民法の第3章に規定されている内容が債権です。債権は日々の生活の中でも当たり前のように存在しています。
この記事では、債権の種類について元公務員である筆者が解説します。公務員試験でも重要なポイントになるので、債権者と債務者の関係もしっかりと押さえてください。
債権とは
債権とは、債権者が債務者に対して特定の行為を要求できる権利を指します。例えば「Aさんが友人に財布を無償であげる」ことを約束したとしましょう。
約束を交わした以上、Bさんは財布をもらう権利があります。この権利を債権と呼び、Bさんは債権者に該当します。
一方でAさんは、Bさんに対して約束どおり財布を渡さなければなりません。この場合のAさんは債務者と呼びます。債権者と債務者の違いも確実に押さえてください。
債権の目的
債権が目的とするのは、財産関係のみではありません。金銭に見積もることができないものも、債権の目的となります。
第399条
債権は、金銭に見積もることができないものであっても、その目的とすることができる。
旧民法では金銭のみが対象となっていました。しかし、金銭に限定すると今の社会には合わないことから、対象が広げられています。
学問的には「債権の目的」と名付けられていますが、目標や動機を意味するわけではありません。ここでの目的は、あくまで「債務者の給付や行為」を指します。
法律は海外の言葉を直訳したものも多く、日常生活での使い方とは意味が異なる場合が結構見られるので注意しましょう。
債権の成立要件
債権には、大きく分けて3つの成立要件が存在します。
成立要件 | 意味 | 具体例 |
---|---|---|
適法性 | 給付の内容が 公序良俗に反しない |
覚せい剤の売買は 債権が成立しない |
可能性 | 給付が実現可能 | 「流れ星を売る」という 債権は成立しない |
確定性 | 給付が確定している | 費用や物を明確に決める |
成立要件が守られていないと、債権者および債務者の取引に不安が生じるでしょう。そのため上記3つが守られていない債権は、はじめから成立しないと解釈します。
債権の種類
債権にはさまざまな種類が存在します。民法でも種類ごとに規定があり、扱い方も異なります。ここでは、特に重要な債権について紹介しましょう。
金銭債権
金銭債権は、読んで字のごとく「お金」を用いた債権です。お金は、日常における取引でも積極的に使われます。
日本で使われているお金の単位は「円」ですが、世界共通で使われているわけではありません。したがって特定のルールがない限りは、民法上でも外国の通貨を使用してもよいとされています。
一方でお金の中には、世間にも全然知られていない仮想通貨の銘柄などもあります。こうした銘柄が通貨としての効力がない場合は、当然ながら債務の履行に使用できません。
種類債権
種類債権とは、一定の種類あるいは数量を引き渡す債権のことです。例えばダンボールに詰め込まれてある缶詰から、テキトーに10個引き渡す取引が該当します。
種類債権は、契約の段階では数量しか指定されていません(缶詰10個など)。しかし引き渡す際には、目的物を特定する必要があります。
これを種類債権の特定と呼びますが、どのタイミングで発生するかは債務の内容によって異なります。少し踏み入った内容にはなりますが、各債務に分けて特定されるタイミングを紹介しましょう。
持参債務と特定
持参債務は、債務者自らが債権者のもとへ目的物を持参する方法です。弁当屋さんに弁当を数個注文し、自宅までデリバリーしてもらうケースが該当します。
持参債務で種類債権が特定されるタイミングは、債権者の住所で目的物を実際に提供したときです。実際に目的物を渡す行為は、現実の提供と呼ぶので併せて覚えてください。
取立債務と特定
取立債務は、債権者が目的物を取りに行く債務です。例えば弁当屋で弁当を数個注文し、客側が店に訪問したうえで債務を履行する状況が該当します。
取立債務の場合、種類債権が特定されるのは債務者が目的物を分離し、債権者に通知したときです。つまり「弁当が用意できました」と連絡を入れた時点で、種類債権が特定されたと判断します。
