今回は、行政書士試験や公務員試験の民法でも得点源といえる、失踪について解説していきます。頻出度はそこそこ高いくらいですが、この範囲はパターンが決まっているので確実に押さえましょう。
ここで取り上げる内容は、普通失踪と特別失踪の違いです。失踪を取り消すときの方法も触れるので、行政書士試験や公務員試験の受験生は内容を覚えてください。
失踪宣告とは
失踪宣告とは、行方不明になった者(失踪者)を死亡したと扱い、財産や身分の関係を確定させる手続きです。家族の権利関係を決める重要な制度といえます。ここでは失踪宣告の意図と手続きの方法についてまとめましょう。
失踪宣告の意図
失踪宣告をする理由は、失踪者の家族の権利関係を明確に決めるためです。
一般的に家族の誰かが亡くなると、配偶者や子どもなどは推定相続人となり、財産を相続できます。結婚についても死別したら婚姻関係が解消され、配偶者は別の人と再婚することも認められます。
一方で失踪者の場合、明確に死亡したと判断できる状態ではありません。皆さんの知らないところで、ひっそりと生きている可能性もあります。
とはいえ、いつまでも「行方不明」として扱うと財産は分配されず、配偶者も長年にわたって再婚できなくなります。こうした不便さを解消すべく、ある程度の期間が満了した時点で死亡したとみなし、権利関係を確定させるのが目的です。
失踪宣告をする方法
失踪の効果は、条件が揃っても自動的に発動するわけではありません。失踪「宣告」であることからも、家庭裁判所に対して請求する必要があります。
請求できる人は、失踪者の利害関係人です。一般的には配偶者や子どもといった推定相続人、生命保険金の受取人が該当します。
ただし失踪者にお金を貸していた債権者や検察官は、利害関係人には含まれません。
普通失踪と特別失踪の違い
失踪には、大きく分けて以下の2種類があります。
- 普通失踪
- 特別失踪
公務員試験では、これらの失踪の違いをしっかりと押さえなければなりません。しかし、見分け方は極めて簡単です。公務員試験で出題されたら、ラッキー問題だと思ってください。
普通失踪
普通失踪とは、「不在者の生死が7年間明らかでない」状態を指します。家を出たと思ったら、そこから音信不通になるのが主な例です。
7年間の期間が満了したら、行方不明者は死亡したとみなされます。そうなると民法上も死亡扱いとなるため、遺産の相続も可能となります。
特別失踪
特別失踪とは、危難が発生したために行方不明の状態になることです。普通失踪と異なり、特別失踪を満たす要件は「危難が去ったあと、1年経過したとき」となっています。
一方で死亡したと認定されるのは、危難が去ったときです。要件と死亡したとみなすタイミングが異なっているため、行政書士試験や公務員試験ではたびたび引っかけ問題として出題されます。
「危難が去った後1年間過ぎたら死亡したとみなされる」と、誤った選択肢が現れる場合もあります。この選択肢を選ばないように注意が必要です。
普通失踪と特別失踪については、YouTubeでも詳しく紹介しているのでぜひ参考にしてください。
失踪の取消し方法
失踪の宣告を受けていた方が、無事に生きていたというケースも考えられます。失踪を取り消す際には、家庭裁判所に対して請求が必要です。
無事に取消しが認められても、すでに変動した法律関係を巡って、さらなるトラブルが発生する可能性もあります。
原則は元通りにする
失踪宣告が取り消されれば、原則として法律関係は元通りになります。はじめの状態にさかのぼり、そもそも失踪宣告がなかった状態として扱われます。
その理由は、失踪したと思われていた本人の利益を害さないためです。失踪宣告の効果は、失踪者を死亡したとみなしたうえで発動します。そのため生きて戻ってきたら、財産は全く残っていないケースも考えられるわけです。
こういった法律関係が元通りにならなければ、本人は今後の生活が苦しくなってしまうでしょう。「失踪した状態のほうがよかった」とならないように、法律である程度対策が講じられています。
善意の第三者との関係
原則として法律関係が元に戻るといえども、この場合に割りを食ってしまうのは善意の第三者にあたる人物です。
例えば、父親が7年以上も失踪していたため、父の所有していた不動産を売却しました。本来であれば「失踪の宣告が取り消されたら売買行為」も消滅します。ただし、何も知らなかった人がいきなり全ての行為を取り消されるのも納得いくはずがありません。
そこで民法は「善意の第三者」には取り消しの効力が及ばない旨記載されています。善意は「事情を知らない」状態を指す言葉であり、善人の意味ではないため注意しましょう。
もし、財産を貰っていたら当然ながらそれは返還します。しかし、返す財産は現に利益を受けている限度においてのみです。
現に利益を受けている限度
現に利益を受けている限度とは、利益が手元に残っている状態のことです。財産を確保していたら、もちろん利益は残っています。
では、お金を払って日用品を購入したら利益は残っていると判断されるのでしょうか。
正解は「◯」です。
お金は無くなっていますが、別の利益(日用品)として恩恵を受けています。つまり、利益自体を失ったわけではありません。
この考え方が「現に利益を受けている限度」です。
お金を浪費したときの考え方
浪費は「現に利益を受けている限度」にあたりません。お金をギャンブルで溶かしたら何も利益はなくなってしまうからです。浪費したお金に関しては利益がないため、返還の義務もないとされています。
なかには、浪費した分について返還しなくてもよいルールに、納得いかないと感じる方もいるでしょう。
しかし判断基準は「今、手元に利益が残っているか」であり、ギャンブルでの浪費はこの条件に当てはまっていません。感情的な話ではなく、あくまで理屈として捉えましょう。実際の試験でも、間違えないように注意してください。
悪意の第三者との関係
悪意の第三者の場合、民法32条2項の規定は適用されません。代わりに民法704条の対象となり、財産を得た場合は利息込みで返還しなければならないとされています。
民法全体でいえる考え方ですが、一般的に事実を知っていた悪意の人は保護しません。善意の第三者を守るのは、失踪宣告が事実であると信じていたからです。善意と悪意の考え方については、以下の記事でも詳しくまとめています。
通謀虚偽表示における第三者の関係|転得者が現れたケースも解説 - 【資格の教室】ヤマトノ塾
失踪に関するまとめ
失踪はそこまで覚える内容が多くありません。まずは、基本的な部分を勉強してください。ここで、押さえてほしいポイントは以下のとおりです。
- 普通失踪は7年間生死が明らかではない状態
- 特別失踪は危難が去ったあと1年間行方不明
ただし、特別失踪で死亡したと認識されるタイミングは「危難が去ったとき」です。このあたりを押さえていれば、苦労せずに問題を解けるでしょう。