行政書士試験の民法を勉強する際、権利能力・意思能力・行為能力が理解できずに苦労した覚えはありませんか。特に意思能力と行為能力の違いが分かりづらいと思う人もいるでしょう。
この記事では、行政書士試験に合格した筆者が権利能力・意思能力・行為能力をわかりやすく解説します。行政書士試験を受ける方は、ぜひ内容を参考にしてください。
権利能力とは
権利能力とは、権利や義務の主体になれる能力のことです。皆さんが自由に仕事し、日常生活を送れるのは権利能力を持っているからと考えられます。
現代社会では、このような権利を持つのが当たり前に感じるでしょう。しかし日本も古い時代にさかのぼると、人身売買が行われていた時代もありました。奴隷にさせられた人々は自由に仕事したり、買い物したりする権利も奪われていたのです。
そう考えると、権利能力を認めている現代社会は幸せなのかもしれません。権利能力について、もう少し深堀りしながら説明します。
出生したときに権利能力を持つ
人が権利能力を持つタイミングは、出生したときと考えられています。ここでの出生とは、胎児が母体から全部露出したときです。この考え方を全部露出説と呼びます。
したがって人間は、生まれながらにして権利能力を持っているといえます。たとえ小さな赤ちゃんでも一人の人間として、私たちはその子の権利を尊重しないといけません。
胎児も権利能力を持つ場合がある
権利能力は生まれた瞬間から発生するので、胎児の段階では持たないと考えるのが一般的です。一方で胎児においても、以下のケースについては権利能力が認められます。
- 相続
- 遺贈
- 損害賠償請求権
たとえば妻のお腹に子どもがいて、夫が亡くなったときは妻と子の2人が相続人となります。さらに遺贈も認められるため、夫が死亡した際に財産を胎児に贈与することも可能です。
損害賠償請求権については胎児に権利を認めつつも、行使できるのは出生したタイミングです。交通事故に遭って胎児の段階で後遺障害を抱えた場合、出生後にその分の慰謝料を請求できます。しかし胎児自身が死亡したら、損害賠償請求は認められません。
意思能力とは
意思能力とは、自分の行為がどのような結果を招くかを弁識できる能力のことです。ここでいう能力は、精神状態のことを指していると考えてください。これまでは判例でのみ認められていた能力でしたが、2020年の大改正で民法第3条の2に規定されました。
仮にお酒を大量に飲んで泥酔状態になっている人が、抵当権を設定したとします。しかし酔いから覚めたあと、本人は何一つ覚えていないことも考えられますよね。このように意思能力を欠く人の行為は無効となります。
行為能力とは
最後に行為能力とは、法律行為を単独でできる能力のことです。判断能力に問題があると、契約内容が自分に有利か不利かわからず、損をしてしまう恐れがあります。そのため損をさせないように、行為能力に制限が課されている人もいます。
制限行為能力者
行為能力に制限が加えられている人を、制限行為能力者と呼びます。主な種類が次の4点です。
- 未成年者
- 成年被後見人
- 被保佐人
- 被補助人
どの種類に該当するかにもよりますが、制限行為能力者は原則として単独で法律行為ができません。一般的には保護者から同意を得たり、保護者が代理行為をしたりする必要があります。この辺りのルールも、各種類によって異なるのが特徴です。
制限行為能力者の詳しい説明については、以下の記事でまとめています。行政書士試験においても重要な範囲となるので、ぜひこちらも併せて読んでみてください。
成年被後見人・被保佐人・被補助人の違いをわかりやすく解説 - 【資格の教室】ヤマトノ塾
意思能力との違い
意思能力と行為能力について、違いが分からないと感じている人もいるでしょう。主な違いとして、次の3つを押さえてもらえればOKです。
- 判断能力の度合い
- 無効か取り消しか
- 認められる行為の範囲
それぞれに分けて、簡潔にまとめましょう。
判断能力の度合い
意思能力と行為能力では、判断能力の度合いに違いがみられます。先述したとおり、意思能力は行為の結果を認識できる精神状態にあるかがポイントです。対する行為能力は、単独行為(行動)の有効性に焦点を当てています。
つまり意思無能力者は、判断能力が欠如している状態と置き換えられます。一方で制限行為能力者は、程度こそ人によって異なりますが、判断能力が低い状態です。そう考えると、意思無能力者のほうが判断能力に問題を抱えている状態ともいえます。
無効か取り消しか
意思無能力者が法律行為をした場合、無効と判断されます。そもそも効力が生じないため、誰かが追認したところで法律行為は存在しなかったとみなされます。仮に給付を受けた側は、民法第121条の2より原状回復義務を負うのがルールです。
反対に制限行為能力者が法律行為をしたら、取り消しの対象となります。そのため法律行為が自動的に無効にはならず、保護者が追認をしたら有効とみなされます。
このように無効となるか、取り消しとなるかで手続きなども大きく変わることを押さえましょう。なお追認の意味が分からなかった人は、以下の記事も併せて読んでみてください。
無権代理と追認の関係|相続が発生したときの取り扱いも解説 - 【資格の教室】ヤマトノ塾
認められる行為の範囲
意思能力と行為能力とでは、認められる行為の範囲にも違いが見られます。意思能力の場合、基本的には法律行為が一切認められません。たとえば泥酔状態で意識がほとんどない人に対し、婚姻届を無理やり欠かせても、元々婚姻の意思があったという事情がなければ原則として無効です。
一方で制限行為能力者であれば、成年被後見人でも単独で婚姻が認められています。未成年者は婚姻こそできませんが、条件付きで法律行為が可能です。制限行為能力者は意思無能力者と比べると、認められる法律行為もある点が異なります。
3つの能力のまとめ
民法の柱として、権利能力・意思能力・行為能力の3つをしっかりと押さえないといけません。直接出題されるケースは少ないと思いますが、民法の基盤となる重要な範囲です。やや区別するのが難しいですが、3つの定義をなるべく正確に押さえてください。