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限界費用価格形成原理とは?平均費用価格形成原理との違いを解説

産業の中では、初期費用が膨大にかかるものの次第にコストを抑えられる種類があります。ミクロ経済学では、費用逓減産業と呼ばれます。 

費用逓減産業のメリットは、顧客の数が増えると費用対効果を上げやすくなる点です。

今回は、このような産業に代表される限界費用価格形成原理をミクロ経済学の観点から紹介します。

平均費用価格形成原理との違いや図での表し方をしっかりと理解しましょう。

 

限界費用価格形成原理とは

限界費用価格形成原理とは、限界費用曲線と需要曲線で価格を決める原理のことです。定義をいきなり説明されても理解しにくいでしょう。そこで、実際に図も用いながら詳しく紹介します。

費用逓減産業の仕組み

まずは、費用逓減産業の仕組みをもう少し詳しく解説します。上述したとおり、初期費用に膨大なコストがかかる産業が費用逓減産業の定義です。

主な例として、鉄道事業やIT産業が挙げられます。鉄道事業を開始すると、列車や線路、駅などとあらゆるインフラを整備しなければなりません。

これらを全て準備するとなると、莫大なコストがかかるはずです。

しかし、一度整備してしまえば運営にかかるコストは必然的に下がります(駅のリフォームや列車の電気代など)。

費用逓減産業における価格を決める方式は、主に2つのパターンがあります。

  • 限界費用価格形成原理
  • 平均費用価格形成原理

これらの違いをしっかりと押さえるためにも、限界費用価格形成原理を正しく理解することが大切です。

図を詳しく分析しよう

限界費用価格形成原理を捉えるには、図についてしっかりと理解しなければなりません。以下の図をチェックしてください。

ミクロ経済学の費用曲線では、上図のように限界費用(MC)と平均費用(AC)が使われます。

限界費用とは、生産量を増加させる際に追加でかかるコストのことです。固定費は基本的に変わらないため、限界費用は原材料費や賃金が主に該当します。

平均費用は固定費も含めた全てにかかるコストの平均値です。収益が平均費用を下回ると、その企業には赤字が発生します。

この辺りの内容は、操業停止点と損益分岐点の内容でも触れているので下記の記事も参照するといいでしょう。

右肩下がりで描かれているのは、需要曲線(D)です。需要曲線は一般的に価格が下がると購入量も増えるため、右肩下がりに描かれます。

この限界費用曲線(MC)と需要曲線(D)の交点が、限界費用形成原理で設定した生産量および価格です。図にすれば、何となくイメージしやすくなるかと思います。

「MC=P」が成立する

限界費用価格形成原理ではMC=Pが成立します。つまり価格が限界費用と同額で設定されるときです。

この「MC=P」については、下記の記事でも説明したとおり完全競争市場が成り立っています。

完全競争市場が成り立つ場合は、パレート最適(最適な資源配分)も同時に達成される点も押さえてください。

これらの方程式を組み合わせれば、限界費用価格形成原理はパレート最適が実現できることが分かります。

最適な資源配分ができるのが、限界費用価格形成原理のメリットです。

政府の補填が必要になる

限界費用価格形成原理にはパレート最適を達成できるメリットがあるものの、赤字が生じるデメリットも存在します。同じく下図を見てください。

限界費用曲線と需要曲線の交点で価格を決めると、自ずと収入は平均費用には届かなくなります。

実際に生産活動を行ううえでは、固定費も考慮しなければなりません。ただし、限界費用価格形成原理を基準にすると、長方形分の赤字が発生してしまいます

この赤字の部分においては、政府の補填が必要です。補助金を貰うなどして、赤字分を補わなければなりません。

企業が政府からの補助金を頼りにしすぎると、自立の精神を削いでしまうデメリットも現れます。

企業の自発性を考えた場合、限界費用価格形成原理を盲信しすぎるのは良くないのかもしれません。

 

平均費用価格形成原理とは

限界費用価格形成原理のデメリット面を解消すべく、もう1つ存在している概念が平均費用価格形成原理です。

平均費用価格形成原理とは、平均費用(AC)と需要曲線(D)の交点で価格を決めるモデルを指します。同じく図を用いながら具体的な内容を解説しましょう。

図解で分かる相違点

平均費用価格形成原理について、限界費用価格形成原理との相違点を図で確認します。

まずは、先程紹介した限界費用価格形成原理の図解の再確認です。MC=Dの交点が価格になるため、以下のように長方形が描かれます。

この価格を指している辺を軸にして、下側が生産者余剰、上側が消費者余剰を指していることを押さえてください。

生産者余剰や消費者余剰に関しては、下記の記事でも詳しく紹介しています。

次に、平均費用価格形成原理の図を見てみましょう。ACとDの交点が価格になるため、生産者余剰と消費者余剰の関係も変わります。

しかし、生産量の位置がX_0からX_1に変化したことで、無駄になっている資源(死荷重)も発生してしまいます。死荷重の有無が、限界費用価格形成原理との大きな違いです。

