公務員試験の民法で、出題頻度の高い分野のひとつが「意思表示」です。特に心裡留保・通謀虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫が出題されます。
この記事では、公務員試験受験生向けに瑕疵ある意思表示の内容を解説します。その中でも問われやすい部分を紹介するので、公務員試験を受けられる方は参考にしてください。
意思表示とは
意思表示とは、法律上の効果を発生させるために自らの意思をアピールする行為です。例えば「家を購入する」人の心理を分析すると、以下のように分けられます。
- 住んでいるアパートがボロい(動機)
- マイホームを購入しよう(意思)
- 住宅会社に相談しよう(表示意思)
- 住宅会社で手続き(表示行為)
このように〇〇したいという意思があり、それに基づいて法律行為をすることで民法上の効果が発生します。
意思表示に問題があるケース
通常、その人の意思に従ってなされた法律行為は有効です。しかし意思表示が正しく行われておらず、取引において問題が発生する場合があります。
意思表示に問題がある代表的なケースが以下の2点です。
- 意思表示の不存在
- 瑕疵ある意思表示
それぞれ何を意味するのかを解説しましょう。
意思表示の不存在
意思表示の不存在とは、表示行為に対して効果意思が一致していない状態のことです。
「本当は商品を売りたくなかった」「商品を間違えた」にもかかわらず、完了させてしまった法律行為が該当します。
効果意思に反して行われた行為が有効になるかは、意思主義と表示主義のどちらを採るかで異なります。ただし公務員試験ではそこまで覚える必要がなく、とりあえず意思の不存在という概念があることを押さえてください。
瑕疵ある意思表示
瑕疵ある意思表示とは、効果意思と表示行為が一致しているものの効果意思を生む過程に問題があることです。
「騙されて商品を買った」「売るように脅された」などが該当します。
意思表示の不存在の例
意思表示の不存在には、大きく分けて次の3つがあります。
- 心裡留保
- 通謀虚偽表示
- 錯誤
公務員試験では、全ての内容を覚えなければなりません。ただし優先して覚えるべき順番は「通謀虚偽表示→錯誤→心裡留保」と私は考えます。
それぞれの内容を詳しく説明しましょう。
心裡留保=冗談
心裡留保(しんりりゅうほ)とは、冗談のつもりで取引を進めてしまう行為です。
例えば「あそこに建っているマンションを売る」と冗談で言ったとしましょう。しかし表意者がそれを信じて準備を進めた場合、意思表示は有効となってしまいます。嘘をついた人物を守る必要はないためです。
相手側が「冗談であるのを知っていた」「知ることができた」場合は無効となります。一方で第三者は、表意者の真意を読み取るのは難しいでしょう。そのため法律行為が無効になっても、善意の第三者には対抗できません。
通謀虚偽表示|共謀
通謀虚偽表示の説明は少し難しいので、以下の画像を使いながら紹介します。
A郎くんは借金を抱えており、自分の住んでいる家が差し押さえられそうでした。このままでは、A郎くんは家に住めなくなってしまいます。
そこでB太くんに相談し、不動産売買を偽ることにしました。表向きはB太くんの家であるため、債権者は家を勝手に売却できません。しかし実際にはA郎くんが引き続き家を使用しています。
これが通謀虚偽表示でよく説明されるケースです。通謀虚偽表示はいわば関係者を「騙す行為」であるため、保護する必要性がありません。したがって原則は無効となります。
通謀虚偽表示に関する詳しい説明は、以下の記事でもしています。苦手な人は、こちらの記事も参考にしてください。
第三者が関わるケース
基本的に無効と扱われる通謀虚偽表示ですが、例外的に「有効」となるケースもあります。それがB太くんがA郎くんを裏切って、第三者(C助くん)に家を売却した場合です。
このときC助くんは、通謀虚偽表示で取引が行われたのを知らない必要があります(善意)。なお通謀虚偽表示上の第三者は善意でないといけませんが、無過失は要件とされていません。
さらにC助くんが悪意だったとしても、善意のD丸くんに転売した場合は取引が有効となります。なお第三者に該当するかは、これまでもさまざまな争いがありました。
表でまとめてみたので、こちらも併せて参考にしてください。
