公務員試験の憲法で非常に狙われやすいのが、マクリーン事件を中心とする判例です。日本国では「基本的人権の尊重」が憲法の柱のひとつですが、外国人はどう扱うかが長年の課題となっています。
この記事では、マクリーン事件を中心に人権享有主体性の内容を解説します。公務員試験を受験される方は絶対に内容を押さえてください。
人権享有主体性とは
「人権享有主体性」は言葉の意味を覚えておくと勉強が捗るよ!
人権享有主体性とは、基本的人権が尊重されている主体を指します。享有は生まれながらに持っている能力のこと、主体性は自分の判断に基づいて行動することです。
これらを組み合わせると、生まれながらに自分の意思で行動できる権利とも言い換えられます。
外国人には人権がある?
日本人は基本的に全ての人が人権を持っていると考えられます。では日本に住んでいる外国人の場合は、どのように扱われるでしょうか。
まず前提として、外国人といえども人権享有主体性があると考えるのは基本です。国籍や出身が違うといえども、「人間」であることには変わりないのを理由としています。
とはいえ最高裁判例では、外国人に対して人権を無制限に認めているわけではありません。手続きや権利の性質上、日本人に限定したほうが望ましい制度もあるためです。
外国人が制限されうる権利
外国人が制限されうる権利として、以下の内容が最高裁判例で結論付けられています。
- 日本への出入国
- 公務員になる権利
- 被選挙人になる権利
- 社会保障を受けられるか
今回、この中で中心に紹介したいのは「マクリーン事件」です。こちらは公務員試験においても、特に問われやすいので結論部分を細かく覚えておきましょう。
マクリーン事件
マクリーン事件とは、来日していたマクリーンさんの在留期間の更新が認められなかったことで、最高裁まで処分の取り消しを争った事件です。
マクリーンさんは元々、日本での英語教育や琵琶・琴を研究するため日本に訪れていました。彼はもう少しこれらを研究したいと在留期間の更新申請を出したものの、法務大臣はそれを認めませんでした。
法務大臣が不許可の判断を下した理由
法務大臣がマクリーンさんの申請を認めなかったのは、語学学校に就職するのを理由に入国したはずなのに、無届で転職したためです。
加えて彼は日本にいる間、ベトナム反戦や日米安保条約反対のデモに参加していました。裁判では、法務大臣はデモに参加したことも理由として挙げています。
最高裁判所の判決
最高裁判所は、マクリーン事件について法務大臣の処分は違法ではないと判断しました。要するにマクリーンさんは敗訴したわけです。
その理由として、在留期間の更新は裁量権の範囲を逸脱しない限りは法務大臣の裁量に委ねられることを挙げています。また在留期間の更新が、権利として保障されているものではない点も考慮されました。
マクリーン事件の判例を分析
マクリーン事件は結論もそうですが、判例にある文章もまた重要な内容が記載されています。こちらを押さえておくと、外国人と人権享有主体性の関係への理解がより深まるでしょう。
外国人と基本的人権
まずは外国人と基本的人権の取り扱いです。最高裁判例では、外国人にかかる基本的人権の尊重は「在留制度の枠内」で与えられているにすぎないと判断しました。
つまり人権自体は認めるものの、その保障の度合いは日本人と同じではないと考えたわけです。これを日本人と同じように認めてしまうと、我が国に著しい損害を招く恐れもあります。在留期間の更新が危険だと感じたら、法務大臣はある程度自由に制限できます。
裁量権を逸脱したとされる条件
法務大臣に裁量権があるとはいえ、理不尽な判断を下したら外国人差別となりかねません。そこで裁量はありつつも、変な判断をしないように範囲が定められています。範囲の基準となるのが、以下の2点です。
- 判断が全く事実に基づいていない
- 社会通念上(常識的に)妥当性がない
例えば何もしていない外国人に対し、「詐欺を行ったから」として在留期間の更新を認めないのは「事実性」の部分で却下されるでしょう。このように明らかに合理性・妥当性を欠いていることが、裁量権逸脱の要件となります。
外国人と政治活動の自由
マクリーンさんが在留期間を更新できなかったのは、政治活動(デモ)に参加したことも要因のひとつとされました。しかし最高裁判所は、外国人における政治活動の自由を拒否したわけではありません。
ただし在留期間の更新は憲法上の権利ではなく、あくまで出入国管理令(今の出入国法)に基づいて法務大臣が判断するものです。そのため政治活動を理由に、在留期間の更新を拒否するのも問題ないと判断しました。
