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比較生産費説の計算を解説!リカードモデルの考え方とは

ミクロ経済学には、貿易を簡易的に分析する分野もあります。公務員試験で特に出題される内容が比較生産費説(リカードモデル)です。こちらの分野は、表の見方と計算問題を押さえなければなりません。

また、他にもグラフを使った問題も理解する必要があります。比較生産費説は、テキストの終盤に記載されるため、勉強が追いつかない人もいるでしょう。

基本的な計算方法や考え方を理解できるように、この記事で詳しく解説します。

 

比較生産費説とは

比較生産費説とは、デヴィット・リカードが唱えた国際貿易の基礎的な理論です。別称で「リカードモデル」とも呼ばれています。

複雑に形成される貿易を、単純化して分析する点が特徴です。基本的には2カ国間に限定し、2つの製品を輸出入する様子を示します。比較生産費説の仕組みを詳しく見てみましょう。

比較優位説について

比較生産費説を支える基盤となる理論が、比較優位です。こちらもリカードによって提唱され、アダム・スミスの唱えた絶対優位を修正したような内容になっています。

比較優位の内容について、ある例を出して説明しましょう。

皆さんも、天才物理学者であるアインシュタインをご存知だと思います。相対性理論を唱え、原子力エネルギー活用のきっかけを作った人物です。

学者であるアインシュタインは、日々研究した内容をレポートにまとめます。タイプライターのも誕生した頃で、彼はタイピングのスキルにも長けていたそうです。

ただし、研究とレポート作成を両立すると時間も上手く作れなくなります。そこで、アインシュタインは助手を雇いました。

とはいえ、助手は物理学の知識とタイピングスキルの双方で、アインシュタインに劣っていました。このときの仕事の割り振りについて考えましょう。

アインシュタインのような知識がある人物は、タイピングよりも研究の仕事に回ったほうが全体の利益が高くなります。余計な時間を作らないためには、たとえスピードが劣っても助手にタイピングを任せた方が効率的です。

このように、比較優位は無駄な仕事をなくす(機会費用をゼロにする)考え方に基づいています。

比較生産費説の前提

比較生産費説の問題を解く際には、以下の3つの前提を押さえる必要があります。

  • 各国は労働のみで生産活動を行う
  • 国際間の労働力の移動はできない
  • 財1単位生産する際の労働量を固定する

よく見られるのが、世の中の仕事には「工業」と「農業」しかないとするやり方です。相手国と比較した際に、どちらがより効率的に生産できるかを判断します。

例えば、日本の主な輸出品は自動車や半導体です。農産物に関しては、国内で採れないわけではないものの、輸入の方にシフトしています。

この現象も、掘り下げてみれば比較生産費説に関係します。問題を解く前に、簡単でいいので理論を把握することが重要です。

 

比較生産費説の計算方法

比較生産費説の理論を押さえたら、計算方法も勉強しましょう。計算自体は、そこまで難しいものではありません。しかし、理論と合わせて覚えていないと忘れてしまいます。

ここでは、比較生産費説の計算方法を理論に立ち返りつつ解説しましょう。

比較生産費説の表を見る

比較生産費説を計算する前に、まずは表をチェックしてください。ここでは、1つ例として以下の表を用意しました。

   農業   工業 
 A国  12人 10人
B国 6人 8人

A国では農産物を1単位作るのに12人、工業製品は1単位作るのに10人の人数を要します。つまり、A国が自国で生産するには農業の方が効率的です。

一方で、B国は同じように農業が6人、工業が8人の人数を必要とします。工業の方が少ない労力で生産が可能です。

B国は、A国と比べて農業や工業の双方において優れています。この現象は絶対優位と呼ばれます。B国の方が農業と工業を効率良く生産できますが、必ずしもA国と貿易しないわけではありません。

貿易するか否かを捉えるには、比較優位の原則に基づいて計算する必要があります。

比較優位の求め方

先程の考えを踏まえて、各国の比較優位を確認しましょう。まずは、それぞれの農産物の生産費用について見ていきます。

求め方は、
農業の労働投入量÷工業の労働投入量です。

この計算式に当てはめると、A国とB国の農産物の生産費用は次のとおりです。

A国: \dfrac {12}{10}

B国: \dfrac {6}{8}

A国は農産物を生産するのに1.2のコストがかかります。加えて、B国の場合は0.75です。農業に比較優位を持つのは、より安く(効率的に)生産できるB国です。

一方で、工業はA国の方が比較優位を持ちます。A国が工業製品を輸出し、B国は農産物を輸出するのが基本です。このように、各国が1つの生産物しか生産しない現象を完全特化と呼びます。

 

 

比較生産費説のグラフ

比較生産費説は、グラフを使って求める問題もよく出題されます。先程紹介した表の内容と合わせて覚えてください。ここでは、グラフのメカニズムについて詳しく解説します。

生産可能性曲線の見方

比較生産費説で描かれるグラフは、生産可能性曲線と無差別曲線です。ただし、公務員試験の問題では無差別曲線は省かれるケースもあります。無差別曲線の内容については、以下の記事をチェックしてください。

生産可能性曲線は、比較優位で求めた価格比を示したグラフです。一般的には、Y軸とX軸に接する形で右肩下がりに描かれます。下図を見ながらイメージしてみましょう。

生産量からグラフを作成

以下の表を使い、それぞれの国の価格比を求めてみましょう。表の中の数字は、先程とは違って財を表しています。

一般的に表の中は労働量の単位が記載されますが、問題によっては生産量の単位を示すケースがあります。

先程の表と内容を同じにするには、労働力の単位は生産量の単位の逆数と等しくなることを覚えてください。

   農業(財)   工業(財) 
A  \dfrac {1}{12}  \dfrac {1}{10}
B  \dfrac {1}{6}  \dfrac {1}{8}
生産可能性曲線を描く

