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資本ストック調整原理とは?伸縮的加速子や新古典派の理論を解説

投資関数で加速度原理とともに、押さえてほしい手法のひとつが資本ストック調整原理です。こちらは加速度原理と比べると、より現実的な考え方となっています。

資本ストック調整原理も、公式や背景を覚えることが大切です。新古典派の理論にも繋がるので、記事を参考にどのような理論かを詳しく解説しましょう。

 

資本ストック調整原理とは

資本ストック調整原理とは、前期から今期にかけて企業が資本を一定数増やしたいと考えても、全てが実現されないという前提で成り立つ理論です。

加速度原理では、資本係数に基づいて国民所得(生産量)を増加させるための投資の量を求めます。そこで計算された分は、全額が投資に回されると考えました。

加速度原理についてまとめたイメージ図

一方で、資本ストック調整原理ではたとえ最適な投資額を計算できても、企業が全てを投資に費やすとは限らないという立場に立ちます。

資本ストック調整原理についてまとめたイメージ図

加速度原理は投資額を簡易的に導き出し、資本ストック調整原理は現実的な企業の動きを捉えた説だと覚えてください。

 

資本ストック調整原理の公式

資本ストック調整原理も、加速度原理と同様に公式が存在します。

I_tλ(K_{t}−K_{t-1})

この公式について細かい内容を解説しましょう。

公式で使われる記号の解説

資本ストック調整原理の公式で使われる記号のひとつはλ(ラムダ)です。

こちらは物理の分野でもよく使われますが、マクロ経済学では「伸縮的加速子」と呼ばれています。わかりやすく言えば、今期に投資されうる分の割合です。

Kは資本ストック、Iは投資額を指します。さらにtは、今期を示す記号だと考えてください。

なお加速度原理で使われる公式が
I_tV(Y_{t}−Y_{t-1})でした。

式の形は似ているものの、資本ストック調整原理とはアプローチの仕方が全く異なります。

加速度原理の内容に関しては、以下の記事でも詳しくまとめているので参考にしてください。

資本ストック調整原理の背景

資本ストック調整原理が企業は投資額の全てを費やさないと考える理由は、機械などの導入には時間や費用がかかるためです。

いくら生産量を増やしたいといえども、その数に応じて簡単に機械を導入できるわけではありません。現実的には、さまざまな課題に直面します。

仮に生産量に応じて、最適な機械の数を導入できる場合はλを1と考えます。

一方で最適な機械の数が10台であるものの、現実的に8台しか揃えられない場合のλは0.8です。要するに、80%が投資されているのを示しています。

 

 

新古典派の投資

資本ストック調整原理は、新古典派の理論も支えています。マクロ経済学の根幹にもなるので、どのように結びつくかを押さえてください。

新古典派は利潤を重視

新古典派は、投資において利潤を重視しています。利潤はミクロ経済学では「収入−支出」で計算され、一般的に利益を指す言葉です。

新古典派の考え方では、利潤は以下のように計算されます。

π=PY−rK

Pは製品の価格、Yは製品の生産量を指す記号です。Kは先程と同じく機械などの資本の数だと考えましょう。

また企業によっては、資本を外部から借りるケースもあるはずです。そのレンタル料をrで表します。

製品の取引総額(PY)から資本のレンタル総額(rK)を引き算すると、利潤(π)が求められるとする考え方です。

ミクロ経済学の利潤に関しては、下記の記事を参考にしてください。

利潤最大化の計算

上記の式は、あくまで利潤について求めるための方法です。最適な資本量を知るには、利潤最大化の計算に基づく必要があります。

経済学で「最大」「最適」の言葉が出てきたら、迷わず微分すると覚えてください。この手順を知っておくだけでも、問題を解くスピードが格段に上がります。

ここでは、練習問題を1題だけ出して解説しましょう。

新古典派の投資理論の例題
資本の限界生産性との関係式が以下の場合、t期の最適資本ストックはいくらか。
MPK0.2K_{t}^{0.5}
なお利子率は4%、価格は2とする。

