行政書士試験の行政法を勉強する中で、有名判例の一つに位置づけられるのが横浜市保育所廃止条例事件です。行政事件訴訟法の範囲で名前だけ見かけつつも、どういった事件かわからない人もいるでしょう。
この記事では、行政事件訴訟法の内容として横浜市保育所廃止条例事件を詳しく解説します。行政書士試験の勉強を進めている人は、ぜひ参考にしてください。
横浜市保育所廃止条例事件とは
横浜市は条例を制定し、市立保育所を4ヶ所廃止することが決まりました。近年では公立保育所の廃止が加速しており、民営化を目指す動きが増えています。横浜市の事例も、施設は残しつつ社会福祉法人に運営を任せるのがねらいでした。
しかし当該保育所に通っていた子の親(X)は、条例の制定行為が保育を受ける権利を違法に侵害したとして、取消訴訟を提起します。最高裁では、条例の制定行為に処分性を認めるかが争点となりました。
処分性については、以下の記事でも詳しく解説しています。行政法でも重要なテーマとなるので、これらも併せて押さえてください。
処分取消訴訟と裁決取消訴訟|処分性の意味も徹底解説 - 【資格の教室】ヤマトノ塾
横浜市保育所廃止条例事件の判例
まず結論から述べると、横浜市保育所廃止条例事件では原告の請求に処分性を認めました。抗告訴訟の対象になる行政処分だと判断したと解釈してください。
正直な話、行政書士試験では結論さえ覚えていれば問題ありません。多肢選択式で判例が丸ごと出てくる可能性はありますが、択一式ではここまで深く問われないからです。
ただし結論部分だけ覚えていても、事件に関する理解が深まっていないと忘れやすくなります。そこで最高裁の判例をもう少し噛み砕いて説明します。
原告に法的地位を認めた
そもそも処分性を認めるには、行政の行為が直接国民の権利義務を形成し、あるいは範囲を確定させる性質を持つのが前提です。つまり保護者が法的に保護されるかを考える必要があります。
保護者が児童に通わせたい保育所を決めるとき、申込書を提出します。実際にはキャパシティなどによる待機児童問題もありますが、やむを得ない事情がなければ保育所側は申込みのあった児童を受け入れるのが原則です。この考え方は、児童福祉法24条1〜3項に基づいています。
加えて保育所を利用するには、保護者の選択も尊重しながら「実施期間」を定めます(児童福祉法第33条)。児童や保護者は、保育の実施期間が満了するまでは保育を受けることを期待するでしょう。
しかし条例が定められると、当該保育所に通園させようとした保護者の選択を一方的に拒まれた状態になります。以上から最高裁は児童福祉法において、児童や保護者に法的地位を認めました。
途中で通ってる保育所が廃止になったら保護者は困るよね。
原告の請求に処分性を認めた
一見すると、行政が行ったのはあくまで保育所の廃止に関する条例を定めたことです。原告に対して、直接的に何か処分を下したわけではありません。そのため「処分性が認められないのでは」と考える人がいてもおかしくはないでしょう。
確かに条例の制定は本来立法作用の話であり、抗告訴訟の対象にならないのが原則です。保育所についても市町村長の権限に基づき、条例によって廃止できるとされています。
とはいえ条例が制定されてしまうと、保護者側は保育園の廃止に反対する機会が与えられません。そこで例外的に当該条例の制定に関しては、処分性があると認めたのです。
取消訴訟と第三者効の関係
仮に保護者の請求が完全に認容され、市町村側に勝ったとしましょう。しかし本来の判決は、実際に争った保護者や児童、市町村に対して効果を与えます。
とはいえ市町村が保育所を存続させるとなれば、通っている全員の児童も恩恵を受けるでしょう。この状態が妥当かどうかも、最高裁は述べています。
行政事件訴訟法第32条では、処分を取り消す判決には第三者に対しても効力を有すると定められています。最高裁はこの条文を根拠に、抗告訴訟の対象になると認めました。
横浜市保育所廃止条例事件まとめ
横浜市保育所廃止条例事件について、行政事件訴訟法の数ある判例の一つと考えている人も多いと思います。行政書士試験の勉強においても、ここまで深く押さえる必要はありません。
しかし行政事件訴訟法の基礎を知るうえで、実は重要な知識が多く含まれている判例でもあります。規定行為と処分性の関係、取消判決と第三者効などを今回の記事でしっかりとおさらいしてください。