公務員試験の選択肢に注意
マクリーン事件の結論部分だけ目を通すと、在留期間の更新申請を拒否するのはどのようなときも認められると間違えて覚えてしまいます。実際は、裁量権を逸脱しないかが重要です。
公務員試験の選択肢では「裁量権を逸脱したら違憲となる」などと記載されることもあります。「違憲」という言葉だけを見て、この選択肢は誤っていると解釈しないようにしてください。
外国人の人権享有主体性に関するその他判例
マクリーン事件以外にも、外国人の人権享有主体性において重要な判例がいくつかあります。ここでは、特に出題される可能性の高い事件を紹介しましょう。
外国人の再入国の扱い
外国人の再入国の自由に関しては、森川キャサリーン事件が有名です。比較的名前が覚えやすく、内容もある程度は知っているという受験生も多いでしょう。
こちらの事件は日本に在留しているキャサリーンさんが、海外へ一時旅行を決めたところから始まります。事前に再入国の手続きを済ませようとしたものの、法務大臣は認めませんでした。
最高裁判例は、在留している外国人には海外へ一時旅行する自由を保障していないと判断します。結果的にキャサリーンさんは敗訴となりました。
外国人が公務員になれるか
次に外国人と公務員の関係について見ていきます。今では外国人も当たり前のように日本で働く時代ですが、外国人は公務員という職業に就くことができるでしょうか。
こちらの答えは一応「できる」ではあるものの、非常に厳しい制限が設けられています。
まず外国人は国家公務員にはなれません。国家公務員は日本国の根幹部分を担うため、日本人が就くのが当然であるからです。
一方で地方公務員であれば、外国人の勤務を認めている自治体もあります。しかし地方公務員でも、外国人が管理職に昇進するのはほぼ不可能です。
以前も保健師として働いていた外国人が、管理職に昇格できないことを不服として訴訟(東京都管理職選考事件)を起こしたことがあります。
その結果、外国人に管理職への昇格を拒否した自治体側の判断は違法ではないと判決が下されました。地方公務員であれ、国民主権の原理から日本国籍を持つ人間が就くことを想定しているからです。
外国人と日本での日常生活
日本人は「生存権」の規定により、生活が苦しくなっても一定の助成を受けられる権利があります。公的年金や生活保護が代表例のひとつです。
しかしここで問題となるのが、外国人にも生存権が認められるかどうかです。これまでも、生存権を巡ってさまざまな裁判が起こされました。
その中でも有名な事件が塩見訴訟です。塩見訴訟では当初は外国人だった(後に日本国民となる)人物が、障害福祉年金の支給を巡って訴訟を起こしました。
最高裁の結論は「日本国民を外国人よりも優先的に扱うのは憲法に違反しない」と判断します。ただし生存権を含む社会権において、国籍の要件を課すのは望ましいとは判旨していません。定住外国人であるかどうかもこの判例では区別していない点も押さえておくとよいでしょう。
生存権は実際には非常に複雑であり、学説もいくつかに分かれています。下記の記事でより詳しく触れているので、公務員試験の受験生はこちらも参考にしてください。
外国人と押捺の強制
アメリカ国籍の人が神戸市に居住していたところ、外国人登録の際に指紋で押捺をしなかったために起訴されました。
最高裁は指紋は情報ではないものの、生涯で一切変わらないのでプライバシーが侵害される恐れを危惧します。そのため私生活上の自由として、みだりに押捺を強制されない自由があるべきとしました。
そこで国家機関が正当な理由なく指紋で押捺を強制することは許されず、その自由は外国人にも等しく及ぶとします。
しかしこの判例も複雑であり、公共の福祉によって一定の制限を受けると判断しました。特に外国人は居住や身分を明らかにしなければ、社会の秩序も乱れかねません。
結果的には、指紋の押捺を定める外国人登録法は憲法に違反しないと判断しました。ちなみに現在も出入国管理法にて、指紋での押捺は引き続き取り入れられています。
マクリーン事件は「憲法」の基本
この記事では、マクリーン事件と人権享有主体に関わる判例を紹介しました。特にマクリーン事件は、憲法に出てくる判例の中でも基本的な内容のひとつです。判例の結論もそうですが、文章の記載をある程度覚えておくようにしましょう。
人権享有主体に関しては、ほかにも重要な判例が数多くあります。また今回の内容でも、公共の福祉や人権の関係を紹介しましたが、以下の記事でも取り上げているので併せて参考にしてください。