図では縦軸に工業、横軸に農業と置きます。まずは、A国の生産可能性曲線についてです。

A国は \dfrac {1}{12} \dfrac {1}{10}が財の値となっています。この関係を押さえ、縦軸と横軸を1つの線で結ぶだけです。B国の示し方も同じように考えてください。すると下図のグラフが完成します。

青線で書かれている −\dfrac {6}{5} −\dfrac {3}{4}は、それぞれの生産可能性曲線の傾きを指しています。

ただし、実際の問題を解くうえではグラフの書き方よりも傾きの求め方のほうが重要です。その内容は、次の見出しで詳しく紹介しています。

交易条件を捉える

次に、それぞれの比較優位をグラフから導き出します。農業と工業について、それぞれをX(農業)とY(工業)に表しましょう。

その際に用いる概念が価格比です。A国とB国の財について \dfrac {P_Y}{P_X}の式に数値を代入してください。こうした式に置き換えることで、二国間が貿易を行う条件(交易条件)が分かります。

上の式に置き換えてみると、A国の価格比は \dfrac {12}{10}です。B国の価格比は \dfrac {6}{8}と表せます。先程、グラフから求めた傾きと同じ値です。

ただし、これらの価格比はあくまで貿易を行う前のものです。二国間で貿易を始めるには、お互いに値段交渉をしなければなりません。

言い換えると、それぞれ求めた価格費の範囲内で価格を設定する必要があります。

各数値の範囲を不等号を用いて表すと、 \dfrac {3}{4} \dfrac {P_Y}{P_X} \dfrac {6}{5}です(約分しました)。

価格がこの範囲に収まれば、お互いの国はそれぞれ貿易を行います。

交易条件の範囲を超えたら

交易条件の理屈を、もう少し掘り下げましょう。

上の話では、 \dfrac {3}{4} \dfrac {P_Y}{P_X} \dfrac {6}{5}の範囲であれば両国は貿易すると説明しました。

では、 \dfrac {P_Y}{P_X} \dfrac {6}{5}を超えるとどうなるでしょうか。

正解は、両国では貿易が行われません。なぜなら、どちらも工業に対して比較優位となるためです。

 \dfrac {P_Y}{P_X}は、シーソーの真ん中にある支柱をイメージしてください。

農産物の生産に比較優位を持つB国の生産費用は、 \dfrac {3}{4}です。

一方で、本来は工業に比較優位を持つA国が \dfrac {6}{5}となっています。

つまり \dfrac {P_Y}{P_X}の値が \dfrac {6}{5}を超えると、シーソーのバランスが崩れてどちらも工業に比較優位を持ってしまいます。

結果的に、どちらも工業製品の生産だけを行うので、両国間は貿易を行わなくなります。

この場合、正しい書き方が \dfrac {6}{5} \dfrac {P_Y}{P_X}です(A国より高いことを示せば、B国の数値を書く必要はない)。

交易条件の補足として、余裕があったら覚えてください(まずは基本的な形をマスターしましょう)。

単位が労働投入量の場合

続いて、同じ表ですが今度は単位を労働投入量(人)でグラフについて見ていきます。

   農業(人)   工業(人) 
A 12 10
B 6 8

基本的な考え方自体は変わりませんが、単位が異なるので数値の表し方に違いがあります。生産量は労働生産性÷労働投入量で求められます。

労働生産性の数字はわからないので、それぞれL_AL_Bと置きましょう。

この数字に労働投入量を割り算すると、A国の農産物量は \dfrac {L_A}{12}と求められます。

工業製品の生産量は \dfrac {L_A}{10}です。ここで下図をご覧ください。

先程と同じく縦軸には工業、横軸には農業と置きます。1次関数の式は「Y=aX」です。a(変化の割合)を求めるには、YをXで割り算する必要があります。

A国で表せば、 \dfrac {L_A}{10}÷ \dfrac {L_A}{12}です。最終的な答えは \dfrac {6}{5}となります。

B国も同じ要領で計算すれば、 \dfrac {L_B}{8}÷ \dfrac {L_B}{6} \dfrac {3}{4}となるはずです。

あとは交易条件に従えば、同じく \dfrac {3}{4} \dfrac {P_X}{P_Y} \dfrac {6}{5}が範囲です。

仕組みを詳しく解説したので複雑になりましたが、要するに表の中が「労働投入量」を指している場合は「生産量」の逆数を取ります。

したがって、価格比は \dfrac {P_X}{P_Y}です。細かいところですが、間違えないように注意してください(単純に12人÷10人と考えればOKです)。

 

まとめ

今回は、比較生産費説の計算や表およびグラフの読み方について解説しました。

比較優位の考え方は、ビジネスのみならずスポーツの世界にも通用する考え方です。誰をどのポジションに配置するかを比較優位に基づいて決めると、戦略にも良い影響を与えるでしょう。

比較生産費説を計算する際には、表やグラフの分析をマスターする必要があります。表の数値をよく読み取り、どちらの国がどの産業に力を入れるかを捉えましょう。

グラフは1次関数の考え方を用います。慣れない方は、簡単に中学校で習う関数の求め方を復習するのがおすすめです。