司法試験は、文系最難関との呼び声も高い国家試験です。合格すれば裁判官や検察官、弁護士を中心に幅広い仕事ができます。
ニュースを見たところ、改正により司法試験がパソコンで受けられるとのことです。
今回は、司法試験の制度改正を実際に受験経験のある筆者が解説します。
司法試験とは
司法試験は法曹になるための試験であり、基本的には誰でも受験できる点が特徴です(学歴問わない)。主な受験資格として、以下の3つが挙げられます。
- 法科大学院を修了する
- 法科大学院を1年以内に卒業見込み
- 司法試験予備試験合格者
大学で法学部出身の方は、法科大学院を出るのが一般的な流れかもしれません。しかし、法科大学院に通うには多くの資金を要します。資金に余裕のある人しか受けられないのは、公平ではありません。
そのため、司法試験予備試験の枠も設けています。こちらは、司法試験よりも科目数が多く、比較的基礎内容が問われる試験です。しかし、合格率は非常に低く難関試験には変わりありません。
司法試験の試験科目
司法試験は、試験科目が大きく分けて2種類あります。
- 短答式
- 論文式
それぞれの内容について記載しましょう。
短答式
短答式は、マークシート形式で出題される点が特徴です。司法試験の短答式の場合、科目は主に以下のとおりです。
- 憲法
- 民法
- 刑法
憲法は、それぞれの選択肢の正誤について求める問題が出されます。選択肢1〜4の全てで◯か✕かを答えないといけないため、完答するのは比較的大変です。
民法や刑法は、4〜5つの選択肢の中から正しい記述を選びます。刑法であれば、虫食い状態の判例に最適な用語を入れる問題もあります。
一般的には、70%以上の正答率が安全圏です(論文式も含め)。6割でも受かる見込みはあるものの、7割以上取れるように勉強した方がよいでしょう。
論文式
論文式は、ある事案に対して法律的にどう解釈するかを問う試験です。2023年時点では、基本的に万年筆で受ける試験となっています。論述式だけで3日にわたり、精神面も問われるのが特徴です(短答式と合わせて4日)。
論文式で出題される科目は以下のとおりです。
- 憲法
- 行政法
- 民法
- 民事訴訟法
- 商法
- 刑法
- 刑事訴訟法
- 選択科目
憲法〜刑事訴訟法までは、法律基本7科目と呼ばれています。筆者の記事でも、これまで何度か取り上げていますが、法律を覚えるうえで柱となる科目です。
一方で、選択科目は以下の8つが出題されます。
- 国際関係法(公法)
- 国際関係法(私法)
- 経済法
- 租税法
- 知的財産法
- 倒産法
- 労働法
- 環境法
論文式の場合は、試験中に司法試験用の六法が渡されます。その六法を頼りにしつつ、論理的思考力を生かして文章を作成しなければなりません。
日程的にも、腱鞘炎(けんしょうえん)的にも辛い試験です。
予備試験の内容
司法試験予備試験は、司法試験の受験資格を得るための登竜門です。こちらの試験に合格すれば、5年間のみ司法試験を受験できます(5年のうちに受からなかったら予備試験をやり直し)。
予備試験の受験内容は以下の3点です。
- 短答式
- 論文式
- 口述試験
それぞれの内容を簡潔にまとめましょう。
短答式
短答式は司法試験よりも科目数が大幅に増えており、法律基本7科目に加えて一般教養も含まれます。筆者は1回だけ予備試験を受験しましたが、特に商法が苦手でした。
合格に必要な点数は基本的に6〜7割と押さえておくとよいでしょう。筆者は5割程度しか点数が取れず、残念ながら短答式不合格となりました。公法系は8割以上取れたのですが、商法や民法が足を引っ張ってしまったのが敗因です。
機会があったら、また受験してみたいと思います。
論文式
司法試験(本試験)とは異なり、予備試験の論文式は短答式の合格者のみが受験できます。
論文式も、司法試験とは科目が若干異なります。法律基本7科目と選択科目が出題される点は同じです。しかし、予備試験になると法律実務基礎科目が出題されます。
また、司法試験と同じく選択科目が出題される点も特徴です。令和3年までは「一般教養」が採用されていました。令和4年から制度改正が行われ、一般教養は廃止されます。その代わりに選択科目が現れました。
法律実務基礎科目は大きく民事系と刑事系の2種類に分かれており、手続きの流れや準備書面、法曹倫理などが問われます。法律基礎科目と配点が同じであるため、こちらも力を入れて勉強しなければなりません。
口述試験
口述試験は、面接スタイルで試験官の問いに口頭で答える試験です。短答式や論文式よりは合格率が高いものの、落ちる人も一定数います。
この試験で落ちてしまうと、また短答式からやり直しです。試験内容は、法律実務基礎科目から出題されます。他の形式と同様に、入念な対策が必要です。
司法試験とパソコン
司法試験は、これまで筆記で受けるスタイルが基本でした。しかし、論文形式は3日かけて合計で約4万文字も書かなければなりません。肉体的にも、精神的にも厳しい試験です。
