行政書士試験の勉強をしているものの、労働三権の内容が複雑で分かりづらいと感じている人もいるでしょう。特に公務員と労働三権の関係については、公務員試験においても重要な範囲の一つとなります。
行政書士試験と公務員試験に合格した過去を持つ筆者が、労働三権と公務員の関係について解説します。最高裁の判例も徹底的に解説するので、勉強の参考にしてください。
労働三権とは
労働三権とは、日本国憲法第28条に定められている労働基本権のことです。労働基本権の種類が全部で3つあるので、合わせて労働三権と呼ばれています。主な種類を表でまとめてみましょう。
労働三権 | 内容 |
---|---|
団結権 | 労働組合を結成できる権利 |
団体交渉権 | 賃金の引き上げなどを 交渉できる権利 |
団体行動権 | ストライキを起こせる権利 |
以上のように権利の名前のみならず、内容も押さえておくとイメージがわきやすくなるはずです。
労働三権と公務員の関係
労働三権は、労働者にとって欠かせない権利の一つです。しかし公務員には、労働三権の一部が制限されていたり、すべて認められなかったりする仕事もあります。それぞれの関係性について押さえましょう。
業種ごとに見た労働三権
公務員といってもさまざまな業種があり、労働三権の扱いもまた異なります。どの権利が認められるかを、業種ごとに表でまとめてみました。
公務員の種類 | 団結権 | 団体交渉権 | 団体行動権 |
---|---|---|---|
現業公務員 | ◯ | ◯ | ✕ |
非現業公務員 | ◯ | △ | ✕ |
警察・消防士 ・自衛官 |
✕ | ✕ | ✕ |
なお「△」は、一部制限を受けている状態です。表の内容をより詳しく解説しましょう。
現業公務員と非現業公務員
まずは現業公務員と非現業公務員の違いを解説します。
現業とは、元々「実地での仕事」を指す言葉です。公務員の中でも、現場に足を運んで仕事する人々のことを示しています。現業公務員の例として挙げられるのが、ごみ収集作業員です。
一方で非現業公務員は、現場の仕事ではなく一般的な事務員として働く人を指します。市役所の窓口が主な例です。現業公務員はブルーカラー、非現業公務員はホワイトカラーの要素を持っているとも考えられます。
公務員に労働三権はほぼない
上記の表を見ても分かるとおり、公務員には労働三権があまり認められていません。
特に団体行動権は、すべての業種で不可となっています。したがって公務員には、ストライキを起こす権利がありません。警察・消防士・自衛官に至っては、すべての権利が行使できないとされています。
非現業公務員の団体交渉権は「△」となっていますが、こちらは団体協約締結権がない状態です。要するに労働組合と職員は、労働協約を書面で結べません。賃金や労働時間を書面で定められず、あくまで交渉のみが認められています。
公務員に労働三権がほぼない理由
公務員に労働三権がほとんどない理由は、全体の奉仕者として仕事しないといけないからです。
公務員はサラリーマンとは異なり、会社の利益を上げるために働くわけではありません。国民(住民)が暮らしやすい世の中を作るために働いています。給料も、国民が汗水流して働いて納めた税金から支給されます。
こうした特性から、労働三権を無制限に認めてしまうのは望ましくないわけです。
また公務員の仕事放棄は、ときに国民(住民)の命の危機につながります。例えば、地震で街が壊滅状態になったにもかかわらず、自衛官がストライキで誰一人来なかったら復旧が遅れてしまうでしょう。こういったリスクを防ぐためにも、公務員に対する労働三権は厳しく制限されています。
労働組合と公務員の関係
公務員においても、現業公務員には団結権が認められています。非現業公務員は労働組合法の適用を受けないものの、団体の結成自体は可能です。
労働組合の加入自体は任意であり、基本的には強制されるものではありません。公務員として働く予定のある方は、加入するかどうかを入念に判断するとよいでしょう。
労働三権と公務員に関する判例
公務員と労働三権について、裁判で争われたこともありました。すべての判例に共通していえることは、公務員も一人の勤労者として労働基本権の保障を認めている点です。
しかし公務員という特殊な労働形態から、一定の制約を受けるのは致し方ないとされています。
最高裁の判旨も、時代が進む中で少しずつ変わっているのがポイントです。全逓東京中郵事件や都教組事件までは、どちらかというと公務員の労働基本権を重視していました。