 

「π=PY−rK」の公式も活用しつつ、どのように計算すればいいかを考えてみてください。

最適資本ストックの考え方

まずは「π=PY−rK」の公式を用いながら、最適資本ストックをどう導き出すかを解説します。ここでは利潤最大化を求めるべく、利潤(π)を資本(K)で微分します

やや複雑ですが、公式を微分した式に変形してみましょう。すると以下のように計算されます。

π=PY−rK

\dfrac{⊿π}{⊿K}\dfrac{⊿(PY−rK)}{⊿K}

\dfrac{⊿(PY−rK)}{⊿K}をさらに変形してみましょう。

P×\dfrac{⊿Y}{⊿K}−r

また利潤最大化の式に直した場合は、右辺を0と置くのも決まりのひとつでした。この条件に当てはめた式がこちらです。

P×\dfrac{⊿Y}{⊿K}−r=0

P×\dfrac{⊿Y}{⊿K}=r

\dfrac{⊿Y}{⊿K}は資本の限界生産性、P×\dfrac{⊿Y}{⊿K}が資本の限界生産性の価値です。

要するに資本の限界生産性の価値=利子率に直すことが、最適資本ストックを求める方法となります。

もし理屈が理解しにくい場合は、最適資本ストックを求める方法が「資本の限界生産性の価値=利子率」になることだけを覚えましょう。

例題を実際に問いてみよう

ここから例題の解説に移ります。まずは、左辺となる資本の限界生産性の価値を求めなければなりません。

P×\dfrac{⊿Y}{⊿K}の式に合うよう、問題を整理してみましょう。

価格は2であり、資本の限界生産性は問題文を微分した式です。問題文のMPKをKで微分すると、以下のように求められます。

MPK0.2K_{t}^{0.5}

0.2K_{t}^{0.5}=0.04

\dfrac{0.2}{√K}=0.04

\dfrac{0.2}{0.04}=\sqrt{K}

\sqrt{K}=5
K=25

 

 

資本ストック調整原理の例題

最後に資本ストック調整原理の例題も紹介します。せっかくなので、上記で求めた最適資本ストックである「K=25」はそのまま使いましょう。

前期の資本ストックは10、伸縮的加速子は0.2と考えます。この場合の資本ストック調整原理の答えを求めてみてください。

問題を解くときのポイント

こちらの例題については、最適資本ストックを求める問題と比べたら難しくはありません。以下の公式に適切な数字を代入し、今期の粗投資を導き出すだけです。

I_tλ(K_{t}−K_{t-1})

ただし実際の公務員試験の問題では、最適資本ストックと合わせて解く必要があります。公務員試験の中でも、難題として扱われる内容です。

こうした問題もしっかりと解ければ、マクロ経済学においては国家総合職レベルに匹敵します。より高いランクを目指している人は、ぜひチャレンジしてみてください。

例題の解き方について

I_tλ(K_{t}−K_{t-1})の式に、例題で書かれている条件を代入しましょう。

今期の最適資本ストックは25であるため、K_{t}は25とします。続く、前期の資本であるK_{t-1}は問題文から10です。

伸縮的加速子は0.2とあることから、λには0.2が入ります。これらをまとめると、資本ストック調整原理の式は以下のようになりました。

I_t0.2(25−10)

計算した結果、今期の粗投資としてふさわしい額は3となります。

 

資本ストック調整原理の要点を整理しよう

今回は、投資関数より資本ストック調整原理の内容を解説しました。

加速度原理と比べて、極めて現実的な考え方に基づいている点をまずは押さえてください。

公務員試験では、新古典派の理論を使って最適資本ストックを求める問題が出題されるパターンもあります。

「最適」や「最大」が出てきたら、迷わず微分を使うことも再度押さえておくようにしましょう。