行政書士試験や公務員試験では、婚姻に関する知識が問われることもあります。特に押さえたいのが、民法上の効果や無効・取消しについてです。
今回の記事では、婚姻すると夫婦間でどういった効果が働くかを解説します。行政書士試験や公務員試験を受験される方は、ぜひ記事を参考にしてください。
婚姻で生じる効果
婚姻とは、男女(日本の場合)が法律上の夫婦になることです。婚姻と結婚は同じ意味で使われますが、前者は法律上の手続きを指すのに対し、後者は社会的な文化を指します。
付き合っていた者同士が婚姻すると、夫婦となってさまざまな効果が生じます。どのような効果が得られるか、一般的な例について解説しましょう。
氏が同じになる
まず生じる効果が、夫婦の苗字(氏)が同じになることです。筆者は婿養子として婚姻したため、妻の氏になっています。未だに旧姓で書いてしまうクセがありますが、今の苗字も悪くないですね。
ただし日本では、これから選択的夫婦別姓を導入するかの議論が交わされています。議論の進み方によっては、夫婦同姓を定めた民法第750条も改正もしくは削除されるかもしれません。
同居・協力・扶助の義務が発生
婚姻をした夫婦は、特別な事情がない限りは同居する必要があります。お互いに協力し合い、扶助する(経済的に助け合う)のが民法752条で規定されている義務です。
とはいえ日本は転勤制度もあり、単身赴任で別居しているケースも珍しくありません。法律上は同居義務の例外として、単身赴任も想定しています。
なお民法第752条の義務に違反することを、法律用語で「遺棄」と呼びます。遺棄が悪質と判断されたら、離婚や慰謝料請求が認められることもあります。
夫婦間での契約を一方から取り消せる
夫婦間で結んだ契約については、いつでも一方から取消しが可能です。例えば夫が妻に対して、自動車を買ってあげると約束したとしましょう。仮に自動車の購入が難しければ、いつでも約束をなかったことにできます。
しかし婚姻が実質的に破綻している状態では、例外的に契約の取消しはできません。
財産の管理が分担される
夫婦はそれぞれの収入や資産を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担しなければなりません。「婚姻から生ずる費用」は、主に生活費や養育費のことです。
夫婦の一方が婚姻前から所有している財産は、特有財産と呼ばれています。仮に離婚となっても、特有財産は財産分与の対象にはなりません。一方で、どちらが所有しているか不明な財産については、共有していると推定されます。
日常の家事の連帯責任が働く
夫婦の日常家事については、連帯責任が働きます。例えば夫が電力会社と電気代の支払いに関する契約を結んだ場合、妻は原則として支払債務に連帯責任を負わないといけません。
ただし夫婦いずれかの行為が、日常家事の範囲を超えている場合、一般的に連帯責任は発生しません。一方が、不当に大きい負担を抱えさせられる恐れがあるためです。
とはいえ正当な利益を得たはずの第三者が、不利になってしまうのも不公平です。そこで日常の家事と信じたことに正当な理由があれば、表見代理の規定を類推適用して効果が発揮すると考えられています。
表見代理の内容については、以下の記事で解説しているので併せて参考にしてください。
表見代理の3つの種類|具体的な要件と法定代理との関係を解説 - 【資格の教室】ヤマトノ塾
婚姻の無効と取消し
一度婚姻を考えたものの、事情によって破棄となるケースもあります。主に無効と取消しの2種類がありますが、それぞれの違いについて解説しましょう。無効と取消しについては、以下の記事でも触れています。
無効と取り消しの違いとは?わかりやすく民法の定義を解説 - 【資格の教室】ヤマトノ塾
婚姻の無効の要件・効果
婚姻の無効の要件として、以下の2つが民法に規定されています。
- 夫婦間に婚姻する意思がない
- 婚姻の届け出を出さない
婚姻は、夫婦の意思が真っ先に優先されます。たとえ婚姻届を出したとしても、それがほかの目的を達成させるための手段にすぎなければ、無効となるのがルールです。
加えて婚姻届を出さないときも、婚姻が無効となる要件の一つです。筆者の場合は休日に婚姻届を出しました。特に連絡もなかったので、本当に受理されたか心配でしたね。
婚姻の取消しの要件・効果
婚姻は、以下の条件に該当すれば取消しが可能です。
- 婚姻適齢に達していない
- 重婚に該当する
- 近親婚に該当する
- 直系姻族・養親子間の婚姻である