一方で岩手県教組事件以降は、公務員に対する労働基本権の制約を広く認めているのが特徴です。これらの判例を細かく紹介するので、それぞれの結論部分をしっかりと押さえてください。
全逓東京中郵事件
郵政民営化以前で、郵便局がまだ公務員と位置づけられていた頃、全逓信労働組合の役員が争議行為をあおって逮捕されました。この事件を受けて、被告人は争議行為を禁ずる公労法が違憲であると裁判で戦います。
判例では、公務員の労働基本権の制限は、労働基本権の保障と国民の利益を比較して決めるべきとしました。さらに制限は、必要最小限に留めないといけないと判断します。
このことから争議行為に刑事罰を科すのは、必要やむを得ない場合に限ると判旨しました。どうしても制限するのであれば、代替措置も講じるべきというのが当時の考えです。
以上の見解から、最高裁は公労法の違憲性は認めませんでしたが、被告人は無罪であるとしました。
東京都教組事件
都教組(東京都教職員組合)は組合員に対して、有給休暇の取得を義務付けるとともに、集会への参加を命じました。この命令が、地方公務員法37条および61条4号に違反すると起訴された事例です。
この判例については、いわゆる「二重の絞り論」という考え方が取られています(合憲限定解釈の一種)。
争議行為の違法性を強弱で判断し、違法性の強いものが第37条で対処するとしました。さらに、その中から刑事罰の対象になって初めて地方公務員法61条4号が適用されるという考え方です。
つまり違法性の低い争議行為については、地方公務員法における処罰の対象にはならないとします。被告人のあおり行為についても、実態は指令や伝達とあくまで争議行為の一環としてなされたものです(「通常随伴する行為」と呼ぶ)。
したがって民事ならまだしも、刑事罰として処罰するのは望ましくないと判旨されました。違法性を完全に否定したわけではないですが、被告人は無罪となります。
しかし後の岩手県教組事件によって、都教組事件の判決は変更されました。
岩手県教組事件
都教組事件の判決を否定したのが、岩手県教組事件です。都教組事件から約7年後に起きており、主に二重の絞り論による考え方を否定しました。
結論から述べると、岩手県教組事件においては、ストライキの企画やあおり行為も漏れなく違法になるとジャッジしました。なぜなら地方公務員も全体の奉仕者であり、国家公務員と同じく税金でご飯を食べているからです。
都教組事件では「通常随伴する行為」と仕切られていましたが、岩手県教組事件においてはその解釈さえ間違えていると考えます。したがってこの事件でのあおり行為についても、刑事罰の対象になりうると判旨されたわけです。
全農林警職法事件
全農林警職法事件とは、農林省(現在の農林水産省)の組合である全農林労働組合が、組合員にストライキをあおったことで始まりました。組合役員は起訴されましたが、争議行為とそのあおり行為を認めない国家公務員法が違法だと裁判を起こします。
結論として、国家公務員法は憲法に違反していないと最高裁はジャッジしました。その理由は、国民全体の利益を考えた際にやむを得ない制約にあたるとされたためです。
労働基本権を制約している以上、代替措置を採らなければならないとも述べたものの、日本では人事院を設置しています。給料等の勤労条件を具体的に示していることから、代替措置についても問題ないとしました。
全農林警職法事件の判例は、都教組事件で焦点となった二重の絞り論を否定しています。全司法仙台事件判決を変更したのが主な特徴です。
労働三権のまとめ
今回は、労働三権と公務員の関係について紹介しました。
公務員はサラリーマンとは立場が異なり、労働三権の全てが認められているわけではありません。以下の表の内容は重要であるため、しっかりと覚えないといけません。
公務員の種類 | 団結権 | 団体交渉権 | 団体行動権 |
---|---|---|---|
現業公務員 | ◯ | ◯ | ✕ |
非現業公務員 | ◯ | △ | ✕ |
警察・消防士 ・自衛官 |
✕ | ✕ | ✕ |
併せて労働三権と公務員の内容に関しては、最高裁判例も押さえることが大切です。
行政書士試験では、まれにマニアックな問題が出題されます。これらは捨て問として無視しても問題ありませんが、判例はある程度知っておくと便利です。
憲法の問題は比較的少なく、あまり勉強していない人もいるかもしれません。ただし1問の正答で合否を分けるケースもあるため、余裕のある方はぜひ勉強の参考にしてください。