行政書士試験の民法において、根抵当権はややマイナーですが押さえておいたほうがよい分野です。しかし抵当権との違いがわからず、勉強で困っている方も一定数いるでしょう。
この記事では、行政書士試験に短期合格を果たした筆者が、根抵当権と抵当権の違いを詳しく解説します。行政書士試験の受験生は、ぜひ最後までご覧ください。
根抵当権とは

根抵当権とは、限度額の範囲内で繰り返し融資を受ける場合に、抵当権を継続して設定できる制度のことです。たとえば企業が工場を運営したいと考えていました。
工場を運営するにはシステム費用や光熱費、人件費といったコストが定期的にかかります。そのため企業が金融機関から、複数回にわたって融資を受けようとしました。
本来の抵当権は、一度弁済が完了したら抹消手続きを経なければなりません。しかし何度も借り入れすることが想定される中、何度も抵当権を設定し直すのは大変です。
そこで根抵当権を設定すると、上限額の範囲であれば抹消手続きをせずに何度も金銭の借り入れができます。個人が設定するケースはあまり多くなく、どちらかと言うと法人によって利用される制度です。
根抵当権で押さえたい用語
行政書士試験に向けて根抵当権を勉強するうえで、押さえておきたい用語がいくつかあります。これらの用語をしっかりと理解し、試験でも問題なく対処できるようにしましょう。
根抵当権者・根抵当権設定者
根抵当権において意外と混同しやすい点が、根抵当権者と根抵当権設定者の違いです。通常の抵当権と基本的に考え方は同じですが、しっかりと区別する必要があります。
根抵当権者は、根抵当権を行使することで利益を受けられる側です。基本的には、お金を貸している債権者がそのまま根抵当権者となります。
一方で根抵当権設定者は、自分の目的物に根抵当権を設定する側です。お金を借りている債務者が、そのまま根抵当権設定者になるケースが一般的ですが、債務者と根抵当権設定者をそれぞれ別にする方法もあります。
極度額
根抵当権で押さえなければならない用語の一つが、極度額です。極度額は、債権者から借り入れできる上限額と覚えておきましょう。
根抵当権は将来的に何度も借り入れが生じるため、ある程度上限額を決めておく必要があります。上限額を定めていないと、債権者の貸す金額も無限に広がってしまうためです。利息や遅延損害金についても、極度額を限度に根抵当権を行使できます。
被担保債権
被担保債権とは、担保を設定するきっかけとなった債権のことです。上述した企業が金融機関から融資を受けた例でいえあb、借り入れたお金が被担保債権となります。
主な被担保債権として挙げられるのが、元本・利息・その他の定期金などです。信用金庫取引による債権を被担保債権とする場合、根抵当債務者に対する保証債務も範囲に含まれます。
元本確定
根抵当権において重要な要素が、元本が確定するタイミングです。元本とは、債務者が最終的に返済しなければならないを指します。
元本が確定すると、根抵当権は通常の抵当権に変わります。したがって被担保債権の範囲や債務者は変更できず、付従性や随伴性が生じます。なお元本確定事由については、民法第398条の20をチェックしてください。
- 抵当権者が差し押さえを申し立てた
- 競売手続きの開始や滞納処分の差し押さえを知ったときから2週間以内
- 債務者または根抵当権設定者の破産手続開始の決定など
根抵当権の設定から3年を経過した場合は、根抵当権設定者のほうから元本確定の請求をすることも可能です。反対に根抵当権者からは、いつでも請求が認められます。
根抵当権の内容の変更
根抵当権は内容を変更したり、処分したりするのも条件次第では可能です。ここでも特に狙われる可能性のある内容を紹介しましょう。
被担保債権の範囲・債務者の変更
被担保債権の範囲と債務者の変更は、元本確定前のみに認められます。元本の確定後に認めてしまうと、根抵当権の内容が大きく変わってしまうためです。
元本の確定前は、債権の内容が具体的に決まっているわけではありません。したがって当該段階では、これらの内容も変更して問題ないとされています。
被担保債権の範囲と債務者を変更する際には、利害関係人の承諾は必要ありません。後順位抵当権者がいても、極度額は変わらないので不利益が生じないからです。
元本確定期日の変更
根抵当権を設定する中で、元本確定期日を定めることもできます。期日の変更に関しても、元本確定前しか認められません。そもそも元本確定したあとは、期日を変更する意味がないためです。
また期日が変わっとしても、利害関係人にそこまで大きな支障は出ません。そのため利害関係人の承諾は必要ありません。
極度額の変更
極度額は、元本確定前だけではなく元本確定後でも変更が可能です。すでに元本が確定しているにもかかわらず、なぜ極度額を変更できるか疑問に感じる人もいるでしょう。
その理由は、利息や遅延損害金などによって金額が変わるケースもあるためです。弁済が全然なされず、利息が増えていったとしても極度額が固定されたら、根抵当権者はその限度でしか回収できません。以上から極度額は、元本確定後の変更も認められています。
