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幸福追求権とは?新しい人権や有名判例をわかりやすく解説

私たちが人間らしく生活できているのは、日本国憲法で人権が保障されているためです。その中でも、幸福追求権は行政書士試験や公務員試験においても重要な内容の一つです。

ここでは、幸福追求権と新しい人権について紹介します。併せて幸福追求権に関する重要判例も取り上げます。行政書士試験や公務員試験を受験される方は、ぜひ記事を参考にしてください。

 

幸福追求権とは

幸福追求権とは、人間が自由に生活することを追求できる権利です。憲法第13条では、「生命・自由・幸福追求」といった3つの要素を重視しています。

幸福追求が重視されたきっかけは、アメリカの独立宣言でした。アメリカは元々イギリスの支配下にあり、植民地となっていた過去があります。人権も与えられず、原住民は虐げられていました。

こうした本国の支配に対抗すべく、アメリカは独立戦争を起こし、ヨークタウンの戦いでイギリス軍を降伏させます。結果的に勝利をつかみ取り、アメリカ独立宣言がフィラデルフィアで採決されました。

この宣言においても、「生命・自由・幸福追求」の権利を掲げています。これらの重要性が日本にも浸透し、GHQ主導で作られた日本国憲法にも引き継がれているのです。

 




国民が「個」として尊重されるのは、今の時代では特に大事だね




でも戦前の大日本帝国では「全体主義」が当たり前で、「個」として尊重する考えは、ほとんど浸透していなかったんだ

 

新しい人権とは

幸福追求権を勉強するうえで、重要な要素の一つが新しい人権です。新しい人権とは日本国憲法が施行されたあと、時代の流れによって生まれた人権を指します。主な例が下記のとおりです。

  • 肖像権
  • プライバシーの権利
  • 名誉権

しかしこれまでの判例を見ても、新しい人権を直接的に認めた事案はごくわずかといえます。

 

新しい人権と判例

続いて、新しい人権にかかる有名判例をわかりやすく紹介します。判例を勉強するうえでは、結論部分だけではなく判旨の重要ポイントも押さえないといけません。ここでは新しい人権の種類ごとに、有名判例の内容を見ていきましょう。

肖像権に関する判例

肖像権の具体例についてわかりやすく示した図

肖像権とは、みだりに自分の姿を撮影されない権利のことです。ここでは京都府学連デモ事件について詳しく紹介します。重要な判例となるので、内容を必ず押さえてください。

京都府学連デモ事件の概要

京都府学連デモ事件とは、デモ行進に参加していたXらを、警察が犯罪捜査の目的で写真撮影したために起きた事件です。Xは写真撮影した警察官に暴力を振るい、全治1週間のケガを負わせました。

Xは公務執行妨害の容疑で起訴されますが、写真撮影が違法な手段であると主張します。ちなみに第一審と控訴審では、X(被告人)が有罪であると結論を下しています。

最高裁はこの事件を見るにあたり、「何人もその承諾なしに、みだりに容ぼう等を撮影されない自由を持つ」としました。この権利を肖像権であるとは断言していませんが、実質的にはそれに近い権利を持つと考えたわけです。

正当な理由がなければ、たとえ警察官でもみだりに写真撮影することは認められません。しかし公共の福祉のためには、制限をかけてもよいと述べています。

つまり証拠保全の必要や緊急性があり、許容される限度を超えない方法であれば写真撮影が認められます。仮に第三者の容ぼうが含まれたとしても、ただちに憲法に違反するとはいえません。

結果的に最高裁は京都公安条例を合憲とし、Xの上告を棄却しました。この判例では肖像権を認めたとは明言していないものの、内容として触れているのがポイントです。

プライバシーの権利の判例

プライバシーの権利についてわかりやすく解説した図

プライバシーとは、個人情報をみだりに公開されない権利のことです。新しい人権の中でも、プライバシーの権利に関する判例が数多くあります。

判例によって「プライバシー」という言葉を用いているかどうかが異なります。判決文の内容に着目しつつ、行政書士試験や公務員試験で押さえたい判例を紹介しましょう。

前科照会事件

前科照会事件のきっかけは、自動車学校が弁護士を雇い、指導員(B)の前科を調べてくれと依頼したことでした。弁護士はBの前科および犯罪歴の照会を区役所に求め、道交法違反や暴行などの前科があることが判明します。