第三者 | 第三者にならない |
---|---|
一般債権者 転得者 |
相続人 賃借人 |
錯誤|勘違い
錯誤は「勘違い」と覚えておくと分かりやすいでしょう。例えば、「『こち亀の3巻』を購入したと思ったら、『2巻』だった」場合が該当します。
錯誤には、大きく分けて要素の錯誤と動機の錯誤があります。それぞれの区別が難しいのですが、試験でも問われる可能性があるのでしっかりと覚えてください。
要素の錯誤
要素の錯誤とは、意思表示そのものが錯誤に基づいていることです。加えて「重要性の高い錯誤」が要件のひとつとされています。
先程の「こち亀」の例では、3巻を購入しようと思っていた方は誤って2巻を手に取っています。2巻と3巻では中身が全く異なるので、重要性の高い錯誤といえるでしょう。もし、要素の錯誤があると認められれば取り消しができます。
なお錯誤はあくまで表意者本人を守る規定です。したがって基本的に取り消しは本人しかできません(代理人や相続人ができることもある)。
動機の錯誤
他方で動機の錯誤とは、表意者が意思表示した動機が事実と違っていた状態を指します。例えば「テーマパークができる予定だったので、その近くの家を購入したら予定が白紙になった」場合です。
「テーマパークができる」という動機には錯誤があったわけですが、家を購入した行為に関しては錯誤がありません。これが取り消せるかどうかですが、原則は取り消しできないとされています。
ただし動機の錯誤が発端でも、後に「要素の錯誤になり得る」場合は取り消しできることもあります。こちらは引っかけとして出されやすいので注意してください。
錯誤と過失の取り扱い
錯誤に該当しても「表意者の重大な過失(重過失)」に該当したら取り消しできません。重過失とは、一般の人なら簡単に見つけられる過ちを指します。
先程の「こち亀」の例においても、重過失と判断されたら取り消しできなくなります。
また錯誤の取り消しは、善意無過失の第三者に対抗することはできません。通謀虚偽表示と異なり、第三者は「無過失」も要件となる点に注意しましょう。
瑕疵ある意思表示
瑕疵ある意思表示には、詐欺と強迫の2種類があります。
詐欺は日常生活でもよく聞く、相手を騙す行為です。強迫は相手に強要する行為を指し、刑法において「脅す」意味で使われる脅迫とは区別されます。
一般的に詐欺も強迫の被害に遭った人は、意思表示の取り消しが可能です。しかし第三者が現れた場合は、扱いが異なります。
詐欺と第三者
例えばAはBに騙されて、自分のネックレスを売ってしまいました。Bはそのネックレスを詐欺の事実を知らないCに譲渡します。この場合、AはCに対して返還は請求できません。
つまり詐欺の場合、善意・無過失の第三者には意思表示の取り消しを対抗できないとされています。その理由は、騙された側にも責任があるからです。
一方でCが詐欺の事実を知っていた、もしくは知り得たときは取り消しが認められます。なお「第三者」とは、意思表示の取り消し前に現れた人物に限られます。
強迫と第三者
今度はAがBに強迫されて、しぶしぶネックレスを売ったと仮定します。そのネックレスがCに渡されたとき、たとえCが善意無過失でもAは意思表示の取り消しが可能です。
強迫は詐欺とは異なり、表意者を恐怖に陥れて思うがままに操るといった側面があります。表意者には非の打ちどころがなく、善意無過失の第三者にも取り消しが有効となるのです。
ただし不動産の売買については、少し注意したい部分があります。具体的には取り消しが完了した後、登記をしなければ第三者に対抗できなくなる点です。
不動産の売買は、登記によって所有権をしっかりと証明できます。たとえ強迫の被害に遭っていても、意思表示の取り消し後は危難から逃れられているため、登記をする義務は当然に発生します。
意思表示のおさらい
公務員試験では、意思表示の不存在と瑕疵ある意思表示がどちらも重要な内容となります。それぞれの言葉が出てくるよりかは、心裡留保・通謀虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫について問うパターンが多いです。
また意思表示は判例も多く、どの試験を受けるかで問題の難易度も変わることもあります。基本問題は確実に正解できるようにして、応用問題にも挑戦するのが望ましいでしょう。