一橋大学院生を中心に、奨学金帳消しプロジェクトが密かな話題となっています。しかしSNSでは「借りたお金くらい返せ!」と批判的な声が少なくありません。
実際問題、奨学金は数ある貸与制度の中でも非常に優しく設計されています。奨学金帳消しプロジェクトの概要を押さえつつ、奨学金における便利な返還猶予制度を解説しましょう。
奨学金帳消しプロジェクト
奨学金とは、大学や大学院へ進学するための費用として貸与・給付されるお金のことです。債権者は、主にJASSO(日本学生支援機構)であるのが多いと思います。
2024年あたりから、貸与型の奨学金を廃止させようという動きが広まりました。この理念を下に生まれたのが奨学金帳消しプロジェクトです。
奨学金帳消しプロジェクトを生んだ背景
奨学金帳消しプロジェクトは、なぜ突然生まれたのでしょうか。この背景には、さまざまな経済的要因があると想像できます。
大卒の手取りも厳しい
まず奨学金帳消しプロジェクトが生まれた要因として挙げられるのが、大卒でも手取りが少ない人が一定数いる点です。
大学を卒業したからといって、誰もが大企業に就職するわけではありません。あえて中小企業を狙ったり、実家の家業を継いだりする人も少なからずいるでしょう。
私自身も、大学の卒業者全員が大企業や公務員に就職するのが望ましいと思いません。職業選択の自由がありますし、そもそも職業に貴賤など存在しないと考えているためです。
ただし手取りが少ないことで、奨学金の返還に手が回らない人もいるのが現実です。業界によっても単価が決まっているため、単純に本人の能力ともそこまで関係しないのが難しいポイントです。
物価高騰が続いている
今の日本では、食料価格やエネルギー価格を中心に物価の高騰が続いています。賃金も物価に伴って上昇すれば問題ないですが、国民全員に反映されていないのが現状です。
そのため価格だけが高騰してしまい、結果的に人々の生活を苦しませています。生活費を賄うのに精一杯で、奨学金まで手が回らない方も一定数いるのは頷けます。
学歴社会が拭えていない
奨学金帳消しプロジェクトが誕生した背景には、学歴主義の信仰も挙げられるでしょう。日本全体の大卒者は約50%ですが、小さい社会になると大学卒業がマストみたいな風潮もあります。
決して大卒者が偉いわけではないものの、こうした風潮を拭えていないのも現実です。無理して大学に進学し、多額の奨学金を背負った状態で社会人になってしまうのが一般化されています。
押さえたい!奨学金の返還猶予制度
奨学金帳消しプロジェクトのニュースを見ると、この制度が非常に厳しいものだと感じる人もいるでしょう。しかし数ある貸与制度の中でも、奨学金はかなり優しく作られています。ここでは返還猶予制度を紹介しましょう。
なお返還猶予制度の解説については、私のYouTubeでも詳しく解説しています。まだ見ていない方は、ぜひ以下の動画も参照してください。
減額返還制度
奨学金の返還猶予制度のひとつに、減額返還制度があります。こちらは月々の返済額を2分の1もしくは3分の1にできる制度です。
ただし3分の1の対象者は、平成29年度以降に第一種奨学金を借りた人に限定されているので注意してください。
減額返還制度は災害や疾病、経済的な理由により返還が厳しくなった人に適用されます。ただし奨学金をすでに延滞している人は利用できません。
返還期限猶予制度
奨学金には、返還期限猶予制度も適用されます。こちらは返還額を減らせるわけではありませんが、最長で10年分の猶予が認められる制度です。
この期間中は利子が増えないため、返還者の負担も大きくなりません。
さらに返還がストップしても、ブラックリストに掲載されない点もメリットのひとつです。将来ローンを組むときやクレジットカードを作る際にも影響が出ないでしょう。
在学猶予制度
大学を卒業した人の中には、別の大学や大学院に進学する人もいるはずです。奨学金では、これらの学生のために在学猶予制度も設けています。
申請する際には、大学や大学院に通っているのを証明する「在学届」を提示しましょう。この期間は学生証割引の対象になり、映画館やカラオケを安く利用できるのも強みです。
ただし別の学校に通う分、最終的な返還額は大きくなります。将来しっかりと返すためにも、目的を持ったうえで進学の判断をしてください。
所得連動返還方式もある
平成29年度より第一種奨学金を借りている人に向けて「所得連動返還方式」も誕生しました。この制度は、所得に応じて毎年の返還額が上下するのが特徴です。
所得連動返還方式にもメリット・デメリットがあるので解説しましょう。
新卒の人にとって安心
所得連動返還方式のメリットは、手取りの少ない新卒にとっても返還しやすくなることです。所得が少ないうちは、生活費の支払いだけでも目一杯になるでしょう。
加えて一人暮らしをするとなると、生活にかかる負担はさらに大きくなります。所得連動返還方式は、所得が少ない段階での生活を支えています。
安定しない個人事業主もサポート
大学でマーケティングを勉強し、自らビジネスを立ち上げる人も一定数いるはずです。しかしビジネスの世界は厳しく、必ずしも結果を出せるわけではありません。
加えて年度によって、稼げるか否かも大きく変わります。所得連動返還方式であれば、稼げなかった年度について返還額を下げることができます。
収入源が安定しない個人事業主にとっても便利な制度です。
返還期限が間延びする
一方で所得連動返還方式には、返還期限が間延びするといったデメリットもあります。あくまで月々の支払いを調整しているにすぎず、返還額合計は基本的に変わりません。
収入が少ない時期に対応できるのは便利ですが、その分返還期限が長くなってしまいます。早く返還から逃れたい人は、苦しい時期でも定額で返すのがおすすめです。
機関保証しか利用できない
奨学金の場合、教育ローンとは異なり保証人を必ず付けなければなりません。定額タイプの場合は、人的保証と機関保証の2パターンを選べます。
人的保証は親族が保証人になるタイプです。基本的に父や母が保証人になる人が多いと思います。
一方で機関保証とは、保証機関に加入することで奨学金を受けるタイプのことです。親を関与させないメリットはあるものの、月々の返還額から保証料が上乗せされます。
所得連動返還方式については、機関保証しか利用できないので返還額は自動的に高くなります。所得に応じて返還額を上下できるとはいえ、保証料分の負担が出てしまうのがデメリットです。
定額と所得連動返還方式の選び方
個人的な見解にはなりますが、定額型と所得連動返還方式では「定額型」を選んだほうが無難かなと思います。なぜなら奨学金は、猶予制度が非常に優しく設計されているからです。
正直わざわざ所得連動返還方式を選ぶよりも、定額型で返したほうが何かと自由が利きます。月々の返還額も、そこまで高いものではありません。
どうしても返還が厳しくなったら、猶予制度を申請するようにしましょう。
奨学金帳消しプロジェクトへの私見
最後に奨学金帳消しプロジェクトに対する個人的な意見を述べます。
確かに給付型奨学金の門戸を広げ、大学進学に対する経済的な格差を縮めることは大切です。優秀な学生も見つけやすくなり、少なからず学問の世界にも良い影響を与えるでしょう。
とはいえ一度借りたものを返すのは、人として当たり前の行為です。実際に車や家のローンは、そう簡単に帳消しにはできません。
今後も、人生において大きなお金を動かすタイミングはあるはずです。奨学金は数ある貸与制度の中でも、比較的優しく作られています。お金を貸してくれたことに感謝しつつ、時間がかかったとしてもコツコツと返すようにしましょう。
奨学金の金利については、以下の記事でも解説しているので併せて参考にしてください。