結果的に自動車学校はBに解雇処分を下しますが、当然B側は納得できるわけがありません。そこで照会に応じた京都府に対し、プライバシーの侵害を理由に損害賠償訴訟を提起しました。

最高裁は、犯罪の種類や軽重を問わず、前科等について全て報告するのは違法と判断します。前科や犯罪履歴の情報も、みだりに公開されない法律上の保護に値する利益を有するとしました。人の名誉や信用に直接関与するためです。

こちらの判例では、「プライバシー権により…」とは明示していないため、引っかけ問題には注意してください。

早稲田大学名簿無断提出事件

早稲田大学で外国国賓の講演会が行われた際に、学生の氏名や住所、電話番号を記録したものを大学が警察に開示しました。情報を公開された学生らは、プライバシーの侵害にあたると訴訟を提起します。

最高裁はこれらの情報も、みだりに開示されたくないと考える情報の1つに変わらないとして大学側の行為を違法としました。当時は氏名・住所・電話番号が秘匿性の高い情報と認識されていなかったものの、みだりに公開されたくないと考えるのは自然だと最高裁も考えます。

その辺りを考慮し、氏名や住所、電話番号も法的保護の対象になると判断しました。プライバシーの保護の観点で、損害賠償が認められると結論が下されます。

ノンフィクション「逆転」事件

傷害致死や傷害罪で逮捕されたXは、服役後に前科を隠しながら暮らしていました。しかし当時陪審員を担当していたYが、自分の著書にXの事件を題材にしたノンフィクションの著作を手掛けます。その作品にはXの実名が使われており、精神的苦痛を負ったとして訴訟沙汰となりました。

最高裁は前科の公開も法的保護の対象になるものの、歴史的・社会的意義があるときは実名の公表も認められうることを指摘します。一方で実名を使う意義や必要性を考え、前科が公表されない法的利益が上回るときは損害賠償の対象になるとも述べました。

今回の事件では、Xが社会復帰を果たしており、無名の一市民として生活していたことが重視されます。著作においてもわざわざ実名を使うことに、必要性が感じられないと判旨されました。なお当該判例では、プライバシーという言葉の使用を控えている点もポイントの一つです。

住基ネット訴訟

住基ネットとは、市区町村役場が管理している住民の情報を一元管理しているデータです。市民課に配属されれば、毎日のように住基ネットを使うでしょう。仕事に欠かせないものですが、かつてプライバシーを巡って訴訟沙汰となりました。

最高裁は、住基ネットの使用はプライバシーの侵害にはあたらないと判断します。確かに、住基ネットでは数多くの個人情報が収集されています。しかし、これらはいずれも本人確認に留まるものです。秘匿性の高い情報とはいえません。

さらに、住基ネットは行政によって厳重に守られています。外部から簡単に不正アクセスできるものではなく、セキュリティの面でも安全性の高いシステムです。

これらを総合的に判断した結果、住基ネットで本人確認する行為は違法にならないとしました。

名誉権

名誉権の内容についてわかりやすく解説している図

名誉権とは、その人の社会的評価をみだりに下げられないための権利です。人格権の一つとされており、意図的に侵害すると「名誉毀損罪」が適用される可能性もあります。

名誉権とプライバシーの権利の区別が付きにくいですが、名誉権は「社会的評価」に重点を置いているのが特徴です。一方でプライバシーの権利は、単に知られたくない秘密の情報を公開されない権利を指します。

要するに名誉権は「個人の尊厳」、プライバシーの権利は「平穏な生活」を重視しているといえます。

エホバの証人輸血拒否事件

幸福追求権の判例で、代表的な例がエホバの証人輸血事件です。エホバの証人に入信していた方が、大病を患って手術を必要としていました。その際に、「輸血を受けるのは信念に反する」という旨を医師に伝えていたそうです。

医師側は必要であるにもかかわらず、輸血をしないと殺人罪として起訴されてしまいます。こうした関係もあり、患者の意思に逆らって輸血をしました。

結果として、患者の命は助かります。しかしながら、親族は信教の自由を脅かしたと輸血をしたことに訴えを起こしました。

一般的な感覚では、医師は患者の命を救ったのだから責められるのは筋違いだと思うでしょう。一方で裁判所は患者の人格権を尊重すべきとして、十分な説明を行わないで輸血した行為を違法としました。

