可能です。それぞれの細かいルールを覚えて、実際の試験でも正答できるように準備しましょう。