日本中の多くの企業が、業績を上げようと日々業務に取り組んでいます。しかし、企業さえ努力すればスムーズに事が上手く進むわけではありません。
外部の環境や自然災害によって、業績が下降するケースも当然のようにあるためです。ここでは、この現象を考慮した外部不経済について解説します。
外部不経済とは
外部不経済とは、市場の外部にある要素が経済状況に悪影響を及ぼすことです。仮に完全競争市場が実現できていても、外部不経済が起こるとパレート最適が実現できなくなります。
この現象が市場の失敗です。外部不経済の具体例として、以下のケースが該当します。
- 自然災害
- 公害
- 感染症
それぞれが、どう経済にダメージを与えるかを解説しましょう。なお、パレート最適について詳しく知りたい方は下記の記事を参照ください。
具体例①:自然災害
まず考えられるケースが、自然災害です。例えば、農業を営んでいる会社や個人が台風の被害に遭ったとします。
果物の木が折れたり、ビニールハウスが全て飛ばされたりと少なからず運営に影響が出るはずです。多くの農作物がダメになれば、売上にも悪影響が及んでしまいます。
自然災害は努力をしても、完全に防ぎれるものではありません。また地震や竜巻のように、いつ起こるか分からないタイプは予測しにくい怖さもあります。
災害とともに、天候不順も自然がもたらす外部不経済の一種です。
具体例②:公害
ほかにも、公害で外部不経済を引き起こすケースがあります。公害が日本の社会問題として広く取り上げられたのは高度経済成長期です。
特に四大公害病(四日市ぜんそく・イタイイタイ病・水俣病・新潟水俣病)が有名です。
とある企業の行為が公害を引き起こすと、業界全体に大ダメージを与えます。ときには社会を危機に陥れる場合もあると注意しつつ、日々の仕事に取り組まないといけません。
具体例③:感染症
感染症もまた外部不経済を引き起こす例のひとつです。直近のケースでは、新型コロナウイルスによる自粛要請が挙げられます。
新型コロナウイルスで特にダメージを負ったのは飲食業界や観光業、イベント業界です。これらの業界のダメージが波及し、経営に苦しんだ企業もあるでしょう。
人体の感染症のほか、サイバーウイルスも外部不経済を引き起こす危険性があります。場合によっては、会社全体のサーバーがダメになるので注意しなければなりません。
外部不経済に該当しない例
外部不経済に該当しない例が、競合企業の価格戦略です。例えば、自社と似た商品を扱っている企業が安売りを始めたとしましょう。
確かに競合他社で安売りが実施されると、自社の売上が落ちるケースは考えられます。顧客が競合他社に流れる可能性が高まるためです。
しかし、この例は経済全体に悪影響を与えているものではありません。自社には痛手になっているものの、反対に競合している企業は多くの顧客を集めているためです。
外部不経済は、あくまで業界および社会全体を捉えた概念です。定義を正しくイメージしたうえで、勉強を進めてください。
外部不経済の図解
外部不経済の問題は、図解から分析するパターンが基本です。消費者余剰や生産者余剰を正確に捉えなければならないため、難しく感じる人も多いと思います。
難解な用語をわかりやすく解説しながら、外部不経済の問題にチャレンジしましょう。
図の構造を捉える
外部不経済の図は、以下のようになっています。
まずは右肩上がりのグラフを見てください。2本の線が描かれていますが、これらの位置を正確に押さえることがポイントです。
2本の線の上側にあるのは社会的限界費用曲線(SMC)と呼びます。一方で、下側にあるのは私的限界費用曲線(PMC)です。
私的限界費用曲線は、企業側が負担する部分を表します。なお、今回は「ピグ−課税(政府が企業に課す税)」については考慮しません。
したがって、消費者余剰と生産者余剰は、私的限界費用曲線(PMC)を基準に考えるのが正解です。
ピグー課税を考慮した場合の生産量の決め方については、次回の記事で詳しくまとめたいと思います。
一方で、社会的限界費用曲線は社会全体が負担する部分を指します。社会全体でコストが発生したこととなり、死荷重が生じます。
もう1つ、右肩下がりに描かれている線は需要曲線です。これらの接点が、外部不経済を捉えるうえで重要な役割を担います。
社会的余剰の作り方
次に外部不経済のグラフから、社会的余剰の作り方を解説します。社会的余剰とは、社会全体の利益を合わせた概念です。
ただし、外部不経済は外部の要因が経済にダメージを与えます。すなわち少なからず経済には損失が発生しているはずです。この条件を踏まえ、利益分を導き出します。
消費者と生産者の余剰から求める
社会的総余剰(社会的厚生)の計算は、消費者と生産者の余剰を合わせる方法が基本です。外部不経済の場合は、この式から損失分をマイナスします。
社会的余剰(社会的厚生)=消費者余剰+生産者余剰−外部不経済の損失
以下の図から社会的余剰について求めてみましょう。上記で記載したように、ピグー課税は考慮しないものと考えてください。
まずは消費者余剰についてです。余剰は私的限界費用曲線をベースに考えればいいため、図の青線の部分が該当します。
一方で、生産者余剰は以下の赤線で描かれるはずです。
消費者余剰と生産者余剰の求め方はしっかりと押さえてください。
外部不経済の損失を求める
続いて、外部不経済の損失にあたる部分を紹介します。外部不経済は、本来ならば私的限界費用曲線で設定されるはずのコストが、公害などの影響で社会的限界費用曲線に引き上げられた状態です。
つまり、私的限界費用曲線(PMC)と社会的限界費用曲線(SMC)に囲まれた部分が損失部分に該当します。下記の図だと以下のように表せますね。
なお、生産量がXの位置にあるのは「外部不経済が生じているものの、政府が何ら規制しない状態」です。
企業に対して課税すると(ピグー課税)、生産量を示す位置が変わります。この内容は、別の記事にまとめたいと思います(少々お待ちください)。
余剰と死荷重を出す
最後に図から余剰と死荷重について求めます。基本的には、社会的余剰と外部不経済の損失を差し引きするだけです。
まずは、社会的余剰と外部不経済の損失が相殺される部分を見てみましょう。上図では、灰色の斜線で示した範囲が該当します。
次に、余剰として利益が残った部分を求めてください。該当する箇所は、外部不経済の損失が届いていない部分です。上図では、青色の斜線で表しました。
死荷重は、外部不経済の損失のみ示されている部分に当たります。上図では、赤色の斜線で表しています。
まとめ
今回は、外部不経済のグラフでの分析方法を具体例も用いながら解説してみました。
まずは、どの部分が余剰あるいは死荷重にあたるかをしっかりと押さえてください。
グラフを見るうえでは、私的限界費用曲線(PMC)と社会的限界費用曲線(SMC)の区別も重要です。
ピグー課税を一切考慮しない場合、社会的余剰(社会的厚生)は私的限界費用曲線(PMC)を基準に捉えます。
そこから社会的限界費用曲線(SMC)を見れば、外部不経済の損失が押さえられる仕組みです。