試験でも引っ掛けとして出されやすいポイントですが、この事件は「人格権」の内容として尊重されるべきと判断された事件です。「自己決定権」については言及されていないため、文章はしっかりと読んでください。

北方ジャーナル事件

北方ジャーナル事件とは、北海道の知事選に出馬した人が自身を誹謗中傷する記事の事前差止めを求めた事件です。この事件において、最高裁は人の品性や名声、信用などを侵害された者は損害賠償請求できると述べました。

加えて人格権としての名誉権に基づき、行為の事前差止めもできると結論を下します。民法の物権と同じく、名誉権には排他性を有するとしました。北方ジャーナル事件と表現の自由の関係については、以下の記事で解説しています。

その他の新しい人権と判例

ほかにも新しい人権を巡る重要判例がいくつか存在します。ここでは特に重要なものをピックアップして、どのような事件があったかを解説しましょう。

どぶろく裁判

どぶろくとは米や米麹、水を原料としたお酒のことです。どぶろく事件は日本で無免許のままお酒を製造した方が、酒税法違反の罪に問われた事件を指します。

製造した酒が差し押さえられたものの、本人は「自己消費目的であるため違法ではない」と訴えを起こしました。裁判所は「著しく不合理な規制ではない」と判決を下します。その理由は、酒税との関係です。

確かに、第三者に販売さえしなければ大きな問題はないと思うかもしれません。しかし、製造を放任しすぎると「免許もないのに、酒税を払わずお酒が飲めて」しまいます。

酒税法は、国の財源の一つである「酒税」の確保を目的としています。税との関係により、個人の権利に一定の制約が課せられた事例です。

公立図書館の図書廃棄事件

行政書士試験の多肢選択式では、公立図書館の図書廃棄事件が問われたこともありました。こちらは市立図書館の職員が、除籍対象資料に該当していない図書を独断で廃棄してしまった事件です。棄てられた図書の著者Xは、精神的苦痛を受けたとして損害賠償を提起します。

最高裁は、公立図書館が教養を高めるための「公的な場」としてします。つまり職員は自分勝手は判断をせず、公正に資料を扱わないといけません。

さらに公立図書館は、著者にとっては思想や意見を公衆に伝達する公的な場です。職員が独断で資料を棄てたことは、著者の思想や意見を公衆に伝達する利益を不当に損なわせたといえます。結果的に国家賠償法上違法になると結論付けられました。

 

 

幸福追求権の考え方

幸福追求権には、大きく分けて2つの考え方(学説)があります。

  • 人格的利益説
  • 一般的行為自由説

それぞれの内容について詳しくまとめましょう。

人格的利益説

人格的利益説とは、憲法13条が「個人の人格的生存」に不可欠な人権に限定して認めるとする考え方です。どこまで人権を与えるか、慎重に考える立場に立っています。

この説が提唱された理由は、人権のインフレを阻止するためです。個の自由はもちろん大切ですが、無制限に認めてしまうと結果的に価値を下げてしまいます。お金を刷りすぎると、価値が下がるのと同じ考えです。

人格的生存の意味が分かりづらいですが、一般的には「人間らしく生きること」を指します。しかし、憲法の学者でもさまざまな見解があり、特に髪型や趣味は当てはまるかの判断が難しい部分です。

ただし、人格的生存と関連性が薄い部分に関しても断じて権利を認めないわけではありません。一定の憲法上の保護は与えるべきだとされています。学説上では、人格的利益説が通説(一般的な考え方)です。

一般的行為自由説

一般的行為自由説は、「人格的生存に限定せず」幅広く人権を認める考え方です。幸福追求権を人格的生存に捉えると、人権が狭くなりすぎる恐れもあります。あくまで人権は抽象的かつ相対的な概念として、幅を利かせた学説です。

とはいえ、どこまでの権利や自由を認めるかの基準自体は存在します。人格との関連性は判断材料の一つとなっており、希薄であれば保障が弱くなっても問題ありません。

 

幸福追求権の勉強ポイント

幸福追求権の判例を勉強するときは、新しい人権の種類ごとに分けて覚えることがコツです。この分野では、エホバの証人の輸血拒否事件や前科照会事件などの有名な判例が数多く出題されます。それぞれの結論と背景を把握し、試験に臨むようにしましょう。

司法試験までチャレンジされる方は、幸福追求権の学説も理解しておいた方が賢明です。人格的利益説と一般的行為自由説はそれぞれ説明できるようにしてください。