その負担を軽減すべく、2026年から司法試験にパソコンが導入されます。その具体的な内容について解説しましょう。
ニューヨークで導入済
小室圭さんのニュースで、アメリカの司法試験に注目した人もいるでしょう。ニューヨーク州ではCBT試験の導入が進んでおり、以前からパソコンによる受験が可能でした。
ちなみにアメリカの場合は、司法試験が州ごとに実施されます。仮にニューヨーク州で合格した人は、他の州では活動できません。連邦国家との違いが表れています。
インターネットは切断
司法試験でパソコンが配布されても、当然ながらインターネットは遮断されています。そのため、インターネットの情報を参考にするのは不可能です。
全てのことに几帳面な日本であれば、カンニング防止対策は徹底されるでしょう。
予備試験にも導入予定
パソコンは、司法試験本試験だけではなく予備試験にも導入される見込みです。予備試験も論文式は、非常に多くの文字数を記載しなければなりません。
パソコンの導入が進めば、受験者の負担は大きく軽減できるでしょう。
特に予備試験は法学部出身以外も簡単に受験できるため、門戸がさらに広がるのが予想されます(筆者も法学部を出ていない人間の一人です)。
パソコン導入の長所
法曹界では、司法試験のパソコン導入は全体的に歓迎ムードだそうです。IT化の波に乗りつつ、受験者の負担を減らすうえで賛同する方が多い印象です。
ここでは、パソコンを導入することによる長所についてまとめましょう。
修正が簡単になる
万年筆で論文を書くとなると、間違えた際の訂正が大変です。わざわざ二重線を引き、もう一度書き直さなければなりません。
誤りがなくとも、文章全体を書き直したいと思うケースもあるでしょう。パソコンで論文を作成できれば、文章全体の修正も簡単にできます。
パソコンの導入によって修正がしやすくなることで、論文の完成度もより高められます。
字の汚さで減点されない
3日の論文試験の中で、4万文字も手書きで作成するのは本当に過酷です。制限時間内に仕上げなければならないため、気持ち的にも焦って書いてしまうでしょう。
その結果、字が判別できず減点されるケースもあるようです。人間のテクニックの一つとはいえ、字の汚さが合否に繋がるのは負担も大きくなります。
パソコンが導入されれば、全員が等しくキレイな文字で論文を作成できます。余計な減点がなくなるのは、受験者も不安が少しは軽減されるはずです。
実務にも生かせる
実際の業務でもパソコンが基本的に使われます。書く作業よりも、タイピングスキルの方が実務としては問われるかもしれません。
弁護士も公式サイトを制作したり、Web上のコラムで発信し続けたりとIT化が進んでいます。顧客を効率良く探すには、パソコンの使用は避けられないでしょう。
その意味でも、司法試験でパソコンが導入されるのは、時代に即した良い変化だと思います。
パソコン導入の課題
一方で、司法試験でパソコン導入の準備を進めるうえで課題も何点か考えられます。
筆者は基本的にパソコンの導入は賛成です。むしろ積極的に進めるべきだと考えています。
しかし、課題から目を逸らすのも望ましくありません。ここでは、主に想像しうる課題を2点紹介しましょう。
高齢者が活用できるか
司法試験は、高齢者も数多く受験しています。30〜40年にわたり受験する人もいるでしょう。そのくらい、司法試験は難しい試験です。
ただし、高齢者の中にはパソコンの操作が苦手な方も一定数いると考えられます。若者であれば、タイピング操作は楽にできる人が多いはずです。一方で、高齢者にはパソコンに触ったことがない人もいます。
タイピングスキルの差によって、試験の合否に関わる可能性があります。可能であれば、パソコンか筆記かを選べるようにするといいのかもしれません。
機材トラブルへの対応
インターネット防止の関係もあり、機材は基本的に法務省側が貸し出します。点検もしっかりとすると思いますが、機材トラブルが一切ないとはいえません。
論文を作成していたところ、急にシャットダウンして電源が入らなくなる恐れもあります。無事に電源が点いたとしても、一から論文作成をやり直しになるケースも考えられます。
データを自動的に保管でき、機材を交換しても反映される仕組みが必要です。インターネットを経由しない専用回線を用いて、クラウドで保存できれば大きな問題にはならないかもしれません。
筆者も機材関係はあまり分かりませんが、常に最悪な事態を想定して準備に取り組んでほしいなと思います。
まとめ
今回は、司法試験が2026年からパソコンで受験できるニュースについて解説しました。今後も、試験の内容は大きく変わることもあります。
なぜなら、法律は社会の変化とともに姿を変えるからです。私たちも、その変化に上手く対応できなければなりません。
司法試験がパソコンで受けられれば、負担の軽減から門戸がさらに広がる可能性もあります。法曹界だけではなく、さまざまな業界で司法資格は活用できます。
パソコンの導入を積極的に進める判断は、個人的には大歓迎です。筆者も法律には興味があるため、気が向いたらチャレンジしようと考えています。