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当事者訴訟とは?形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟の違い

行政事件訴訟法において、イメージがしにくくて難しいのが当事者訴訟です。抗告訴訟以外の主観訴訟であり、大きく分けて形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟があります。

この記事では、それぞれの訴訟の違いについて詳しく紹介します。行政書士試験や法学検定試験向けの内容となるので、受験生はぜひ押さえてください。

 

行政事件訴訟の分類

まずは行政事件訴訟の分類について詳しく見ていきましょう。行政事件訴訟は、大きく主観訴訟と客観訴訟に分けられます。双方の違いを表でまとめてみました。

  主観訴訟 客観訴訟
目的 個人の権利を争う 社会の法秩序を守る
主な種類 ・抗告訴訟
・当事者訴訟
・民衆訴訟
・機関訴訟

抗告訴訟には、処分取消訴訟・裁決取消訴訟・無効等確認・不作為の違法確認・義務付け・差止めの6つの種類があります。

当事者訴訟は、抗告訴訟には含まれません。まずはこれらの関係性を正確に理解する必要があります。

行政事件訴訟の分類については、以下の記事でも詳しくまとめているので参考にしてくださいね。

 

当事者訴訟とは

当事者訴訟には、形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟の2種類が存在します。どちらも法律関係を確認するといった意味合いが強いです。

しかしどういった争いを扱うかは、両者に違いがあります。訴訟の内容や具体例についてまとめましょう。

形式的当事者訴訟=「当事者間」

形式的当事者訴訟とは、当事者間の法律関係を確認・形成する訴えです。当事者の一方を被告とすることで訴えを提起できます。訴えが提起されたら、裁判所は処分・裁決をした行政庁に通知しなければなりません。

主な例として挙げられるのが、収用委員会の裁決に関する損失補償の訴えです。例えば住民が、起業者(県など)の決定により土地を国に買収されたとします。

形式的当事者訴訟についてわかりやすく説明している図

土地収用は、鉄道の開通やダムの建設などの公共事業に利用される手続きです。ときに所有者の権利を奪う形となるため、起業者は相応の補償を義務付けられます。これが損失補償です。

しかし損失補償の内容が、所有者の受ける不利益に満たないケースも考えられます。その際に所有者側は起業者に対し、補償額の足りない分を給付するように訴えを提起できます。

なお土地収用法のルールに基づき、差額の給付を求める際には裁決取消しの訴えを提起する必要はありません。

実質的当事者訴訟=「公法上の法律関係」

実質的当事者訴訟が形式的当事者訴訟と異なるポイントは、公法上の法律関係の確認を求めているところです。主な例として、以下のケースが挙げられます。

  • 国籍確認
  • 公務員の地位確認の訴え
  • 損失補償(個別法に規定がない場合)
  • 薬局開設に関する訴訟

要するに国家と国民との関係を争ったものが、実質的当事者訴訟に分類されます。

そもそも実質的当事者訴訟は、公法私法二元論に基づいて誕生しました。公法私法二元論とは、公法に関する内容は行政裁判所が、私法に関する内容は司法裁判所がジャッジすべきという考え方です。

現在は行政裁判所もないことから否定されていますが、実質的当事者訴訟の存在は実社会では必要とされています。したがって今でも国と国民の法律関係が「私法」に基づく場合、民事訴訟を提起すべきと考えるのが一般的です。

損失補償については、土地収用法のように個別に規定がある場合は形式的当事者訴訟の分類となります。それ以外の個別法に定められていない損失補償は、実質的当事者訴訟に当てはまると覚えてください。




処分・裁決の取消しを訴えるのではなく、あくまで当事者として「行政と対等な立場で」権利関係を争うのがポイント!

 

 

 

取消訴訟からの準用

当事者訴訟と取消訴訟は種類が異なりますが、一部の規定が準用されています。準用されているかどうかについても、行政書士試験では狙われやすいので注意が必要です。この記事では何が準用され、何がされないかを詳しく解説します。

準用される規定

取消訴訟から準用される規定を以下のまとめます。

  • 行政庁の参加
  • 職権証拠調べ
  • 共同訴訟
  • 関連請求の訴えの移送

ほかにもいろいろとありますが、特に狙われやすいのはこの辺りでしょう。準用の規定については、行政事件訴訟法第41条に定められています。

準用されない規定

そもそも取消訴訟と形式が異なるので、準用されない規定のほうが多いです。その中でも、特に注意したいポイントとして以下の内容が挙げられます。

  • 出訴期間
  • 執行停止

取消訴訟の場合、出訴期間は次のように定められています(正当な理由がないとき)。

  • 処分・裁決があったことを知った日から6カ月以内
  • 処分・裁決の日から1年以内

当事者訴訟では、出訴期間を別途法令に定めるのが基本です。出訴期間が存在するケースはありますが、取消訴訟のルールがそのまま適用されるわけではない点を押さえましょう。

また執行停止のルールも、当事者訴訟には適用されません。執行停止は義務付け訴訟や差止め訴訟にも適用されていないため、こちらも併せて覚えてください。

執行停止や義務付け訴訟、差止め訴訟のルールは以下の記事でもまとめているので、目を通しておくとよいでしょう。

 

当事者訴訟に関するまとめ

この記事では、行政事件訴訟法に定められている当事者訴訟を解説しました。当事者訴訟には、形式的当事者訴訟と実質的当事者訴訟があることを押さえてください。

それぞれの具体例を押さえたら、取消訴訟から準用される規定、されない規定もチェックしましょう。マイナーな内容になりますが、試験で出題された過去もあるのでしっかりと勉強することが大切です。