- 詐欺や強迫に該当する
それぞれの条件について詳しく解説します。
婚姻適齢に達していない
現在の民法では、男女ともに18歳にならないと婚姻できません。成人年齢が18歳に引き下げられたため、成人にならないと婚姻できないようになりました。
しかし未成年のうちに婚姻した場合でも、その間に成人に達したら取消しはできないとされています。さらに本人たちであれば、適齢後も3ヶ月間は取消しが可能です(追認した場合を除く)。
重婚に該当する
重婚とは、すでに夫婦となっている者が、離婚していないのに別の人と結婚する状態です。二重に結婚しているので、「重婚」と呼ばれています。以前から婚姻していた配偶者だけではなく、後から結婚した配偶者も取消権を有します。
近親婚に該当する
直系尊属や直系卑属、兄弟姉妹との婚姻は近親婚に該当します。日本では、近親婚については認められていません。無効要因ではなく、あくまで取消し要因になる点に注意してください。
直系姻族・養親子間の結婚である
姻族とは、婚姻によって生じた親戚のことです。直系姻族となると、配偶者の親や自分の子どもの配偶者などが該当します。これらの者に対する婚姻も、取消し要因の一つです。
加えて養子縁組を結んだ場合、養親と養子間での婚姻も取消しの対象となります。ただし養子間や実子と養子との結婚は可能です。筆者は婿入り婚であるため、妻の両親から見れば実子・養子間の婚姻となります。
詐欺や強迫に該当する
結婚詐欺の被害も少なくないですが、詐欺によって成立した婚姻は取消しの対象です。一方で強迫により無理やり結婚させられた人も取消しが認められています。
しかし詐欺や強迫については、期間が設けられているため注意が必要です。詐欺を知ってから、あるいは強迫を免れたから3カ月を経過した場合、婚姻は適法に成立したとみなされます。つまり、3カ月が経過したら取消しできません。
ほかにも追認をすることも、取消しができなくなる要因の一つです。詐欺や強迫に関しては、以下の記事でまとめているので併せて参考にしてください。
意思表示とは|心裡留保・通謀虚偽表示・錯誤・詐欺・強迫 - 【資格の教室】ヤマトノ塾
婚姻の取消しの流れ
婚姻の取消しをするには、家庭裁判所に請求しなければなりません。請求できる人は、夫婦・親族・検察官です。
しかし婚姻適齢に達していない・重婚・近親婚・直系姻族婚・養親子婚の場合、どちらか一方が死亡したあとは、検察官による取消しが認められません。
婚姻の取消しは、将来に向かって効力を発揮します。婚姻によって財産を取得した一方は、現存利益のみ返還義務を負うのがルールです。
ただし取消しの要因を知っていた場合は、現存利益に限らず全ての財産を返還する義務を負います。相手方が善意(事実を知らない)ときは、損害賠償しないといけません。
再婚禁止期間の廃止
令和6年4月1日施行(令和4年改正)前の民法では、女性側に再婚禁止期間(離婚後100日間)が設定されていました。その理由は離婚後に出産した場合、すぐに結婚すると前夫と現夫のどちらの子かわからないとされていたためです。
もう少し詳しく説明すると、以前の民法では離婚後に生まれた子どもの父親を、以下の基準に基づいて判断していました。
- 離婚後300日以内に出生:前夫の子
- 結婚後200日経過してから出生:現夫の子
図にするとわかりやすいですが、この基準では100日の範囲で父親と推定する期間が重なってしまいます。
したがって父親をはっきりと判別させるべく、離婚後100日間は再婚を禁止していたわけです。
しかし100日間再婚できないため、その期間内に出産しても出生届を出さないケースが続出しました。結果的に戸籍のない子どもが増えたといった問題も抱えます。加えて科学の進歩により、DNA鑑定で誰の子どもか判別しやすくなったという側面もあります。
こうした背景を受けて、再婚禁止期間が廃止となりました。これまでは再婚禁止期間に反していたことも取消しの要因でしたが、現在では除外されています。
民法の婚姻に関するまとめ
男女の婚姻は、戸籍や実生活などさまざまな面で変化を生みます。夫婦間の契約の取消しといった権利も生じますが、義務も果たさないといけません。どういった効果が生まれるか、行政書士試験に向けてしっかりと押さえてください。
ほかにも婚姻は、条件に該当する限り取消しも可能です。特に再婚禁止期間の内容については、変更となったばかりなので今後も狙われる可能性が高いでしょう。憲法の内容にも直結するため、定期的に復習することをおすすめします。