送付債務と特定
送付債務は、債権者の住所地以外に物を届ける債務を指します。この場合は、通常時と債務者の好意で送付されるケースに分けて考えないといけません。
通常時であれば、種類債権が特定されるタイミングは「履行地に目的物を送り、履行の提供が完了した」ときです。一方で送付債務が債務者の好意で行われた場合は、「発送した時点で特定される」と考えます。
選択債権
選択債権とは、複数の給付の中から特定の種類を選ぶ方法です。例えば3台ある車の中から、どれか1台を選ぶといった取引が該当します。
選択権を持つのは、特に合意がないのであれば債務者です。ただし、基本的にはお互いが相談し合って決めます。
また車が故障したなど、給付の中に不能があるケースもあります。選択権を有する人の過失により不能となった場合は、残部から目的物を選ばないといけません。
一方で、選択権を持たない人の過失の場合、目的物は特定されません。このケースでは、不能となった目的物をあえて選ぶことも可能です(相手は修繕するか、同一の物を持ってくる)。
利息債権
利息債権は、利息の支払いを求める債権のことです。利息債権には、大きく分けて「基本権たる利息債権」「支分権たる利息債権」の2種類があります。
利息の内容に触れつつ、どういった種類があるかも解説しましょう。
利息=存続期間分の対価
利息とは、元本が存続する期間に付随する対価を指します。皆さんも、普段の生活で銀行を利用しているはずです。銀行で預金をしていると、利息が振り込まれます。
利息は「いつも当行を利用してくれてありがとう」という銀行からの対価です。金額については、法定利率と約定利率のいすれかで算定されます。
法定利率は、民法第404条に定められる利率のことです。原則として年3%に設定されますが、年3回の頻度で細かく見直されます。
しかし民法では原則として「契約の自由」が採用されています。契約の内容によっては、年3%より高い利率を設定することも可能です。
こうした契約によって決まる利率は、約定利率と呼ばれています。
基本権たる利息債権
基本権たる利息債権とは、一定期間ごとに一定の利息を発生させる債権です。主な特徴として、元本に対して付従性と随伴性を有している点が挙げられます。
付従性とは元本の発生や消滅に併せて、利息が現れたり消えたりすることです。随伴性は元本が第三者に渡ったとき、利息も一緒に付いてくる状態を指します。
付従性と随伴性については、以下の記事でも詳しく解説しています。民法の勉強では必須の知識となるため、こちらの内容もしっかりと押さえてください。
支分権たる利息債権
支分権たる利息債権は、基本権たる利息債権に基づいて生じる利息債権です。元本ではなく、あくまで基本権たる利息債権が存在することで発生します。
定義が分かりづらいので、具体例を用いて説明しましょう。
例えば、Aさんが元本10万円を甲さんから借りたとします。契約の内容として、Aさんは1年経過後に利息を払わないといけないと考えてください。
しかし1年経過したあと、甲さんは利息債権を乙さんに譲渡したと仮定します。つまり2年後以降の利息債権については、乙さんが権利を有している状態です。
一方ですでに発生している1年分の利息債権は、甲さんが有します。この1年分の利息債権が、支分権たる利息債権です。
支分権たる利息債権もまた元本がなければ発生しないため、付従性を有しています。しかし乙さんに債権譲渡したあとも、1年分の利息は甲さんのものです。したがって支分権たる利息債権は、随伴性を有していないことがわかります。
債権の種類を一覧でおさらい
最後に債権の種類を表でまとめましょう。
債権の種類 | 定義 |
---|---|
金銭債権 | 金銭でのやり取りを目的 |
種類債権 | 一定の種類・数量を引き渡す |
選択債権 | 複数の給付の中から特定 |
利息債権 | 利息の支払いを求める |
特に利息債権は、基本権たる債権と支分権たる債権といった専門用語も覚えないといけません。これらの定義を押さえ、問題文に出てきてもスラスラ読めるようにしましょう。