赤字が発生しない

平均費用価格形成原理で価格を決めるメリットは、赤字が発生しない点です。限界費用価格形成原理とは異なり、固定費分もしっかりと考慮したうえで価格を決定しています。

生産活動に必要なコストはカバーできており、政府からの補助金を当てにする必要もありません。企業が補助金に頼ることがなくなる観点から見れば、平均費用価格形成原理で価格を決めた方が望ましいとも考えられます。

パレート最適が実現できない

一方で平均費用価格形成原理のデメリットは、パレート最適が実現できない点です。

コストを高くしているものの、最終的な生産量は限界費用価格形成原理よりも少なくなっています。つまり、資源配分を行ううえで無駄(死荷重)が生じている状態です。

このように限界費用価格形成原理と平均費用価格形成原理は一長一短があります。

 

費用逓減産業の応用

限界費用価格形成原理と平均費用価格形成原理の違いを押さえたら、費用逓減産業の問題を解けるように練習しなければなりません。ここでは、応用として練習問題の解説をします。

MR(限界利益)との関係

費用逓減産業の問題では、たびたびMR(限界利益)を描いたグラフも現れます。このグラフも用いながら、何を指している図かを判断しなければなりません。

図から限界利益を捉える

例えば、以下の図を見てください。

公務員試験では、MRについて政府による価格規制がない場合の動きを捉えれば問題ありません。要するに、政府による市場介入がない状態です。

政府の価格規制がない場合は「MR=MC」の式が成り立ちます。この記載が出てきたら、MR=MCを示す交点を探しましょう。

そのあと、政府の価格規制がない場合の生産量と費用について求めます。生産量は、MR=MCを表す交点のX座標です。図では、X_1と示しました。

一方で、価格はあくまでX_1における需要曲線上の部分が該当します。図ではP_1と示した値です。

利潤を求める

MR=MCの部分を用いて、利潤を求めるのも可能です。利潤は、収入から支出を引いて残った部分が該当します。以下の記事で詳しくまとめているのでチェックしてください。

利潤を求めるには、収入と支出の範囲を正確に理解する必要があります。同じく、図を使いながら解説しましょう。まず収入に該当するのは、下図の青色の部分です。

一方で、支出は平均費用曲線上にある点bを基準に考えます。固定費と変動費の双方を考慮しているのが平均費用曲線であるためです。以上のケースを考えると、支出は下図の赤色の部分が該当します。

収入から支出を引いて求めることから、利潤に該当するのは紫色の範囲です。

費用逓減産業の計算

費用逓減産業は、計算問題も出題されます。1つ例を出しながら、主に利潤の求め方を押さえましょう。なお、ここでは以下の計算式を用います。

  • P=36−X(需要曲線)
  • CX^2(費用曲線)

政府の価格規制がない、限界費用価格形成原理の2つに分けて解説します。

政府の価格規制がない場合

政府の価格規制がない状態は、MR=MCで示されます。上記の2つの式を使い、MR=MCを作らなければなりません。

計算方法は「費用×生産量」です。限界利益は、この式で求めた解を微分すれば求められます。

費用(P)を書き換えたものが「36−X」です。つまり「36−X」に生産量(X)をかけ算すると利益が求められます。解は「36X−X^2」となるはずです。

あとは求めた解を微分して限界利益を出しましょう。限界利益は「36−2X」となります。微分の方法については、下記の記事を参照ください。

続いて、限界費用を求めます。費用(C)がX^2となるため、限界利益と同じく微分しましょう。計算すると、限界費用は2Xと求められました。

限界利益と限界費用が分かったので、最後に「MR=MC」の形に直しましょう。

「36−2X=2X」に直すと、Xの値は9です。P=36−Xの式に当てはめれば、Pの値は27と求められます。

収入は「費用×生産量」であるため、「27×9」で243です。総費用はX^2であるため、9の二乗で「81」となります。

「収入−費用」に代入すると、最終的に求められる利潤は162です(「243−81」)。

限界費用価格形成原理の場合

限界費用価格形成原理は、需要曲線と限界費用曲線が交わる特徴を捉えてください。需要曲線は「36−X」、限界費用は先程求めたとおり「2X」です。

「需要曲線=限界費用曲線」になることから、「36−X=2X」と式を直せます。計算した結果、Xは12と求まりました。需要曲線の計算式に当てはめると、Pの値は24です。

同じく、利潤を求めましょう。収入は「24×12」で288です。一方で、費用は12の2乗で144と求まります。「288−144」で利潤は144です。

政府の価格規制がない場合と比べると、利潤は16小さくなっていることが分かります。

 

まとめ

今回は、限界費用価格形成原理を中心に解説し、平均費用価格形成原理との違いについても取り上げてみました。

限界費用価格形成原理は「MC=P」が成立しており、パレート最適を達成している点が特徴です。しかし、赤字が生じるので政府の補填を必要とするデメリットもあります。

一方で平均費用価格形成原理は、赤字が発生しないために政府の補填が必要ありません。ただし、死荷重が生じることからパレート最適を達成できないのがデメリットです。

表でも分かりやすくまとめてみたので、ぜひ参考にしてください。

  限界費用価格形成原理 平均費用価格形成原理
メリット パレート最適を達成している 赤字が発生しない
デメリット 赤字が生じる パレート最適を達成できない