しかし極度額を変更するには、元本確定前後にかかわらず後順位抵当権者や転抵当権者といった利害関係人の承諾が必要です。勝手に変更されると、利害関係人に思わぬ損害が生じることを理由としています。
極度額を増やした場合
極度額が増えてしまうと、後順位根抵当権者に損害が生じてしまいます。後順位根抵当権者とは、先順位根抵当権者に劣後して根抵当権を行使できる人物です。
このように抵当権や根抵当権は、複数人が別々に設定することも認められます。ただし目的物を競売にかけたとき、優先して弁済を受けられるのは先順位根抵当権者です。
たとえば目的物である工場が1,000万円で、先順位根抵当権者は600万円の極度額で根抵当権を有しました。債務者は上限まで借り入れしましたが、期日までに返済できませんでした。一方で後順位根抵当権者も、債務者に対してお金を貸していました。
本来は工場を競売にかけて1,000万円を手に入れ、先順位根抵当権者の600万円分の債権額に充当できます。すると残りの400万円分が、後順位根抵当権者に渡るはずです。
しかし先順位根抵当権者が、極度額を700万円に変更したとしましょう。工場の金額は変わらないので、先順位根抵当権者に700万円が充当されたら、後順位根抵当権者のもらえる分は300万円になってしまいます。以上が極度額の増額が、後順位根抵当権者に損害を与える理由です。
極度額を減らした場合
反対に極度額を減らすと、転抵当権者に損害を与えてしまいます。転抵当権者とは、抵当権者が持つ抵当権を他の債権の担保としたとき、当該債権を有する者のことです。
たとえば債務者Bが、債権者Aからお金を借りるべく、工場に根抵当権を設定しました。一方で債権者Aも運用資金が足りず、金融機関Cからお金を借りたとします。
その際に債権者Aは、根抵当権の目的物である工場に抵当権を設定することが可能です。なお当該ケースにおける債権者Aは、原抵当権者と呼びます。金融機関Cは転抵当権者となり、工場に対して抵当権を行使できます。
仮に工場の価格が1,000万円、原抵当権者が定めた極度額を800万円とします。転抵当権者も、極度額800万円を想定したうえで取り決めたはずです。
しかし原抵当権者が極度額を500万円に変更してしまうと、転抵当権者の配当が少なくなってしまいます。十分な金額を回収できない可能性が高まるため、極度額の減額では転抵当権者の承諾が必要です。
根抵当権と抵当権の違い
根抵当権の性質を押さえたら、次に抵当権との違いを詳しくまとめます。混同しやすいポイントとなるので、それぞれを上手く区別できるよう整理してください。
被担保債権の範囲の違い
抵当権の利息債権またはその他定期金であれば、優先的弁済効力は満期となった最後の2年分のみに限定されます。制限がある理由は、後順位抵当権者や一般債権者の権利も守るためです。
ただし債務者自身は、元本と最後の2年分の利息を弁済したところで、抵当権の抹消を請求できません。制限はあくまで後順位抵当権者等の保護が目的であるので、債務者自身は債務の全額を弁済することが必要です。
反対に根抵当権は、元本確定前・確定後に限らず優先的弁済効力は2年分に限定されません。発生した損害の賠償の全部につき、極度額を限度として根抵当権の行使が認められます。元本確定前後を問わず、極度額が限度となるため抵当権と区別してください。
一部譲渡はできるか
抵当権は、一般的に不可分の債権と考えられています。被担保債権の一部を譲渡したとしても、その比率に応じて抵当権を分けることはできません。
一方で根抵当権については、一部譲渡が認められています。仮に一部譲渡したときは、譲受人と共有する状態となります。権利の共有は、「準共有」と呼ぶので併せて覚えてください。
付従性・随伴性の有無
付従性とは、債権の発生や消滅により担保物件の有無も左右される性質です。随伴性は第三者に担保物件が移れば、債権もそのまま移動する状態を指します。
抵当権には、付従性と随伴性の双方が認められます。抵当権が消滅すれば担保物件も消え、第三者に担保物件が渡ると抵当権は付いていきます。
根抵当権の場合、元本が確定するまでは付従性・随伴性が認められません。抵当権のように、被担保債権が特定されているわけではないためです。つまり債権が消滅したところで、根抵当権が消えることはありません。
一方で根抵当権は元本が確定したら、通常の抵当権とほとんど同じ性質を持ちます。そのため元本確定後の根抵当権は、付従性等も認められます。
なおここまでの内容は、筆者の運営しているYouTubeでも解説してみました。こちらも併せて確認してください。
根抵当権に関するまとめ
この記事では、民法に規定されている根抵当権を紹介しました。根抵当権を勉強するときは、元本の確定前と確定後に分けて性質を覚えるとよいでしょう。
元本確定前は、通常の抵当権と異なるところがいくつかあります。極度額の考え方や性質を押さえれば、実際の試験でもある程度対応できます。根抵当権と抵当権の違いを押さえつつ、行政書士試験の勉強に活かしてください。